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真剣で武神の姉に恋しなさい!

作者:炎狼
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意識

 千李と百代、鉄心は川神院の一室に集まり話をしていた。

「さて、お主等5月の末に東西交流戦があるのはもうしっとるな?」

「あれだろ、西の天神館とやり合うヤツだろ?」

「それぐらいは学校で聞いたって。で? それがどうかしたのジジイ」

「うむ、実は千李は出さんつもりだったんじゃが、天神館の学長の鍋島と話したところな。千李、お主も出られることとなったぞ」

 鉄心がいうと千李は頷き、百代は嬉しそうに笑みを浮かべた。

「やったな姉さん、一緒に出られるぞ!」

「そうね。まっ最終学年でのイベントだから楽しまなきゃ損よねぇ」

「ああ。天神館も本気だろうからな、こっちも手加減はなしだな」

 既にうきうき顔の百代に苦笑しつつも千李は鉄心に問うた。

「確か学年別だったっけ?」

「そうじゃの、一年は一年と、二年は二年と、三年は三年といった感じじゃ。気を抜くなよ? 今モモがいっとったがあちらも本気じゃろうからな」

「上等。それにあっちが本気ならこっちも本気じゃないと失礼だしね。んじゃ、ちょっと瑠奈の様子見てくるわ」

 千李は立ち上がるとそのまま部屋を後にした。百代もまたそれに続き部屋を出て行く。一人残された鉄心は髭を撫でつつ、

「うーむ……。思いのほか千李のヤツやる気になったのう。……これはちょいと天神館の生徒が心配になってきたぞ」

 孫娘が思いのほかやる気を出してしまったことに微妙な後悔の念を抱く鉄心であった。





 千李と百代は肩を並べながら川神院の廊下を歩いていた。行き先は瑠奈が勉強している部屋だ。因みに今は瑠奈に気の使い方を学ばせるための時間となっている。いわば精神修行の時間だ。

「そういえば天神館には二年に結構強いヤツらがいるらしいぞ姉さん」

「へぇ……。だとすれば、大和たちががんばるしかないわね。まぁでも二年生全員で戦うわけだからどうにかなるんじゃない? S組にはマルギッテやあずみもいるし、それにあの葵冬馬もいるわけだし」

「葵ってアイツか。確かアイツも大和と同じ軍師タイプだったな」

「戦力はそれなりに揃ってるし、後は大和がどう出るかにも期待って感じね」

 千李は口元を押さえながらクスクスと笑う。百代もまたそれに肩を竦めるが、面白そうに笑っていた。そうこうしている内に瑠奈が勉強をしている部屋に辿り着いた。

 二人はそっと障子を開けながら中の様子を眺めてみる。そこにはホワイトボードを使いながら説明するルーとそれを正座しながら聞いている瑠奈の姿があった。

「いいかイ? 気を使うということはそれなりに危険も伴って来るんだヨ」

「きけんって?」

「んーそうだネ。自身の身体に傷を負ったりすることは少ないけれど、問題なのは精神的なことだネ」

 ルーはホワイトボードに図を書き込みながら瑠奈に事細かに説明してゆく。瑠奈もそれに頷きながら聞いていく。

「気が使えるというのはそれだけで普通の人たちとは違うんだヨ。そうなると今度は自分の精神面が問題となってくル。気が使えるということで調子に乗って力に溺れるとそのうち自分の身を滅ぼすこととなるんダ。現にそうなってしまって川神院を破門されてしまった人物もいるしネ……。まぁ、瑠奈がそうならないために今こうして授業をしているんだけどネ」

 するとルーは瑠奈の後ろに目を向けながら、

「もっと詳しく力に溺れるとどうなってしまうか知りたければ後ろにいる二人が適任かもネ」

 ルーが言うと瑠奈は後ろを振り向いた、そこには障子を少しあけ中の様子を伺っていた千李と百代の姿があった。

 二人が苦笑いしながら中に入ると、瑠奈が嬉しそうに千李のもとに駆け寄った。千李もしゃがむと瑠奈を抱きとめそのまま上に持ち上げた。所謂高い高いである。

「いい子に勉強してるみたいねー瑠奈ー。感心感心」

「うん! でもさっきルーせんせーがいってたけどおかあさんとモモおねえちゃんはちからがどういうものなのかしってるの?」

「……ええ。知ってるわ、前にも話したけれど私や百代。それにおじーちゃんや貴女に備わっている力は気って言ってね。とても力のあるものなんだけど、その力に溺れると周りに迷惑をかけてそして最終的には一人ぼっちになっちゃうのよ。現に私もそうなりかけたわ、だから貴女にはそうならないためにこういった授業を受けてもらってるの。大変だけどがんばれる?」

