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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§53 お隣さんの弊害

「もうヤダぁ……」

 しなびたように恵那が炬燵に突っ伏す。秋だし早いかな、などと思いつつも出した炬燵は十分に役立っているようだ。六畳一間のアパートには大きすぎるそれを買った当初は片付けなどが面倒くさそう、などととても後悔したものだが。それにしても、恵那が弱音を吐くとは珍しい。

「どしたの?」

「れーとさんのせいだよ馬鹿ぁ……」

 何故かジト目が返ってくる。なんでだ。

「?」

「というか、れーとさんなんで王様だって教えてくれなかったのさ」

「……あぁ」

 そういえば、恵那には言ってなかったか。よくよく考えれば、自分の正体を知っていたのは甘粕と馨を覗けばエリカ位だった。

「いや、木を隠すには森の中といいますか……ごめん」

 同居人にまで隠し通せた事を驚くべきか、隠していたことを謝るべきか。まぁ今回の場合は後者だろう。ある意味「除け者」だったわけだし。

「まぁ、滅茶苦茶な強さだったから納得だけどさ」

 負けるトコ想像出来ないしね、などと苦笑する恵那。

「あ、言葉遣い直した方が良」

「今のままで」

「い……って反応早いね」

 ここで敬語になられるのは要因が自業自得だとしても悲しいものだがある。

「まぁ、ここで敬語になられても壁を感じるだけだし。それは悲しいかな、って」

「そこは変わんないんだねぇ」

 しみじみと呟く彼女だが、こちらとしては変わった記憶など微塵もない。

「周囲がどう呼ぼうが僕は僕だよ」

「……で、恵那さんのうめき声の原因はこの紙束ですか? ちょっと失礼しますね」

 炬燵から顔だけ出していたエルが机の上にひょい、と飛び乗る。そのままページを捲ったり書類を引っ張り出したり。恵那が何も言わないということは別にみられても問題ない書類なのだろう。

「うわ、すっごい量……しかもかわいらしい女の子の」

「何それ。ファッション雑誌の束?」

 あんな分厚い量。一体何冊購入したのだろう。

「んなワケないじゃん、ってまた電話ぁ……!!」

 バタバタと慌ただしそうに出ていく恵那。流しっぱなしのOVAを停止すれば良かったかな、などと思ったが後の祭りだ。

「しっかし恵那の電話が電池切れじゃないのも珍しい」

 あの巫女様は電池切れがデフォの電話の所有者だと認識していたのだが。これは認識を改める必要がありそうだ。

「って、これ全部お見合い用の書類ですよ……?」

 覗いていたエルの声に眩暈を覚える。

「え、ちょ……恵那はソッチ方面の人?」

「わかりませんけど。宛先は全部恵那さん宛になってますし……」

 信じたくなくて、若干の罪悪感と共に盗み見る。

「うわ、マジだ……」

 黄色人種だけでなく、白人から黒人まで。腰まで届きそうな髪から男と間違えそうな短髪まで。スリーサイズまで載っている。其処に躍る文字はAAA~Fと多種多様。他にも年齢から出身地まで。共通点は皆一様に美しい、ということだけ。この子達はなんで同性愛に目覚めているのだろう。こんな子達がいるから、富が一部の貧困層(非モテ)まで分配されないのだ、などと憤りがちょっぴり芽生えてくる。

「……護堂じゃなくて恵那に送る意図がわからん」

 色欲の魔王として認識されていそうな彼に送られるならまだしも、何故恵那に?

「マスター目当てかもしれません」

「僕目当て?」

 エルの推測も意味不明だ。それなら黎斗宛に来るはずで。恵那宛というのが可笑しいだろう。

「マスターはカンピオーネであると認知されました。そして傘下の組織はありません」

 正史編纂委員会は草薙様の方が繋がり深いですし、と続ける。

「ふむ」

「だから、恵那さんを籠絡します」

「いやその理屈はおかしい」

 途中までは理解できたのに途中からぶっ飛んだではないか。

「恵那さんが同性愛者の情報をどこで得たのかは知りませんが、マスターを籠絡するより先に恵那さんを籠絡しようとしたのでしょう」

 恵那を籠絡すれば、恵那経由で自分と関係を持てる、ということか。なんとまぁ回りくどいことを。

「……っーかさ、それなら美少年とかイケメンで良くない?」

「マスターはそれでも良いんですか?」

「嫌」

 なんか、やっぱりそれは嫌だ。

「即答ですね。……まぁ、そういうことです。男性であるより女性である方がマスターも受け入れやすいいと踏んだのでしょう。それにあわよくばマスターが草薙様の真似をしてハーレム形成に動くかもしれません。その時に有利な状況を作ることが出来ます」

