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チョコレート破壊大作戦

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バレンタインデーキッズ ~名誉をかけて~

「うわぁああぁぁぁあぁあぁ!」
 僕は悲しみと焦り、そして絶望の思いで絶叫した。
 今日はバレンタイン。そう、バレンタインだ。自分の交友関係恋愛関係を洗いざらい晒されると噂のひかりで血を洗う祭りだ。
「どうしたの、(にぃ)
 2段ベッドの下から、眠そうな弟の声がする。
「弟よ!お前は分かってないのか!今日が何の日か!」
「えぇと、今日は……あぁ、バレンタインか」
 弟は眠そうに答えた。
「そうだよバレンタインだよ!分かってるならなんで絶望しない!なぜ悲嘆に暮れて24時間眠り続けようと思わない!それとも今からその気なのか!」
「平日だから学校行くけど」
「だったら何故そこまで平然としてられるんだ!君は屈辱とは思わないのか!これはいわば残酷で冷血な知名度の資本主義そのものだぞ!」
「別に。そんなんで学校休んだらノートとかどうすんの?」
 弟はむくりと起き上がるとベッドから降りた。
「ぬわぁああぁあぁ!なぜ僕の心の叫びを理解しない!僕は千代子(チヨコ)ちゃんに特になんとも思われてないことを痛感しながらその一刻一刻を過ごし続けなければならないんだぞ!その時間たるやなんと24時間!1440分!84400秒!」
「86400秒でしょ」
「そんなことはどうだっていいだろ!?今大切なのは僕が煉獄のような時間を過ごさねばならないってことだ!お前もそうだろ!」
「俺はだから別にどっちでもいいって」
「なんだと!?まさか貴様本命チョコをもらう手筈が済んでいるとでも言うのか!?」
「っ!?……発想が飛躍しすぎだ、馬鹿」
 弟はそう言うと早口ですたすたと去っていった。
「……」
 僕はその様子を疑惑と不信の目で見ていた。
「……まさかあいつ!」
 いや、そうに違いない。僕は疑問を確信に変えた
「ぬぐわああぁああぁあぁ!!裏切られたぁああぁああぁぁあぁぁぁあぁ!!」
 僕はのどを削り取るように吠えた。
「あいつあいつあいつあいつあいつ!」
 いくら自分勝手と言われても構わない。僕は信じていた。弟は僕の孤独を孤独で誤魔化してくれると。しかしそれは裏切られた!何かを叩き壊したい気分だ!
「ふるっしゃああぁぁあぁぁ!!」
 僕は自分の枕を弟のベッドに思いきり叩きつけた。バフッっという篭った音がする。
「くそぅ!くそぅ!くそぅ!」
 僕は続いて枕をえらく射程の短いムチのごとく何度も何度もベッドに叩きつけた。何度も何度もぉ!
「にげぁああぁぁぁああ!!」
 僕は大声で叫んだ。そう、さっきまでの怒りや憎しみは、弟も独りだという前提からなるもの。その前提が決壊した今、僕の激情は堰を切ったダムの如く流れだし、全身に電力を流し込む。
「とても世界はほっときます愛下へ届く続きを得る為のことを下までの公然とした道筋が僕には足りないという意見を尊重して曲がらないことに意思を持って……」
「うっせえ!」
 下の階から叫び声がする。それが?それがどうしたっていうんだ?