「だいじょうぶ。わたしがんばれるよ!」

 笑顔で答える瑠奈の声にはしっかりとした力が感じられた。千李はそれに頷くと瑠奈を降ろし、彼女の頭をなでた。

「じゃあルー師範代。よろしくお願いします」

「うン、じゃあ瑠奈もう少しがんばろうカ」

「はーい」

 そう返事をした瑠奈は先ほどと同じ場所に座りルーの授業を受け始めた。それを満足そうに見ながら千李は百代と共にその場を後にした。






 千李は百代と分かれ、川原で走り込みをしているであろう一子の元へと向かった。

 川原に到着すると案の定そこにはタイヤを引きながら川原を走る一子の姿があった。何往復もする一子の姿を見る千李は何時にも増して真剣な面持ちとなっている。

 すると一子が走るのをやめた、どうやら休憩のようだ。千李は一度頷くと一子の元に向かった。

「一子、お疲れ様」

「千姉様! 何時からみてたの?」

「ついさっきよ、それにあんなにがんばって鍛錬してるんだもの、声かけちゃ迷惑かなって思ってね」

 そういう千李の手にはスポーツドリンクとタオルがあり、千李はそれを一子に差し出した。

「ありがとー千姉様」

「いいえ。そろそろ飲み物がきれる頃かと思ってね」

 笑顔を浮かべながら言う千李に一子もまた笑顔で返す。二人はそのまま川原に座り込むと互いに川の水面を眺める。

「百代から聞いたけど5月の末にある東西交流戦で二年生には結構な使い手がいるってはなしよ」

「ホント? だとしたら燃えてきたわ!! もっともっと鍛錬しとかなきゃ!」

「まぁ待ちなさいって」

 そう言ってまた立ち上がりそうになる一子を千李が制す。

「がんばるのもいいけど多少は休みなさいね? 当日にへばったら元も子もないし」

「はーい。そういえば瑠奈もがんばってる?」

「ええ。一子に負けないぐらいね」

「そっかぁ……よーし、抜かれないようにがんばらなくちゃ」

 拳を握り締め言う一子に千李は苦笑を浮かべつつ頭をなでた。一子もまたそれに気持ちが良さそうに目を細める。頬も緩みまくっているし完全に愛玩動物状態だ。その後、千李は一子を胡座をかいている自身の上に座らせ頭に顎を乗せた状態でほのぼのと水面を眺めていた。一子もまたそれが嬉しかったのか終始にへら顔でいた。

 ひとしきりそれで過ごした後、千李は一子を解放した。同時に一子は立ち上がり軽く伸びをした後大きく深呼吸をした。

「……よっし!! 十分休んだし、鍛錬続行! 差し入れありがとね千姉様!」

「ええ。だけどあまりこん詰めすぎないようにやりなさいね?」

「わかってるー!」

 一子はそれだけ言うとまた駆け出して言った。その後姿を見送りながら千李は軽く息をつきながら、

「さて、私もそろそろ戻ろうかな」

 踵を返し川神院へと戻った。





「前々から気になっていたのだが。大和と千李先輩の関係はどういったものなんだ?」

 昼休み、唐突にクリスから漏らされた質問に大和は首をかしげた。

「どうってどういう意味だ?」

「いや、京たちから聞けばお前とモモ先輩は舎弟関係なのだろう? だとすれば千李先輩とはどういった関係なのかと気になってな」

「どういう関係って……そりゃあ姉さんの姉さんなわけだから舎弟でいいんじゃないか? 普段も千李姉さんって呼んでるし」

 何を今更と言った風に言う大和だが、心のうちでは確かに妙な引っ掛かりがあった。

 ……でも確かに俺と千李姉さんの関係ってなんなんだろう?

 千李と知り合ってから既に六年ほどと言ったところだろうか。はじめてあった時は本当に二人ともがそっくりで見分けるのが難しかった。

「まぁ自分が変に思っているだけかもしれないからな。特に気にしないでくれ」

「あ、ああ。俺も別に気にしてない」

「そうか、なら助かった」

 クリスはそう頷くと持参した稲荷寿司をムグムグと咀嚼した。

 しかし、大和は一応平静を装ってみたものの、内心ではただ悶々と千李のことを考えてしまっていた。





 ちょうどその頃千李は百代と向かい合いながら昼食をとっていた。勿論昼食は瑠奈ががんばって作ったおにぎりだ。

「なぁ姉さん」

「んー?」

「瑠奈の作ったおにぎりって美味いのか? 結構でっかいけど」

「そうねぇ……はっきり言っちゃえばちょっと塩振り過ぎだけど、まぁそのうちわかるでしょ。それに子供の作ったものは何でも美味く感じるもんよ。というか、せっかく作ってくれてるんだもの受け取らなきゃあの子がかわいそうでしょ?」

