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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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夢の終わり ~IN YOUR DREAM~

期待と不安。その2つの感情が沈黙と言う形で場を支配していた。ある者は結末に一喜一憂し、ある者は瞑目して待ち、またある者(シャマル)は戦いの反動であおむけに寝かされていた。(医者の不養生とは少し違うが、おかげで回復魔法持ちが居ない。救急箱以下である)

と、虚空に8つの呪符が突然姿を現した。8つは光り八卦陣を描き、その中から見知った顔が現れる。

「終わったぜ。あれはもう完全に消滅した・・・もう現れる事もないだろ」

今か今かと待ち望んでいたニュースだった。その瞬間、その場にいた全員がどっと湧き上がった。

フェイトとなのはは互いを抱きしめて喜び、苗とはやても諸手を挙げて喜ぶ。ぽんずは猫の姿に戻って興味なさ気に欠伸をしていた。ヴォルケンリッターの面々も、互いの無事を確かめる様に笑った。
管理局勢も肩の力が抜けたか、抱えていたデバイスを降ろして一息をつく。


「・・・少しいいか?」
「・・・む、私か」

ラグネルを氷の足場に突き刺して息を整えていた残滓シグナムにシグナムが歩み寄る。

「残滓ながら見事な剣術だった。(いず)れ手合せ願えないだろうか?」

笑顔で差し出された手に残滓シグナムは少し苦笑いした。賛美と共に決闘の約束まで取り付けようとする自分の姿は、他のものに言われたように戦闘狂と言われても文句の言えない浅ましさだ。他人から見た自分はこんな風に見えるのか、と軽く自省しながら、差しのべられた手を握り返す。

ばらり

「むっ・・・これは!?」
「・・・今までよく持った方か・・・っと、これを言うのは今夜二度目だな」

残滓シグナムの握った手が、黒い残滓となって崩れ落ちた。

「驚くことは無いだろう?我等とて憑代の力を得て実体化していたのだ。シャインが憑代を救った時点でこうなることは分かっていたさ。・・・これは4騎士全員の総意でもある」
「・・・ッ!!」

「アタシ達は本来ここにいちゃいけない存在だ。用が終わったらとっとと帰るのは当たり前だろ?」
「うむ。ここにおらぬシャマルとてその点は心得ている」
「・・・皆さん」

クロエが3人に近づいて、何かを口に出そうとして躊躇う。暫く下を向いたクロエだったが、3人はせかすことなく彼を見守っていた。ザフィーラの手甲と騎士服がゆるやかに崩れ始めるのを見てとうとう決意したのか、クロエは3人を見て己が本心を言い放った。

「皆さん、双子さんじゃなかったんですね・・・」

「「「ズコー!!」」」

氷の表面をボブスレーかリージュのように器用に滑っていく騎士三人。そこからかよ!と心の中で突っ込む一同。
そこから理解の足りていないクロエであった。



 = = =



残滓の崩壊は騎士達だけに起きている訳ではない。残滓のフェイトもまた、その姿を崩し始めていた。宙を舞う残滓はやがて溶けるように消え、その欠片も世界に残すことは無い。

「あ、良かった・・・これで成仏できなかったらどうしようかと・・・」
「行っちゃうの?」
「うん・・・」

残滓のフェイトも既にこの世に未練は無かったがゆえにあるがままを受け入れていた。ばらばらと崩れ落ちる残滓の身体を、今にも涙があふれそうな顔で見つめるフェイトに苦笑した。

「そんな悲しそうな顔しないで、フェイト。・・・お母さんを大切にね」
「あのね・・・あのね、フェイト!私あの後色々考えたんだけど・・・後悔のない事はいいことだと思う!でも後悔が無いから生きるのを諦めるって、上手く言えないけど違うと思う!!」
「・・・そっか。うん、それでいいと思う」

正しい正しくないは誰かが決める事ではない。その時の当事者が自分の意思で思ったことを正しいと判断する、その行為そのものがきっと尊いものだから。

ふとフェイトの後ろに目が行った。
アルフ。リニス。私の知っている2人とは少し違うけれど、それでも皆に見送られるのならば悪い気はしない。あのシャインという少年は姿が見えない。気を利かせて別の場所に行ったのかもしれない。

