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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第67話 手料理と事の真相


~第56層・ロレンゾ~


 そして、シュミットを無事本部にまで何事も無く連れて行くことは出来たその後、56層の転移門前広場の大きめベンチに4人は座っていた。

「ねぇ……」

 レイナが重い口を開く。

「あの黒いローブの人……グリセルダさん、なのかな……? あのシュミットさんの怯えよう、見ちゃったら、私も、もう……」

 レイナの表情は暗い。それに続くようにアスナも答えた。

「そうよね……。それに目の前であんな事、2度も見せられたから、私もそう思えてくるよ。レイ……」

 レイナとアスナは そう思ってしまったようだ。

「……いや、絶対にない」

 リュウキの言葉は少ない。だが、完全にそれを否定していた。

「ああ、間違いなく、な」

 キリトも同様だった。

「「え?」」

 レイナとアスナは、殆ど同時にシンクロするようにこちらを見た。2人に習うように……というわけでもないが。キリトとリュウキも殆ど同時だった。

「同じならキリト。……答え合わせ、といくか?」
「ああ……、そうだな。多分同じだろうけど」

 キリトとリュウキは、そう示し合わせて答えた。

「「幽霊が転移結晶なんて使うわけが無い……」」

 2人は声を揃えて答えた。
 キリトの言うように意見は全く同じだった様だ。確かに、それを2人は目の前で見たのだ。あのフードの人物が結晶を掲げて転移するその瞬間を。あの人物は、ゲームシステムを使用してあの場から逃げ出した、それが何を意味するのか。

「それに、本当に幽霊なら逃げる必要、あるか?」

 リュウキは、逆にレイナ、アスナの方を見てそう問う。

「え……?」
「どう言う事?リュウキ君」

 2人はその意図がわからなかったようだ。
 リュウキは、一度目を瞑り……そして開くと答えた。

「圏内での、こっちの攻撃はまるで当然通じなかった。システム的に守られていた。……だが、あっちの攻撃が通じるというのなら、逃げずに向かってくれば、こちらを圧倒できる、だろ……? なのに、それをせず、転移結晶で逃げたんだ…。幽霊なら、絶対的優位な立場なのなら、その行動の意味が判らない」
「「!!」」

 2人は、リュウキの言葉に驚愕していた。いや、2人とも何処か判っていたんだ。だからこそ、あの場で、リュウキとキリトが飛び出した時。
 心底不安だったんだ。
 不死属性のプレイヤーが襲ってくるも同然なのだから。その手段は、睡眠PKより確実なもの。生命であるHPを一方的に削る事が出来る相手かもしれないから。
 でも、リュウキたちは逃げられたといって、無事に帰ってきた。凄く安心したから……忘れてしまっていたのだった。

「ッッ!転移……結晶……?」

 リュウキの言葉の中にあった、転移結晶と言う言葉に反応し、キリトは何かに気がついたように呟いた。

「……何かに気がついたのか? キリト」

 キリトを見ていたリュウキがキリトにそう聞く。だが、キリトはまだ考えが纏まっていないようで、首を左右に振った。

「いや……何でも無い」

 そう言うと、キリトは再び考え込んだ。彼の中でまだ、ピースが足りていない……という感じだった。
 
 それは時間にして数分事。

「はい」
「どーぞっ!」

 レイナとアスナの2人が、まるでさっきのキリトとリュウキの様に示し合わせ、2人は其々に包みを差し出した。
 アスナがキリトに。リュウキがレイナに。

「?」
「くれるのか……?」

 リュウキは一瞬何かわからなかったようだが。キリトは、すぐに判ったようだった。アスナたちが何かを渡そうとしてくれていることに。

「……この状況だったらそうでしょう? それとも何? 見せびらかせているとでも?」

 アスナは少しムッとしていた。

「もーっ! お姉ちゃん? そんな風に言わないのっ。ちょっと戸惑ってるだけじゃん? キリト君は」

 レイナは角を立てているアスナに指を立たせてそう言う。

「あ……っ、まあそうだけど! とりあえず!! はいっ!」

 アスナは、はっとして、言葉を濁しとりあえず、再び差し出すように手を伸ばした。

「あ……ああ、お言葉に甘えて……」

 キリトは、恐縮しながらもそれを受け取る。

「うんっ。よしっ! ……で、リュウキ君も。 いつまで待たせるの? 腕がだるくなっちゃうよ。」

 レイナは、腕をプルプルとさせていた。
 ……だが、冷静に考えれば、SAOで、そんな事にはならないと思うのだが。確かに現実世界ではそうだろう。現実でのノリで話をしているのだろうとリュウキは思い、レイナから差し出された包を受け取った。