「ふーん。まぁ最後の方はわかるが……やっぱり子供が出来るとそういうもんなのか」

「まぁね。というかそんなに気になるんだったら大和とでも付き合えば?」

「ぶはッ!?」

 千李の突拍子もない発言に飲んでいた桃ジュースを軽く吹いてしまった百代だが、千李はそれを軽くよける。

「そんな驚くこと? アンタだって大和のこと気に入ってるんでしょ? だったらもう付き合っちゃえばいいじゃない」

「そ、それはそうだけど。大和は舎弟だ。付き合うとかそういうんじゃない」

「ふーん……。じゃあ私がもらってもいいわけだ」

「え? そ、それはダメだ!!」

「何でよ、別にアンタの舎弟でもアンタの物ってわけじゃないでしょ?」

 ニヤリと不適に笑う千李に百代は若干たじろぎながら、首を横に振る。

「ダメなものはダメだ! アイツは私の舎弟なんだから例え姉さんでも盗る事は許さないぞ!」

「別に寝取るわけじゃないんだからそんなムキにならないでって。……でもさ、もし大和の方から私に告って来たらどうする?」

「そ、それは……物理的に私のほうに戻ってくるようにする?」

「何で疑問系よ。しかもなんか地味に恐ろしいし……」

 百代の案に苦笑いしながら千李はウーロン茶を一口飲む。百代も気を落ち着かせるためか小ぢんまりと足をたたみ桃ジュースを飲む。

 その後はそこまで変な風にはならず、いつものように千李たちは昼食を終えた。





 放課後、千李と大和は二人で帰路に着いた。他のメンバーは各自用事があるようで今はいない。二人の間に会話はなく、沈黙が流れているだけだった。

 しかし、大和は内心でかなりドキドキとしていた。

 ……くそー、昼にクリスが変なこと言うから妙に千李姉さんを意識してる。沈黙が痛い……。

 大和が悩んでいるのをつゆ知らず、千李は特に気にした風もなく歩を進めている。だが、唐突に千李が歩みを止めた。彼女は川原のある一点を見つめており、微笑を浮かべていた。

「どうかしたの? 千李姉さん」

「ん、アレ見て少し懐かしいなぁって思ってね」

 千李が指をさした先を大和が追うと、そこには川原で仲が良さそうに遊ぶ小学生くらいの子供達がいた。中には女の子もおり、皆わいわいと遊んでいる。

「大和たちと初めて会ったのもちょうどこの川原だったわね」

「うん、最初はびっくりしたよ。モモ姉さんに姉がいたなんてさ、しかも双子」

「ハハッ。まぁ私もびっくりよ、帰ってきたら妹が増えてたし」

 懐かしげに語る千李は目を細め、夕日に輝く水面を見やる。

「けど、あんた達と会えて本当によかったわ。ありがとね大和」

「どうしたのさいきなり改まって」

「んー? 懐かしさに浸りすぎちゃったかしらねー」

 少し気恥ずかしげに笑う千李は頬を掻いた。大和もそれに少し笑みを浮かべるが、先ほどから胸はドキドキしっぱなしだ。

 なぜなら、千李の顔には夕日が当たっており、何時にも増してその整った顔立ちが強調されているのだ。そして時折見せる笑顔も妙に色っぽく感じてしまうのだ。もしかしたら顔が赤くなっているかもしれないが、今の大和にそれを確認するまでの余裕はなかった。

 ……ヤバイ、本当にこれはヤバイ。意識しすぎだろ。

 何とか顔に上った血を下げようとするものの、それはいっこうに下がらない。すると、千李が振り向き大和に告げた。

「さて、そろそろ行きましょうかね。でもこのまま帰るのもなんだし、仲見世通りにでもいく?」

「う、うん。俺は別に構わないよ」

「そう。じゃあ、ちょっと急ぐわよっと!!」

「えっ?」

 大和が疑問の声を漏らしたのもつかの間、千李は大和の手を取り駆け出した。大和はそれに若干引きずられる形となっているが、内心で大和はこちらの方がいいと思った。なぜならばこの形であればおそらく赤面しているであろう自分の顔を千李に見られなくてすむからだ。 
 

 
後書き
そろそろ肝心の恋愛の部分を出していくべきかと思いまして大和と千李の間を少し近づけてみましたw

恋愛ものは難しいですなぁ

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