八条学園怪異譚
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第五十五話 百鬼夜行その十八
「そうしよう」
「あっ、宴会だから」
「百鬼夜行の後の」
「そうそう、だからね」
「今は、なのね」
「飲むのね」
「お酒はたっぷりあるしね」
鉄鼠はここで前足をぽん、とやった。すると彼の周りに多くの鼠や兎、すねこすり等小動物系の妖怪達も出て来てだった。
彼等が杯や瓢箪を出して来た、そして杯に瓢箪から出る酒を注ぎ込み皿に乗せられた様々な肴達も差し出してきてだった。
鉄鼠は二人にこう言ったのだった。
「飲もうよ」
「ええ、それじゃあね」
「今はね」
「話は明日するよ」
今日ではなく、というのだ。
「絶対にね」
「明日ね」
「明日なのね」
「今日は飲んで騒ぐことに専念しようよ」
宴だからだというのだ。
「そうしようね」
「飲む時は飲まないと」
横から口裂け女が出て来て二人に言って来た、マスクの上の切れ長の目がにこにことしている。
「楽しくないよ」
「そうね、それじゃあ」
「今から」
「飲んで飲んで」
「それで楽しんで」
鼠や兎達も言ってくる。
「さもないと楽しくないよ」
「人生自体がね」
「人生っていうと何かね」
「凄く重いものに聞こえるけれど」
二人は兎の一匹の言葉にふと言った。
「ただ飲むだけだから」
「そこまで言うと」
「まあ人生っていうと極論だけれどね」
その兎もその辺りは認めた、見れば茶色の毛の野兎である。どうやら学園内の動物園にいる野兎のうちの一匹らしい。
「けれど飲むのならね」
「飲んで楽しむべきね」
「そういうことね」
「そうだよ、実際にね」
野兎は後ろ足で立ったまま周りを見回して二人にまた言った、二人も野兎に合わせて周りを見てみると。
その周りもだ、かなりだった。
「飲んでるじゃない」
「確かにね」
「早速ね」
「そう、だから二人も飲んでよ」
あらためて言う野兎だった。
「そうしてね」
「それじゃあね」
「今から」
二人も応えてそうしてだった。
貰った杯の酒を飲む、そのうえで笑顔でこう言った。
「いや、いいお酒ね」
「美味しいわ」
「日本酒はこうして杯で飲むのがいいわね」
「最高よね」
こう話してだった。
さらに飲む、すると鼠達が空になった二人の杯にさらに入れてきた。
「空けたらまたね」
「飲んでね」
「あっ、有り難う」
「早速なのね」
「僕達も飲んでるしね」
「二人も楽しんでくれないとね」
言いながら注ぎ込んでくるのだった。
「さあ、それじゃあね」
「飲んでね」
「あと食べてね」
「肴も一杯あるから」
今度は皿の上に置かれた枝豆や豆腐が「出されてきた。
「さあ、食べてね」
「どんどんね」
「うん、それじゃあね」
「お言葉に甘えて」
「明日にでも来てよ、こっちに」
鉄鼠も飲みつつ二人に言う。
「わし等は動物園の兎コーナーにいるから」
「そこにモルモットやマウスとしているからね」
「あと兎小屋にも」
そうした場所にいるとだ、鼠や兎達も言ってくる。
「あとすねこすりさんは猫のコーナーに紛れ込んでいるけれどね」
「僕はそうなんだよね」
すねこすり自身もそうだと言う、見ればスコティッシュフォールドに似ている。
「大きいからね」
「ちょっと見たらそうよね、猫に見えるわ」
「スコティッシュフォールドとかマンチカンみたいよ」
二人もそのすねこすりを見て言う。
「皆他の動物の人達と一緒にね」
「ぱっと見てもわからないわ」
「まあわしは違うけれどね」
鉄鼠は前足を人間の手の様にして使って飲みつつ笑って言った。
「流石に」
「そんな大きな鼠いないからね」
「一メートル超えてるから」
二人は鉄鼠のその大きさを見て突っ込みを入れた。
「ヌートリアとかならともかく」
「普通の鼠でその大きさはないわよ」
「そうそう、だから普段は小さくなってるんだ」
鼠の本来の大きさになっているというのだ。
「それで暮らしているんだ」
「だからマウスやモルモットのコーナーに行けばいいのね」
「そこに行けば会えるのね」
「そうだよ、だから待ってるよ」
動物園のそのコーナーでだというのだ。
「楽しみにしているからね」
「うん、じゃあね」
「その時にね」
泉のことを話そうと決めてだった、二人は今は飲むことと食べることに専念した。百鬼夜行の時も泉は見つからなかった、だがそれでも二人は落ち込んでいない。
そうして次の泉の候補地、そこに向かうのだった。
第五十五話 完
2013・10・28
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