「……ああ。ありがとう」

 リュウキは少し戸惑いながら、それを見た。そして、その紫がかかった色の包み、それを開いて見ると。中には《バケットサンド》が入っていた。

「あっ、そうだ。そろそろ耐久値が切れて消滅しちゃうかもしれないから急いで食べた方が良いよ?」

 レイナが、注意事項を説明する。食べる前に消滅したりなんかすれば、最悪だ。それは作った人も、食べる人も。

「ん? ああ」
「わ……わかった」

 そして、2人は殆ど同時に。

「「頂きます」」

 軽く会釈を言って、口に其々運んだ。

「!」

 リュウキは一口目で驚愕した。表情が明らかに変わった。それは、食べた事の無い味だったから。そう、言葉で表したら1つしかない。

「……美味い」

 第一声、それはリュウキからだった。

「わっ! ほんとっ??」

 レイナは、リュウキが呟いたようなその言葉を聞いていたようだった。身を乗り出してリュウキに聞く。

「……ああ、本当だ。……この世界に来て一番だな」

 リュウキも頷いた。事実、これまでに虚実を言った事は一度も無い男だから。頷くと同時に 目を見開いていたのだ。

「わっ♪」

 ガッツポーズをするレイナ。心底嬉しい……と言った様子だった。

「いや、本気で、本当に美味いぞ? いつの間に仕入れたんだ? 2人とも」

 キリトも同意見だったようだ。

「耐久値が切れるってレイも言ってたでしょ? こう言う事もあるかと思って朝から用意してたの」
「……ん~? お姉ちゃん?」
「…ッ! ほんとに、それだけだからね!!」

 顔を真っ赤にさせてアスナはそう叫ぶ。レイナとアスナは同じところに居住している。一緒に用意したのだろうと思う。

「まぁ……流石というべきだな」

 確かに食事をしなくても、大丈夫だ。だが、今回の様な頭を働かさなければ、答えに到達出来ない場面。食事は身体と心を休める為には必要なモノだと言う事は、レイナから教わった。
 だから、リュウキはそう言っていた。

 そしてキリトが更に聞いた。
 
「確かに……それで? これは何処から仕入れたんだ? こんなに美味いのは本気で初めてだから。教えて欲しいんだが……」

 キリトがそう聞く。すると……レイナはふふんっ! っと息を荒くして、リュウキを見ていた。

「……ん?」

 リュウキは、レイナのその意味がいまいちわからなかった様だ。その答えはアスナから返ってくる。

「それは……売ってない。お店のじゃない」

 アスナのその静かな一言。それを聞いてリュウキはレイナの言葉を思い出した。

『私とお姉ちゃんは、一緒に料理スキルも競っているんだよ?』

 それは、あの53層のあのNPCのレストランでの事だった。

「そうか、なるほど……」

 リュウキは続いてそのバケットサンドを再び頬張る。

「ね? ね?? どう? どうっ??」

 レイナはリュウキが思い出したことに気がついたようだった。だから、改めてリュウキに聞いた。

「……美味しい。以前の事、撤回するよ。見事だ」

 リュウキは素直に認めた。
 ≪必要の無い≫と考えていた言葉を素直に撤回したのだ。いや、元々もうそんな事は思っていなかった。あの層で、レイナと一緒に料理を食べた時、本当に楽しく……安らいだから。

「あはっ! でしょ♪」

 レイナは、リュウキのその言葉を訊いて、にっこりと微笑んだ。

「えっ? つまりこれって……?」

 キリトは、まだ判っていないようだ。この料理を作ったのが誰なのかを。

「……私だって料理くらいするの。レイと2人で」

 アスナが、はっきりとわかる様にキリトに説明をした。流石のキリトもそこまで聞いてしまえば判る。

「えー……あー………」

 キリトはまさかの手作り弁当なのだとは思ってもいなかった為、声が裏返っていた。

「そ……それはそのなんと言いますか……。いっそのこと、オークションにでも賭ければ大儲け……だったのにな? たははは………。」

 どうやら、頭の中ではまだまだ、混乱しているのだろうか。でも、折角作ってくれたものを売れば?なんていわれたら。

“むっ!”
“ギロッ!!”