「あーあー何も聞こえない感じないコオロギの靴下が緋色ならばそれは全然道ではないという結論が相乗して筋道を結論する上で本当に蠱惑的なコモンセンスを開放したとして君とあなたへ何を」
「うっせーっつってんだろ!」
「ごふぅっ!」
 僕は弟の飛び蹴りを食らって後ろに吹っ飛んだ。
「いじけんのはいいが迷惑かけんな」
 弟は僕を見下しながら言った。
「……持てし者は持たざる者の気の持ち方なぞ分からんということか」
「……ったく、大体、チョコもらえねぇって決めつけなくてもいいじゃねぇか」
「……」
 そう、今の発言は持てし者の当然のように奢った発言だ。
 だが、だからこそ、僕の心の中に甘くドス黒く染み込んでくる。
 やめろ……、やめてくれ……
「……どうした?」
「そうだ悪魔は自分の翼を白く塗って電器屋で照明を買ってくるんだ。惑わされてはいけない踊らされてはいけない」
「何言ってんだ?」
「そうだそうだ、大体僕がチョコをもらえる可能性なんて、万に一つしかないじゃないか」
 それなのにそれなのに、僕の中の天使は囁く。あなたは学校に行ったほうがいいわ、と。
 やめろ来るな近づくな来ないでくれ。やっぱり天使じゃない。悪魔と見間違えたのかも……
「……でも、万に一つあるのかなぁ?」
 何を僕は言ってるんだ、そんなことがある筈がない。騙されるな騙されるな騙され
「じゃあ、行こっかな?」
 うわぁああああぁぁぁあぁぁ!!僕は心の中で叫んだ。違う僕は惑わされているんだ。
「……じゃあ降りて来いよ、早く食べないと遅刻するぞ?」
 弟は部屋から出ていった。


 僕と弟は同じ高校だ。僕達は校舎に着いて、下駄箱から上履きを取り出した。
 それでふと後ろを見ると、弟がバツの悪そうな顔をしている。
「ずぬぅわっ!」
 僕は反射的に弟の下駄箱を齧り付くように掴んだ。
「なっ!」
 そして僕は四角い箱を掴む。綺麗なリボンが貼ってあった。僕はそれを何の躊躇いも無く地面に叩きつける。
「ちょっ!」
 なんとそれを弟がキャッチした。
「なんだとっ!?」
 僕は思わず苦悶の表情で叫んだ。
「おまえいきなり何すんだよ!」
 弟は僕に怒鳴った。
「わからないのか!?チョコレートなどという物質で表すからそうなる!もしそのチョコの送り主が秘めたる想いを表に出さなければ、想いの欠片を砕かれることは無かった!」
「わけわかんねーこと言って人に迷惑かけんなよ!」
「わけわかんないだと!?君には異種族間の価値観の相違について思いを馳せようという気持ちにはならないのいか!?」
「人のもの勝手に壊していいなんて言う種族はいねーから!」
「いいやここにいる!それとも君は僕の価値観を無視しそれを容赦無く踏みにじってドブに捨てる気かい!?もしそのつもりなら僕は全世界の人の価値観をゲシゲシに踏んづけてビリビリに引き裂いてグチャグチャに挽き潰してやる!」
「あのなぁ!」
 うるさいうるさいうるさい。こいつはチョコでその愛を表されているからこんなに優しい人ごっこが出来るんだ。いつも優しいのは富める者だ。
 あぁイライラするイライラするイライラする
「割れちまえ割れちまえ割れちまえ」
 僕は気づくとブツブツ呟いていた。そうしながら、気分の昂ぶりを感じていた。
「何言ってんだよ」
「チョコなんて全部割れちまえばいいんだ」
 僕の右手が早鐘を打つ。あれ、右手に心臓は無いのに?
「まずは弟のチョコだ、あれを握りつぶせばさぞスッキリするだろう」
 僕はゆっくりと右手を開いた。するとそこにさっきのリボンが、さっきの箱が見えた気がした。
「おいお前、縁起でもないことを……」
「割れちまえ割れちまえ割れちまえ」
 僕の中で血液が巡る。血液には何が溶けている?学校で習った。でも、本当にそれだけ?
「割れちまえっっっ!!!!」
 僕は指の第二関節が支障をきたす位に強く強く右手を握り締めた。
 パギャッ!
 それと同時に、弟のバッグから何かが壊れたような音が聞こえた。
「!!」
 いつもなら疑問しか湧いてこないだろう。だが今の僕は違う。
「……バッグの中を、見たほうがいいんじゃないか?」
 僕はニンマリと笑った。
「な、なんだよ……!」
 僕のその余裕タップリの表情に不安を感じたのか、弟が慌てたようにバッグを漁る。
 愉悦、愉悦。
 弟が先程の箱を持ち上げると、不揃いな欠片が転がるバララという音がした。さっきまではしなかったのにね!
「ハァーッハッハッハ!」
 僕は笑った。大いに笑った。僕を裏切った罪だ!罰だ!ドストエフスキーだ!