その時、崩れる私の身体を誰かが抱いた。
その感触はどこかで経験したようで、でも初めての感触だった。
目の前にいるその人は―――

「お母・・・さん・・・?」
「―――私は貴方のお母さんではないけれど、貴方のことを勝手に見送らせてもらうわ・・・・・・今までよく頑張ったわね、”フェイト”。疲れたでしょう?ゆっくりお眠りなさい・・・」
「・・・手・・・あったかい。これが、お母さんの手なんだ・・・」

その言葉を聞いて、それだけで救われた気がした。
消滅しかけの身体で僅かに感じる感覚が、叶わない夢の続きを少しだけ見せてくれた気がした。
この人は”私のお母さん”ではないけれど。本当ではないけれど。
真実は必ず嘘に勝る物ではないのだろう。

そうならば自分はアリシアの劣化品などではないと、胸を張って言えるから―――



 = = =



「そうか、そう言う事だったか・・・」
「もう少し早く気付くべきでした・・・」
「つまりどーゆーことなの?」

所変わって紫天一家。彼女たちに崩壊の兆候は見られない。それもそのはず―――

「考えてみればユーリがこの世界に再現されている時点で我々は世界に定着されているも同然ではないか!ナハトヴァールでさえあれだったのだからな・・・」
「ユーリだけが我々と違う場所に顕現したのも、定着の反動だったのかもしれません」
「だーかーらー!王様もシュテるんも何の話してるの!?僕にもわかる様に言ってよー!!」
「・・・簡単に言うとだな?・・・我等は死後の世界へ帰れぬ!」
「・・・・・・・・・・・・・それって何か困ることなの?」

こてん、と首を傾げるレヴィ。もう一回この世界で過ごせるならばそれはそれで別に問題はないのでは?そう考えたレヴィだったが、そこで奇跡的に一つの問題があることに気付いた。

「・・・あっ!そういえば僕たちお金持ってない!ソーダ味キャンディ買えないじゃん!!」
「ついでに職と家もありません。俗にいうホームレス状態です」
「違う!まつろわぬ王だ!断じてホームレスなどと言う低俗な塵芥どもとは違うッ!!」
「孤高の王ですね!何かカッコいいです、ディアーチェ!」
「そ、そうか?そうであろうユーリ!わーっははははは!!!」

仲がいいようで結構であるが、貧乏王である。別にお金がなくたって魔法プログラムである3人と全身永久機関さんは死にはしないのだが、なまじ人間の生活を知っているだけに臣下にみすぼらしい生活はさせたくないという意志が働いているのだろう。

「しかしどうしたものか・・・フローリアン姉妹がこの町を訪れるのは随分先の事だぞ?」
「それに関しては、ナエかあのお兄さんに直談判して泊めてもらいましょう」

肝心なところは人任せ。自分の王としての力は現代社会には通じないのか、と世知辛さを感じるディアーチェであった。



 = = =



「あ、あのさ!」

次に前に出たのは苗だった。その手には禍々しい槍の様な剣『四宝剣』が握られている。
精神状態が安定したおかげで使用できる段階になったのだ。これを振るうことで彼女たちの『死』の原因を作ったかもしれない罪を償えれば、という思いもあった。

「この剣を使えば、皆仲良くこの世界で生きていけると思うんだけど・・・駄目かな?」
「・・・気持ちは嬉しいが止めておけ、苗」

残滓の闇の書が、全ての意味を理解したうえで苗を制止した。
四宝剣の力をもってすれば、存在の定着などいともたやすく実行されるだろう。だが、それでは不完全なのだ。

「ヤミちゃんもいなくなっちゃうんですか?」
「ああ。元よりこの世界に長居する気はなかった。それに・・・私が居てはこの世界にリインフォースと同じ個体が同時存在していることになる。居座ったところで私はいずれ世界から弾かれるさ」

個体の同時存在。単なるクローンなのではなく魂の性質まで完全一致した個体は因果律に支障をきたす不自然な存在だ。故にそれは世界に長く存在できない。ある意味、残滓の崩壊も世界の意思なのだ。
魂の分裂が最初から可能ならば話は違うが、闇の書にも夜天の書にもそのようなプログラムは存在しないし、改変しても実行は不可能だ。

