久遠の神話
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第八十話 残る四人その十二
「目的の為には戦ってはいない」
「戦う為にですね」
「そうだ、その為に戦っている」
戦うこと自体が楽しみであるというのだ、そこには一切邪念はないというのだ。
「だからだ、その俺から戦いを取ることが出来るか」
「してみせます」
上城は加藤に対して毅然として返す。
「必ず」
「言うものだな、ではだ」
「今からですね」
「楽しませてもらう」
闘い、それ自体をだというのだ。
「好きなだけな」
「そうですか」
「死んでも文句は言うな」
例えだ、そうなってもだというのだ。
「今から言っておく」
「この闘いで、ですか」
「そうだ、わかっていると思うがな」
「はい、この戦いはそうですね」
「命と命のやり取り、最高の楽しみだ」
加藤にとってはだ、まさにそれだというのだ。
「俺を殺しても構わないがな」
「僕が貴方をですか」
「戦いの中で死ねるのならいい」
それでだ、満足だというのである。
「それならそれでな」
「そうですか」
「とにかく俺は戦うことが好きだ」
この感情をだ、加藤は隠すことをしない。
そしてだ、上城にこうも言うのだった。
「あんたは違うだろうがな」
「はい、僕は戦いは嫌いです」
剣を構えながらもだ、上城はこのことを言い切った。
「剣道は活人剣でないとならねばならないですから」
「活人剣か」
「戦う為ではなく己を鍛える為のものです」
心身共にだ、それが上城が考えている剣道である。だからこの戦いについても迷った結果止め終わらせることを結論としたのだ。
だからだ、今も言うのだ。
「戦いの為の戦いに使いものではないです」
「全否定だな、俺の」
「貴方自身を否定はしません」
「俺のそうした考えをか」
「そうです、戦いを楽しまれることは」
それはというのだ。
「否定します、だから止めてもらいます」
「そういうことか」
「では」
それではと言ってだ、そして。
上城は加藤と戦うのだった、加藤は最初からそのつもりだ。今二人の戦いがはじまろうとしていた。
第八十話 完
2013・8・30
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