 レイナ&アスナからキツイ視線と共に殺気が飛んで来た。

「ひっ!」

 キリトは当然ながら怯えてしまい、思わず弁当のバケットサンドを落としてしまった。すると、その衝撃で耐久値が殆ど無かったサンドイッチは、無数の硝子片となって、消え去っていった。
 
 リュウキは消え逝くバケットサンドを見て、次にキリトを見る。 

「……まぁ、今のはキリトが悪い、か?」

 今回ばかりはそう結論をつけていた。

「そうなのっ!せーーーっかくお姉ちゃんが、《キリト君の為》に作ったのに、そんな事いっちゃうんだからバチが当たったんだよっ! あーあ、無くなっちゃったっ!」

 レイナが腕を組みそう大きめの声で言う。アスナにとっては爆弾発言をだ。

「ちょおおおっ!!! れ、れ、れい!! なにいうのっ!」

 慌ててレイナの口を塞ごうと手を伸ばすが。

「あはっ! いいじゃん♪いいじゃん♪」

 それを巧みに回避するレイナ。楽しそうにはしゃぐ2人。……本当に仲の良い姉妹だ。

「やれやれ……、ん?」

 リュウキは、微笑ましくもあるその光景を苦笑いしながら見て残りのサンドイッチを食べていた時。
キリトの表情に気がついた。そのサンドイッチが砕けた場所を凝視していた。
 それは、消滅してしまったバケットサンドが、名残惜しい……と言った様子じゃないものだった。

「……どうかしたのか?」

 リュウキはキリトにそう聞いた。その表情に何か気になったようだ。

「ん?」
「あれ?」

 いつまでたっても、キリトからの返答の無い事に気がついた姉妹はキリトの方を向く。どうやら、その時リュウキ同様に気がついたようだった。

「どうしたのよ……?」

 レイナの言葉を聞いていないであろうキリトを見て少し複雑な思いのアスナがそう聞く。

「??名残惜しくしなくたって、お姉ちゃんに頼んだらきっとまた作ってくれるよ?」
「しっ……!」

 レイナがそう言ったその時、キリトは、抑える様にする。

「えっ?……ほんとにどうしたのっ?」
「……ああ! そうか、そうだったのか!」

 キリトのその声は、明らかに、何かに気がついたと言うモノ。
 さっき考えていた表情から答えが導き出された。そんな表情だと直感した。

「……わかったのか!? キリト。今回の事件。そのロジックが」

 リュウキがそう聞く。
 その声色、そして表情からよくわかる。真剣な表情をしているから。この世界において、キリトはいつもそう言う表情をする。
 攻略の時もそうだったからだ。長い付き合いになるリュウキにはよく解っていたのだ。

「ほんとっ? 何がわかったの?」

 レイナはリュウキの言葉を聞いて更にキリトに詰め寄るように聞いた。

「オレは、オレ達は……何も見えていなかった。見ているつもりで、何も見えていなかったんだ。違う、《違うもの》を見ていたんだ。」
「え……?」
「圏内殺人……そんなものを実現する武器もロジックも……最初から存在しなかったんだ」

 キリトのその言葉……それを聞いて、皆驚愕した。その恐ろしい方法をずっと考えていたんだ。
リュウキとキリトがあのローブのプレイヤーが幽霊なんかじゃない事を物的では無くとも納得のいく説明をしてくれた。だから、それ以外に方法があるってずっと思っていた。
 だが、キリトはそれが違う。根源から間違えていると覆したのだ。

「一体何を……っ」

 キリトに改めて聞こうとリュウキだったが、聞くのを止め考えた。否、考えを最初から改め直した。
方法が存在する。その先入観を捨てて、今の状況を思い出していた。

(キリトが地面に目を向けたのはなぜか……。それは、バケットサンドを落としてしまったからだ。でもそれは一瞬の事だ。そのバケットサンドが砕けて……飛び散ったとき。キリトはベンチから降り、地面を舐めるが如くにまで接近した。そう……食料が砕け……ッ!?)

 ある言葉に着目するリュウキ。それは、食料が砕けたと言う事。
 自分たちの目の前で耐久値が無くなって、青い硝子片となって四散したという事。あの程度の大きさの物だったから、小規模の物だったが、それが人間大の大きさであれば……?


「……ッ、そう、か。そう言う事……だったのか」


 リュウキの表情も一段階変化する……。

 事の真相。キリトが辿り着いたであろう答えにリュウキも辿り着いたからだった。




 
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