「兄てめぇ!」
 弟は僕を睨みつけた。
「ハッハッハ……いやぁすまない」
 僕は素直に謝罪した。
「別に君が第一被害者だからって、特別恨んでいたわけじゃぁないんだよ?」
「そういうことじゃねぇだろ!」
「ハハハハハ!吠えるのはいいよ!大歓迎だよ!もっと怒ってよ!もっと憎しみを僕に見せてよ!」
 そうか、富める者はこういう気分なのか。今まで石を投げられるのは怖かったけど、今そんなことをされても嫉妬にしか思えない。笑いすらこみ上げる。
「これ作るのにこの人がどれだけ苦労したのか……」
「知らぬ効かぬ堪えぬわぁ!違う違う違うんだよ!苦労して作った物を、汗水の結晶を、安全な場所に保管しないのが悪いんだよねぇ!そんなところに置いといたら下駄箱が燃えたり校舎が潰れたり流星群が襲いかかったりしたら一瞬でパーじゃないか!それとも君は!自分の心臓を!アマゾンのジャングルにでもほっぽり出す気かぁい!?」
「いいかげんにしろよ兄!」
「それはこっちの台詞だ!君のすることは1つ!それを送り主に返して、一生チョコを渡すなと釘を刺すことだけだ!それなのに君はいつまでもグチグチグチグチと無駄口ばかり!反抗はもういいから早く持っているチョコを全て持ち主に……」
「うるさい」
 その声はとても静かだった。でも僕の耳の中には一瞬で取り込まれ期待してもいいという信号を脳が発することに賛成だと脳が結論を出した。
三手火神(みてかがみ)さん!?」
 そう、彼女こそ僕が心から愛して溶かしてやまない千代子ちゃんだ。
「ここはあなたの家じゃないの」
 千代子ちゃんはそれだけ言うとスタスタと去っていった。
「すみませんでした」
 弟の謝る声が聞こえる。だがそんなことはどうでもいい。それより今、千代子ちゃんの起こした空気の振動を耳で感じることが出来た。
「フフッヒヒャ……おっとっと」
 僕は慌てて口をつぐんだ。そうだ。千代子ちゃんの理想の一端を、僕が満たせるのだ。
「フフフ……、千代子ちゃん……、フフフ……」
 僕は千代子ちゃんを盗み見た。大丈夫だ。あの子は。
 ……大丈夫?本当に?
「……千代子ちゃんは、大丈夫だ。でもね、許さないよ、その他全員は!」
 僕は拳を握り締めると駆け出した。
「おい!兄!」
 弟が叫んでるけど無視だ無視。


 廊下では人目もはばからないうすのろばか共がチョコだの求婚だの好き勝手にしてる。
「キャー!黎人(レイト)様ーっ!」
「私のチョコを受け取ってー!」
「私のチョコの方が美味しいわよー!」
「黎人様の為に私、インドまで行ってきてカレールー作ったんですぅ!」
「はいはい押さないで」
 なんだあの男の苦笑しつつも嬉しそうな顔は!
 ああいう中途半端な顔をすれば、みんなが好意的に勝手に解釈してくれる。
 やつ程のかっこよさなら、それも出来る。
「ふざけるな砕けろおぉおぉ!」
 僕は節分の様に飛び交うチョコを右手に掌中に収めるイメージをすると、一気に握り潰した。
 パパパパギャッ!!
「愉快だよ粉々だよ無に帰したよ!」
 僕は笑った。
「……大丈夫だよ、みんなの思い、ちゃんと受け取るから」
 黎人とかいうやつはニコリと微笑んだ。
「なんだとふざけるなクソッ!」
 僕は落とし穴に落ちたような気分でそこを後にした。
「違う違う今のは違う!!」
 僕はそう自分に言い聞かせながら他の標的を探した。
「あの……これ」
 とかなんとか言ってたら女が男にマフラー渡してんじゃねぇか微妙にシーズン過ぎかかってんだよ!
「僕なんかで……いいの?」
 男が頬を赤くしながらそう尋ねると、
「……うん!」
 女は頬を赤くしてはにかむように頷いてって、
「砕けない物を見せつけ僕の非力さを煽ったつもりか?甘いんだよ!その油断が命取りになる!」
 僕は手の中にその青のマフラーをイメージする。
「千切れろぉっ!」
 そして思いきり握りつぶす!
 グシャアッ!
 僕に握りつぶされたマフラーは、無残にもバラバラとなり、その内部圧力によりバイクのマフラーに再構築された。
「ハハハハハハ!君はそれを首に巻くのか!?下らない気遣いとプライドで、それを首に巻いたまま無理して微笑むのか!?」
「……俺、決めた。暴走族やめる」
素否緯度(スピイド)君……」
 女は目を潤ませた。
「俺のお前への想いより、暴走してるものなんて無いから……」
「素否緯度君っ!」
早紗(ハヤサ)っ!」
 2人は熱い抱擁を交わしました……って、そんなのが必要じゃないんだよ僕は!!
