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弓兵さんの狩人生活

作者:ねむたい
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4日目

さて、今日でこの世界に召喚されて四日目である。
四日目であるのにも関わらずまだ、カヲリしか人を見ていないのは如何なものであろう。
まあ、いい。とりあえず今朝のことから順をおって書いていこう。

早朝、ぶっちゃけ、日すらまだまともに昇っていない時間帯に私は起きた―――いや、起こされたというのが正しいだろう。
やはり、想像していた通り彼女はかなり早い時間に戻ってきた。
そして、眠っている私を起こして一言

「お兄さん、お兄さん、どうしましょう。私の獲物が狩られていました」

と、結構切羽詰まった顔で言ってきた。
しかし、まったく訳も分からずに起こされた私は、正直、そんなどうでもいい報告をするためにわざわざ起こさないでほしいと心底思った。






「で、一体どういうことか詳しく説明してほしいのだが?」

起こされた私はテントの前にある焚き木の前で暖をとっていた。
手には、絞った果実にハチミツを加え少し温めたものを持っている。
この世界のいまの季節というより四季という概念そのものが存在するかどうかは分からないが、割と冷えるからだ。
まあ、話が少し逸れたが、つまり、私が彼女の話を聞く態勢ができあがったのである。

「はい、お兄さんと別れた後に私………」

そして、始まる話。彼女の話を簡単にをまとめると要するに、食いぶちがなくなるそうだ。
曰く、彼女は狩りの報酬で生計を立てているらしい。そのため、今回のように獲物を横取りされると大変困るようだ。

「して、私にそのことを話して一体何の意味があるのかね?」

そう、その話を私にして一体どのような意味があるというのであろうか。
私に話しても意味があるとは思えないし、話したところでなにか変るわけでもあるまいに。
それに、彼女は私がその“獲物”を倒したとは知らないはず。なのに―――

「いえ、お兄さんなら何か知っていると思いまして………というより、お兄さんが狩ったのでしょう?」
「ほう、なぜそのように思うのかね?」
「いえ、ただの“勘”です。それにお兄さん、“別の地方の”ハンターでしょう?」
「ハンター?なんのことかね?私はただの旅人であってハンターではない。見当外れもいいとこだ」
「そんな、はずはありえません。私のハンマーの一撃をかわした身のこなしからして素人ではないはずです。それに旅人や行商人であるのなら、このような場所に迷い込むはずもありませんし」
「いや、ハンマーをかわしたのはたまたまかもしれないではないか………それに、ただの旅人でも迷いこんでしまうことが可能性としてはあるのではないかね?」
「じゃあ、旅人である証拠の“手形”を見せてくれませんか?ここら近辺の村によったのならば手形をもっているはずです」
「いや、あいにくここら近辺の村によっていないのでね。手形をもっていないのだよ」
「ふふ、引っかかりましたねお兄さん。ここら近辺に寄ったとしても、旅人になんか手形を発行しませんよ。それにただの旅人なら安全なルートが記載されている地図を持っているためこのような場所に来るはずがないんです。つまり、このような場所にいるお兄さんんは“ただの”旅人ではないんです‼」

ビシッ‼そんな効果音が付きそうな勢いで指を突き付けてきた。

「………」

こちらの持つ情報の量が少なすぎた。そして、彼女自信を甘く見ていた自分に気づいた。
というよりも、私の彼女の印象といえば人の夕食を勝手に食べ、人にハンマーを突然振り下ろしてくるわけのわからない娘であった。
ましてや、今のように話の最中に鎌をかけてくるようなタイプではないと思っていた。
つまり、良く言えば素直、悪く言えばアホな娘というのが私が持っていた印象である。

「無言は推定の意としますよ、お兄さん?」

そういって首をかしげて聞いてきた。
くりくりっとした大きな目に亜麻色の少し癖のある髪の毛。少し小柄であるものの出るところはしっかりと出ている身体。一般的に言っても可愛らしい印象を持つ少女が首を傾げ私を見ている。その仕草は、見た目通り可愛らしかった―――しかし、一部分を除いて。
なぜか、彼女は今まで傍らに置いていたハンマーを片手にもっていた、まるで、否定は許さないというように―――。

「………認めよう。私が君の獲物を狩った。して、それを知って君はどうするんだね?」
「どうするかですか………そうですね………」

問いただしたあとの事を考えていなかったのか、少し思案しだした。
しかし、なぜ彼女が私にここまで食って掛かるのかわからなかった。
確かに、自分の獲物を他人にとられて面白くないのもわかるし、誰が狩ったか気になるのもわかる。
だが、わざわざ起こして問いただす必要もないであろう。
むしろ、自分の獲物が狩られていたのならば、さっさとこの場所から離れて、別の依頼を受けに行けばいいのではないのであろうか?そんな疑問を抱いた。

