| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百五十二話 近江平定その十一

 その闇の中で蠢く様な声でだ、彼は言うのだ。
「ですから」
「告げるまでもないか」
「はい」
 その通りだというのだ。
「ご安心を」
「わかった、それではな」
 真ん中の声も頷いて答える、それでよいとだ。
「一時宮中から離れよ」
「では」
「伊賀者も呼べ」
「わかっております」
 また闇の中から別の声がしてきた。
「さすれば」
「うむ、しかしまだあ奴は動かぬか」
 真ん中の老人の声jはここで忌々しげに呟いた。
「松永め、どういうつもりじゃ」
「まだ動く時ではないと言っています」
「近江の時はそうでした」
「そしておそらく越前でも」
「加賀でも」
「これまでは我等の動きをしていましたが」
 それが今ではというのだ。
「どういうつもりでしょうか」
「織田家に入ってから妙な動きばかりです」
「ずっと織田家と一緒にいます」
「何を考えているのか」
「わからぬな」
 老人の声も言う、いぶかしむ声である。
「時は幾度もあったというのにな」
「金ヶ崎の時は織田信長を助けております」
「あの時こそ好機だったというのに」
「それが何故でしょうか」
「全くわかりませぬ」
「あ奴もわかっている筈ですが」
 その松永もだというのだ。
「我等の血は絶対です」
「それはあ奴も確かに言っています」
「ですから何時かは織田信長を裏切る時が来ると」
「あ奴こそが」
「あ奴は賢い」
 声はこのことは確かだと言った。
「それも相当にな」
「それで時を見ているのでしょうか」
「裏切るには最もよい時を」
「そうなのでしょうか」
「そう思うがな」
 老人は松永を信頼していないところがあった、それが言葉に出ていた。
 他の者達も同じだ、それで言うのだった。
「あ奴、血は絶対ですが」
「我等の血の絆は決して絶てませぬが」
「全く、どういうつもりか」
「何時まで織田家におるのか」
「三好家、そして将軍家の時はよく動きましたが」
「しかし織田家に入ってから妙ですな」
「あれではまるで織田家の家臣です」
 そうとしか思えなかった、彼等から見れば。織田家の面々から見れば松永は全くそうとは思えなかったが。
「そうであることを楽しんでいる様な」
「妙なことです」
「織田信長を気に入ったのでしょうか」
 ここでこう言う者も出た。
「まさかと思いますが」
「いや、それはあるまい」
「闇は日輪には決して入ることは出来ぬ」
「闇は光に消されるからな」
「だからな」
 松永が信長を好いているという考えは周りによって否定された、幾ら何でもそれはないだろうというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