「成程……」

 確かに。女性を送り込めば恵那だけでなく黎斗を籠絡できる可能性も出てくる。これは黎斗自身が同性愛者ではないことを前提としているが、自分がホモではないのだから問題は無い。これはなかなか理に適っている。

「ですので彼女たちは全員、異性同性どちらでも大丈夫な方々かと……」

「……あんまりだ」

 別に、同性愛を否定する気はないがこれだけの数の美女美少女が同性異性バッチコイ!、なのは酷い。なんとうか、男の夢をぶち壊し過ぎだろう。

「現実なんてクソゲーだ……」

 幽世に戻りたい。超引きこもりたい。

「まぁ、恵那のとこに来た写真が男じゃなかっただけよかった、なのか……?」

「恵那さんが同性愛者なら男性なんかアウトオブ眼中ですけどね」

「……」

 なんかもう、残念な美少女とはこういうことを言うのだろうか。

「やーっと終わった……って、二人して何項垂れてんの?」

「恵那、どんな趣味を持っていても引かないから、大丈夫だよ」

「恵那さん。私はキツネですから、手を出さないでくださいね?」

「何言ってんの。あ、その書類の中で気に入った子いた?」

「「え?」」

 なんで話題をこっちに振ってくる?

「見たんでしょ? それ、黎斗さん宛のやつなんだけどさ。なんか傍仕えする人の立候補者?みたい」

「……なんで女の子ばっかなの? なんで恵那宛なの?」

「王様がハーレム形成してるなら、同年齢同国籍同性友人のれーとさんも同じような趣味だと踏んだんじゃないのかなぁ?」

 なんという風評被害だ。これは謝罪を要求せざるを得ない。主に護堂に。っていうか護堂に。

「しかもれーとさんの周囲にいる人間が恵那か甘粕さんしかいないでしょ? しかも甘粕さんは草薙さんのとこも良くいくからさ」

 あぁ、オチが読めた。

「恵那がれーとさん宛の取次全部やらなきゃいけなくなってるの!! 何コレぇもうやだぁ!!」

「あー、その、お疲れ様です……」

 つまりは黎斗の周囲の人間が恵那しかいないから、黎斗にコンタクトをとろうとすると必然的に恵那に接触を図ることになる。度重なるめんどくさい話に自由人たる野生児娘は疲労困憊、と。

「なんかその……ごめん」

 主に二重の意味で。

「おばあちゃまはおばあちゃまで早く子種貰え貰え言ってくるし」

「――――!!」

 何言っとんだそのおばあちゃまとやらは。一介の女子高生に言わせる言葉じゃないだろう。こんな形で女の子への幻想をぶち壊されるとは。

「というわけだからこの件が一段落ついたら頂戴ね。大丈夫、恵那は二号さんでも構わないから」

 なんでもないことのように言いつつ、「ボツ。馨さんに送り返す」とだけ書かれた袋に写真の束を押し込める恵那。

「まてまてまてぇ!!」

「マスター、ようやく春が来ましたねぇー」

 ニヤニヤ笑ってくるキツネがうっとおしい!!!!

「え、ダメ?」

 急に不安そうな声が聞こえてそちらを向けば、心細そうにこちらを見てくる恵那の瞳。

「駄目じゃないけど……って、あーもうちょっと外出てきますー!!」

 いかん、分が悪い。三十六計逃げるにしかず。変な空気を払しょくするために外へ逃げる。勿論、窓から。

「あ、れーとさん!?」

「……流石マスター。安定のヘタレですね」

 エルの言葉に、反論したいが涙を忍んで逃げ出した。


●●●


「……ふぅ」

 公園のベンチで、一人ため息を吐く。夕日が目に染みる。幸せそうに滑り台やジャングルジムで遊ぶ子供の姿に荒んだ心が癒されていく。やっぱ子供は素晴らしい。ロリコンやショタコン的な意味では無くて。

「恵那のやつ、恥じらいも無く変な事を言ってきてからに……」

 間違いなく好きではあるが、なんというか。据え膳を食べるのとは別に問題がある気がする。結婚は人生の墓場だ、とか若いうちは遊ぶべきだ、とか英雄色を好む、とかそういう色々とアレなことを言う人間ではないつもりだが。

「据え膳食べるべきか? 否、ここはまだ我慢すべきか……」

 天下の往来でゲスい事を考えてるなぁ、などと思いつつ一人百面相をしていると。

「……黎斗?」

「あぁ、護堂か。夕食前の買い物帰り?」

「まぁ、な」

 頷く護堂はスーパーの袋を大量に抱えている。エリカやリリアナ、裕理が持っていないのは護堂のイケメン力の表れか。ちなみにごく当たり前に美少女軍団を侍らせていることに関してはツッコまない。いちいちツッコむだけ野暮だろう。

