久遠の神話
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第七十九話 次期大統領としてその五
「大統領ですか」
「そうだ、トップシークレットだ」
スペンサーを呼び出した領事も真剣な顔で言う。
「君に直接な」
「わかりました」
「何の用件かは聞かない」
スペンサーの仕事だ、だからだというのだ。
「だがそれでもだ」
「はい、電話ですね」
「ホットラインだすぐに出給え」
「わかりました」
スペンサーもすぐに応える、そしてだった。
電話に出るとだ、全世界が何かあると聞くその声でこう言ってきたのだった。
「スペンサー大尉だね」
「はい」
「まずはこんにちは」
「はい」
言葉で敬礼をした、それでアメリカ合衆国軍最高司令官に応えたのだ。国家元首はどの国でもその国の軍の最高司令官であるからだ。
その彼にだ、大統領は自分から言った。
「選挙の結果は君もわかっているね」
「はい」
また答えたスペンサーだった。
「既に」
「そうだな、世界中が知っていることだ」
このことはやや自嘲を込めて言う大統領だった。
「次の大統領が決まった、私は去ることになったよ」
「お疲れ様でした」
「まだ少しいるがね、それでだ」
あらためてだ、大統領は電話の向こうのスペンサーに言う。
「昨日、選挙の直後にだ」
「昨日ですか」
「スタッフと話をしたよ」
ネオコンの中でだ、それをしたというのだ。
「その結果ね、我々も考えをあらためることにした」
「では」
「もう強硬路線は放棄する」
そうすることを決定したというのだ。
「一部まだ反対派がいるがね」
「全体としてですか」
「共和党も変わらなければ」
そのネオコンのリーダーと言っていい大統領の言葉である。
「今回の惨敗から立ち直ることは出来ないからな」
「だからですか」
「うん、穏健路線になりね」
そしてだというのだ。
「白人富裕層だけでなくアメリカ全体を見て各国への不要な介入は行わず」
「そうしてですか」
「穏健な方法で世界の盟主であろうとね」
今の民主党に近い方針でいこうというのだ。
「そこに独自性を見出していこうとね」
「そうした方に変えられますか」
「うん、そう考えているよ」
ネオコンが方針を展開させたというのだ、共和党を主導している。
そのことをスペンサーに話してだ、その彼にあらためて言うのだった。
「そして君のことだが」
「私ですか」
「密命は取り消すよ、駐在武官は続けてもらうが」
「では神戸にはこのままですか」
「いてもらうよ、しかしね」
戦い、それについてはというと。
「考えてみれば永続的に権力の座にあると腐ってしまう、我々も長い間共和党を支配していて共和党の惨敗を招いた」
「今の、ですか」
「そう、我々は何時の間にか共和党を腐らせてしまった」
このことにもだ、彼等は気付いたというのだ。
「そして今に至る、永遠に権力の座に留まっていると腐るからな」
「では合衆国が永遠に権力の座にあることは」
「願わない方がいい、常に留まるより常に動いた方がだ」
その方がというのだ。
「世界の盟主の座が保てる」
「では私は」
「ご苦労だった、特別ボーナスは君の口座に振り込んでいく」
報酬は忘れていなかった、彼はアメリカ空軍の現役の軍人であり雇い主である大統領としてはこのことを忘れてはならないからだ。
「君の現年収の三年分をな」
「有り難うございます」
「それでだ、もう戦いはだ」
「降りてですね」
「純粋に駐在武官の仕事に戻ってくれ」
こう彼に言うのだった。
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