「だが・・・苗。もしもお前にその意思があるならば、ツヴァイと契約をしてくれんか?」
「・・・な、何を言ってるんですかヤミ!?リインも残滓です!今更そんな同情なんて・・・!」

噛みつくように食って掛かったリインを手で制したヤミは、堕天使の様な翼を緩やかに崩壊させながらも告げる。

「そうではない。気付かないか、ツヴァイ?・・・お前には崩壊の兆しが未だ出ていない。それはお前が”この世界に存在しなかったから”だ。存在しないものが現世に現れても、世界は”新たな因子”としてそれを受け入れる。お前だけは・・・例え残滓の身体でも、新たな主と契約すれば生き残れる。矛盾は起きない」
「・・・なんですか、それ・・・今更・・・今更そんな事を言われたって!!皆のいない世界で生きろって言うんですか!?」

いつも優しかった”機動六課の総隊長である八神はやて”はこの世界に存在しない。
”共に働いたヴォルケンリッタ-”は、たった今自分の後ろで崩壊しようとしている。
生意気で手間のかかる部下たちも、同僚も、ここに”リインの知ってる皆”は一人たりとも存在しない。そんな世界は、彼女にとって地獄だ。

「そんなの私の知ってる世界じゃない・・・!そんな世界で生きていくなんて嫌です!!そんなふうに生き残る位なら、私もみんなと一緒に消えます!!あの何もない世界に戻ります!!」

リイフォース・ツヴァイは泣いていた。泣きながら、自分も死ぬと本気でそう言った。さながら時の迷い子、時間に見放された迷子だった。
そんなツヴァイを暖かい目線で見送る残滓の騎士たちは、駄々っ子のように叫ぶツヴァイの小さな体をそっと抱いた。既に残滓の騎士とヤミの身体は4割以上が崩れ去っており、リインに添えられたその掌も、少しずつ崩れ始めていた。それでも騎士たちは微笑みを崩すことは無い。

「リイン、お前はそう言うが、お前が生まれたときだってこの世界にお前の知っている存在はいなかった。スタートはあの時と一緒なのだ」
「オメーは生きろ。生きて学んで踏ん張って、”前の世界”のはやてに見せても恥ずかしくねえ立派な騎士になれ。補佐官だろ?副隊長の指示には従っとけ」
「元々お前は他のヴォルケンリッターに比べて未熟だ。あちらに帰るならば、この世界で一人前になってから来ればいい」

「皆・・・!皆ズルイです!!ちょっとリインより年上だからって・・・!みんな、みんな・・・嫌です!みんなと一緒がいいのにぃ・・・えぐっ・・・どうしてリインを置いて・・・行っちゃうんですかぁ・・・・・・独りに・・・しないでぐだざいよ゛ぉ・・・っ!!」

力のこもらないツヴァイの拳が三人の添えた手を叩く。だが、どれだけ叫んでも皆は困ったように微笑むばかりで―――最期まで言葉を訂正することは無かった。






「主はやて・・・何も言わなくてよろしいのですか?」

ただ一人、その場に残されて一人嗚咽を漏らすリインフォース・ツヴァイを見て何かを言いたそうなそぶりを見せたはやてに、シグナムは問うた。するとはやては悲しそうな顔をしながら首を横に振った。

「ええんや。と言うより・・・私たちが口挟んでええこととちゃうし、正直この状況でなんかモノ言うには人生経験足らんと思う」
「はやて・・・」
「本当に、これでいいんでしょうか?」
「・・・それは、我々が決める事ではない」

だけど、いつかこんな時に自信を持って皆を導ける主になりたい。幼いはやては心の内で一人そう決めた。




こうして、「魔導師の黄昏事件」事件はその幕を閉じた。
データ上では大規模な事件であったにも拘らず検挙者も死者も”ゼロ”。ジュエルシードはその全てが回収されたが、その詳細は伏せられ、後世に「管理局で最もミステリアスな事件」として長く語り継がれることになる。 
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