「では、こうしましょう。お兄さんには私がイャンクックを倒したと口裏を合わせてほしいのです。その代わり私がお兄さんに住むところを提供します」
「ほう………その条件は私になんのメリットはあるのかね?本来であれば、私は君に口裏を合わせなくてもいい、むしろ、私が倒したとして君が受け取るはずの討伐報酬を私が受け取ることで得られる利益の方が君の提案より理にかなっていると思うが?それに、私は旅人だといっているではないか」
「お兄さんのメリットですか?まず、住居を得られます。それから、仕事も得られますし、あとは………可愛い私がついてきます」
「住居ぐらいなら別に私は野宿でも構わないんだが?それに仕事ぐらいなら自分でも探せる。その条件なら私は呑むわけにはいかんな」
「む、最後のは無視ですか?まあ、いいです。でも、お兄さんはホントにこの地域一帯の村の事知らないんですね。ここら一帯の村はお兄さんのような別の地域から来たいわゆる“余所者”には特に厳しいんですよ。今までのところがどうか知りませんが、いくら実力があろうとお兄さんみたいな人には決して仕事を任せてくれないですし、討伐報酬を受け取れないどころか捕まると思いますよ」

話を聞く限りだと、相当余所者に厳しいらしい。
それに、村なら情報やらなんやらを運んでくる余所者の存在が不可欠だと思われるが………

「なぜ、そこまで余所者に厳しい?一般的なところなら普通そこまでそこまで厳しくはないだろう?」
「私もみんなの余所者への反応が気になって村長に理由を聞いたことがあるんですよ」
「それで?」
「曰く、信用だそうですよ。おかしいですよね?私みたいななりたての新米ハンターに依頼を持ってくるよりもお兄さんのような実力ある方に依頼した方が効率がいいはずなのに」

なるほど、信用か。確かに依頼を受けるのなら、いくら実力があっても得体のしれない“余所者”に頼るより、実力がなくとも信用できる同郷の人に任せたほうがいいだろ。
言ってしまえば依頼とはビジネスの一種なのだ。
依頼を受ける側は信用を売りにし依頼者から報酬を得て、逆に依頼者は受ける側から信用を買いそれに見合った報酬をだす。
つまり、このような場合は単に実力だけではなく、それよりも依頼を受ける側が依頼主への信用の有無の方が重要になってくるだろう。
もしかしたら、自らの命が危険にさらされるかもしれないのだ、ならば下手に余所者を連れてくるよりは信用がある者に頼みたいのであろう。それをわかっているからこその村長の判断だと思われる。

「そういうことか………ならば、君の条件をのもう。でも、いいのかね?君が言っている通り、余所者には厳しいのだろう?」
「あ、そこら辺はたぶん大丈夫だと思います。余所者の方に対しては厳しいですけれど、パーティー人員として、もしくは村の方の紹介があれば大丈夫だそうです」
「それは、よかった。では、よろしく頼むよ」

そういって、右手をさしだす。これは、交渉が成立したという証であり、彼女への信頼への証でもある。
彼女は一瞬、虚をつかれた顔をしたものの、右手をだし満面の笑みを浮かべた。

「はい‼こちらこそ、よろしくお願いします‼」






そんなやり取りをした直後、“ぐ~~”と、どこからともなくそんな音が聞こえた。
気になって、音の発生源らしき場所へ顔を向けると、彼女が顔をまっかにしてうつ向いていた。どうやら、発生源は彼女らしい。
ふと、太陽の位置を確認してみると、日は完全に昇りきってはいないものの、あと3,4時間もすれば日は完全に昇りきるであろう。
話し込んでいるうちにいつの間にかかなり時間が経過しているようだった。
少し遅いが朝食でも食べるかね?と尋ねてみたところ、こくんと小さく頷いた。
しかし、食べようと思っても実際、食料はないため食材を採取したり調理をしたりしていたらいつの間にか日が完全に昇り切っていた。
遅すぎる朝食件、昼食をとり、少し休憩をとった。
早く、村の方へ戻らなくても大丈夫なのかと思ったが、村を出発してから三日以内。つまり、明日中に戻れば別にいいらしい。
やはり彼女もモンスターを討伐するということで、いくばくか緊張していたのか休憩を提案した後テント内に入り寝ていた。
休憩といわれてもやることがなく、手持ち無沙汰なのでとりあえずあたりを散策することにした。
あまり、遠くにいくわけにもいかず、昨日や一昨日と同じような場所しか散策できなかったため、あまり、面白味もなかった。
そんなこんなで、日も傾き始めたため彼女のいる拠点へと戻った。
帰ってみると、彼女は起きており、出発の準備を整えていた。
今から出発すれば、道中休憩をはさんでも明日の昼には付くらしい。
明日でもいいのではと思ったが、明日はここら一帯に警報が出るらしく、早めに出発しておきたいそうだ。
なぜそんなことがわかるのか疑問に思いつつ、荷物をまとめる―――といっても、すべて投影で作りだしたものなのでいらないものを破棄しただけだが。
そして、準備が整い次第出発した。ちなみに、今は休憩中で私が見張りをしながら日記を書いている。まあ、受肉して人の体になっていても睡眠ぐらいなら二日、三日とらなくても支障はないだろうと思う。ていうか、そう思いたい。




~追記~
散策していたあたりからやけに視線を感じる。別に敵意はないためほっといているが………
まあ、明日もついてきたらその時に考えよう。




































~???~

「………」

ひっそりと物陰から黙々と見つめ続ける。
きっと、彼は自分のことに気づいているだろう。何度か視線をこちらに向けてきている。
しかし、気づいていて自分に何らかのアクションを起こさないということは、強者としての余裕があるのか、それとも敵意がないとわかっているのか。
どちらでもいい。決して逃がしはしない。自分にとっては二度とないチャンスかもしれないのだ。それ故に見つめ続ける。
そしていつの日か―――――――――




 
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