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戦国異伝

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第百五十二話 近江平定その九

 そのうちの一つがだ、言うのだった。
「近江でもしくじったか」
「はい、残念ですが」
「あの国でもまた」
「結局近江を乱すことは出来ませなんだ」
「収められてしまいました」
「そうじゃな、では近江もよい」
 この国もというのだ。
「伊勢も讃岐も三河もじゃがな」
「では近江もよいということで」
「それでは」
「次じゃ」
 近江、その次はというと。
「越前、そして加賀じゃ」
「わかりました、ではあの国に潜んでいる者達にですな」
「これまで通り」
「暴れさせよ、織田家の軍勢が来てもじゃ」
 それでもだというのだ。
「戦え、よいな」
「はい、それでは」
「このまま」
「あそこで止められればそれでよい」 
 信長、彼をだというのだ。
「しかし止められぬ場合はじゃ」
「やはり次ですな」
「そこで」
「次じゃ、今の戦では最後に摂津じゃ」
 この国でだというのだ。
「摂津の石山御坊においてな」
「仕掛けますか」
「最後は」
「うむ、ただ気をつけよ」
 何に気をつけよかというと。
「顕如は鋭い、我等に気付くやも知れぬ」
「我等が動いていることもですな」
「そのことに」
「そうじゃ」
 まさにそうだというのだ。
「元々我等は一向宗にとっても敵じゃ」
「親鸞の頃からの」
「それに他なりませんでしたな」
「親鸞は悪人正機と共に我等にも気付いておった」
 それでだったというのだ。
「法然然り日蓮然り」
「古代より高僧や陰陽師の多くもですな」
「我等に気付き戦いを挑んできました」
「安倍晴明もまた」
「そして侍達も」
「だからじゃ、顕如には気をつけよ」
 くれぐれもだというのだ。
「傍に操った者を置いても察して無意識のうちの遠ざけたしな」
「織田家と共に本願寺も何とかしたいですが」
「思い通りにはいっておりませんな」
「全くじゃ」
 中心の声は苦い声であった、そのうえでの言葉だった。
「一向一揆も起こしたことは起こしたが」
「それでもですな」
「門徒達は顕如が止めておりますので」
 無駄に死ぬなと止めているのだ、このことは彼等にとって非常に腹立たしいことであるのだ。織田家と殺し合って欲しいというのに。
「我等だけが戦をしている様なものです」
「所詮は影、数は幾らでも増やせますが」
「しかしただ無駄に戦をしているだけです」
「今は」
「これで織田信長を滅ぼせればいいがな」
 しかしだというのだ。
「顕如もどうにかしたいが」
「それがどうもですな」
「難しいですな」
「思い通りにいかぬわ」
 また話す彼等だった。 
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