「なぁ」

「ん?」

 いつもと様子の違う、何処か落ち着かない護堂と、キョロキョロと周囲を見回す裕理。

「俺と勝負して、くれないか?」

「……はい?」

 そりゃまた、一体何故。そんな問いを投げかけると、エリカ達から少し離れたところへ連れてこられる。

「今のオレじゃ、ダメだ。アイツらを守れるだけも力も無い」

 それが護堂の率直な感想。須佐之男命の屋敷で見せられたあの力。あれを見た後だからわかる。ヴォバンも、羅濠教主も、護堂と戦うときは本気じゃなかった。今の自分には、力が足りない。

「……まぁ、いっか。ドニみたいだねぇ」

 彼と護堂、やはり似ているのかもしれない。そう思って幽世への道を作りつつ見やれば。

「今回ばかりは、否定しない」

 苦笑いをする護堂の姿がそこにあった。


●●●



「う、ん……」

「あぁ、目が覚めた?」

 もう日は沈んでいる。周囲の民家からは穏やかな笑い声が聞こえてきて、平和な日常そのままだ。

「相手に、ならなかったな」

「そだね」

 嘘を吐いてもしょうがない。事実、護堂に”牡羊”を使用させるまでに受けた傷は、軽傷。自分で言うのもなんだが圧勝だ。

「だって護堂さ。縛りゲー状態で本気だしてないじゃん。そんな状態に負けはしないよ」

「俺は本気でやってたぞ」

 心外だと言わんばかりに頭を振るが、黎斗はそれを認めるつもりなど無い。

「じゃあさ――――なんでエリカさん達に加勢を要求しなかった?」

「これは、俺とお前の勝負だろう」

 その言葉に、ようやく黎斗は把握する。護堂の真意を。つまり、一人で神を斃せるだけの力が欲しいと。

「正々堂々、なんてのはカンピオーネの所業じゃないよ」

 卑怯を推奨したくは無いんだけどな、などと加えながら苦笑で語る。

「そんなのは僕だけで十分だ。だいたい正攻法でウルスラグナだっけ?は倒せたのかい?」

「それは……」

「搦め手使ってなんぼ、じゃないのか?」

 自分の時の事は棚に上げて。

「一旦ぶつかってみて、勝てなかったら撤退、周到にリサーチして言霊でぶった切るチート剣で相手に致命傷。こんなカンジなんだろ? 見たり聞いたりしての予想だから全部に当て嵌まらないしれないけど」

 実際には数回戦闘を見ているのだが、それを言ってしまうと話が拗れそうだし隠すことにしてサラっと語る。

「……」

「今回さ。逃げもしないししリサーチして弱点を突く様子も無い。なんていうか、らしくないんじゃない?」

「らしく、ない……」

「僕は色々あった結果、一人で色々こなさなきゃでさ。だから色々な権能手に入れて色々出来るように、って色々色々言い過ぎか……」

 最近は、色々任せられる背中が増えてきたから安心していられるけどね、と心の中で付け足して。

「でもさ。護堂は足りないとこを補えるワケじゃん? エリカさんやらリリアナさんやらいるし。神格を霊視する万里谷さんいるし。真っ向勝負にしなくても、観察眼で色々探りつつあれこれやってみてさ。分が悪くなれば呆気なく撤収して、それから対策を万全に練って容赦なく弱点を突く、それが本来の戦い方だろう?」

 言っててなんだが、弱点対策練ってから再戦とかRPGだよなぁ、なんてことを漠然とだが思う。

「その本来の戦い方なら僕に勝てる可能性もあるだろうさ。自分の戦法(スタイル)封じておいて勝てるほど僕は雑魚なつもりないよ。使えるものはなんでも使ってこそ、でしょ?」

「……そう、だな。少し視野が狭くなっていたみたいだ」

 しみじみと呟く。イケメン度三割増し、と言ったところか。相変わらず、何をしても絵になる顔だ。

「ちくせう」

「?」

 爆ぜろリア充、などと思ったが伝わっていない。解説してやるのも癪だから本題を少し、続けよう。

「……いや、こっちの話。まぁさ、権能を上手に使えるようになるための実験台とかだったら手伝うから。まぁ勢い余って一回殺しちゃうかもしれないけど、権能の掌握をぶっつけ本番でやるよかは安全なんでない?」

 それに予め把握しておけばそれを前提に色々作戦も練れるし。護堂にとっては有用な筈だ。

「死んどいて安全もなにもねぇよ。……なぁ、黎斗」

「ん?」

「その、なんだ。悪い、ありがとな」

「別にいいって。じゃあね、また明日、学校で」

「おう」

 そう言って笑う護堂は憑き物が落ちたように晴れやかな顔をしていた。 
 

 
後書き


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いや、SEKKYOUをする気は無かったんですホントなんです……
気付いたらこんな展開に。何故だろう(汗 
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