久遠の神話
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第八十三話 権力者その九
権藤は起き朝食を食べた。朝は妻が作ってくれた粥と少量の漬物だ。それを食べながら食事を共にする妻に言われた。
「今日は茶粥ですか」
「いいものだな」
茶粥についても満足している声で応える。
「幾らでも食べられる」
「有り難うございます、ですが」
「昨日の夜も粥でだな」
「朝もですが」
「構わない、私は朝は絶対にだ」
「私が作ったお粥ですね」
「それ以外は食べる気がしない」
実際にそうしている、他のものが出されても一切箸をつけない程徹底している。権藤は朝食を絶対に摂る主義だがそれはいつも妻が作った粥なのだ。
その粥を食べながらだ、彼は言うのだ。
「最高の馳走だからな」
「朝のお粥はですね」
「粥は馳走だ」
それは何故かというと。
「手間がかかっているものだからな」
「いつもそう仰いますね」
「粥を馳走と思わない輩はわかっていない」
何がわかっていないかというと。
「料理もこの世のこともな」
「手間をかけるものだからですね」
「手間をかけるものは馳走だ」
それがどういったものでもというのだ。
「だから粥は馳走なのだ」
「手間をかけて作らねばならないものであるが故に」
「私は朝最高の馳走を食してだ」
「一日をはじめられるのですね」
「そうする、今日もな」
「明日もですね」
「これからもだ」
宰相になってもだというのだ。
「そうしていく」
「では」
「今日も一緒に食べよう」
子供も一緒だ、家族団欒の朝だった。その朝からだった。
彼ははじめた、そして会社に行き。
そのうえで仕事をしていく、夜は与党の政治家達とも会う。
その中で刻限を待っていた、彼の刻限を。
しかしその彼にだ、あの声が問うてきた。
『貴方もですか』
「この戦いからか」
『はい、降りるおつもりですか』
「私は戦い自体には興味がない」
権藤は今自分の会社にいる、その社長室で己の席に座りながら仕事をしている。そこでサインをしながら言うのだ。
「全くな」
『だからですか』
「願いが適うのならば降りる」
彼にとっては戦いは日本の首相になりこの国を彼が思う理想の国にしていくことだ、それが適うのならというのだ。
「それ故にだからな」
『そうですか』
「それは貴女に言われてもだ」
『変えないのですね』
「私は私だ」
それ故にだというのだ。
「私は変えない、自分の考えを」
『では』
「止めるか」
『私は貴方達に戦ってもらわないといけないのです』
「彼に目覚めてもらう為にか」
『私は必ずです』
例えだ、何があろうともだというのだ。
『あの人に神なって頂きたいのです』
「その為にどれだけのことが起こったのか」
権藤は声、セレネーの声に対して批判めいた言葉をかけた。とはいっても声の方に顔を向けることはしない。
「私達は神話の頃より戦ってきたのだな」
『その中で幾度も倒れそして生き残ってきています』
「それを今も繰り返すのか」
『そうです、戦ってもらうのです』
「この戦いで彼が目覚めなかったらどうするのか」
あえてだ、権藤は声にその場合を問うた。
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