「誠に不快だ!まったくもって不快だ!」
 僕は地団駄を踏みながらその場を後にした。
 世界は不幸と幸せで回っている。不幸が3連続で続く確率は八分の一!つまりそろそろ幸せが……
「って三手火神さん!?」
 僕は天井に登ったかの如く幸福だ!!だから数学は馬鹿にできない!
「あの……」
 千代子ちゃんはいきなりもじもじし始めた。
「なぬぁぬぁなんだ?」
 僕は内心の動揺を悟られぬように尋ねた。
「これっ!」
 千代子ちゃんは突き出すようにチョコを見せた。
「え!?」
 僕は蛙がひっくり返りそうな素っ頓狂な声を上げた。そうだ希望とは不意に現れ素敵な未来を連れてくるんだ。
「あなたの弟に、渡してくれない?」
「ぬぉををぉおぉおぉぉぉをおぉぉおおぉぉぉおぉををぉぉぉぉをおをぉを!!!!」
 僕は地獄の亡者の様に叫んだ。天上にいる弟よ、聞こえるか?君が煩いと思ってくれたなら何よりの幸せだよ。
「そ、そんな変な声出さないでよっ!」
 千代子ちゃんは恥ずかしそうだけど、僕はあいにく周りが眩しすぎて分からない。
「ははは千代子ちゃん君何言ってるのかわかってるよねそういうことを僕に頼むってことは地獄の1丁目から天国の99丁目にトラックを届けさせることより2000倍苦しいことだって分かってるよねぇえゑぇ!?」
 僕の心の中では怒りと絶望の炎がキャンプファイアーのようにメラメラと燃えている。懐かしいなキャンプファイアー。みんなで薪を集めたよねぇ!
「ちょっと、あなた、落ち着い……」
「大丈夫だよ千代子ちゃん君は騙されてるんだまずはこれを粉々に砕いてから君の洗脳をゆっくりと解いてあげるよ」
 そうかそれだけじゃないか千代子ちゃんは何も悪くない。さて、なんて素晴らしい能力を持ってるんだ僕は。千代子ちゃんの偽りの心を吹けば消し飛ぶ位に粉々に砕いてあげられるんだから!
「さぁ初めようか清らかで幸せで素敵な儀式をね……砕け散れぇ!!」
 僕は手の中にイメージした千代子ちゃんの偽の心を手から血が出る位強く強く強く握り潰
「うわぁぁぁあぁああぁぁぁぁあぁ!!」
 突然の激痛に僕は思わず手を開いた。
「ぁあぁあ、血が出てるぅ……」
 僕の手には多数の切り傷があった。それだけじゃない。砕けなかった!
「何故だ!何故なんだぁ!」
 僕は叫んだ。喉がひりつく。
「……あなたが私のチョコレートを砕こうとするのは読めていた」
 千代子ちゃんはポツリと口を開いた。
「!?」
「だから私は、チョコに無数の刃物をトッピングしたのよ」
「な……、んだと……ぉ」
 そうか、千代子ちゃんは自分が怪我するのも厭わないで、『自分の思いを絶対に届けること』を叶えようとした……
「ハハ……ハハハ……」
 僕はその場に崩れ落ちた。なんて鋭くしなやかな愛だ……
「欲しかった……」
 僕はカラカラの喉で掠れた声で呟いた。負け惜しみでも、三手火神さんに聞いて欲しかった。
「それだけの愛が……、弟じゃなくて……」
 僕はうなだれてすすり泣いた。 
 

 
後書き
さるとんどる、おみのづえSPです。
本当は十七夜きょうだいとバレンタインでお送りしたかったんですが、あまりにも内容が無さ過ぎて没にしました。
そして慌てて考えたのがこの話
構想時間と執筆時間合わせて、なんと3時間半!
それ故に色々至らぬ所はありますが、僕としては大満足です。激しいボキャ切れを起こしてますが僕は大満足です。
ではでは、こんな駄作に感想等がありましたらどしどしお願いします。褒めてくれたら、舞い上がっちゃうよ?

PS. バレンタインデーにチョコをもらってませんが、全く何も感じませんでした。 
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