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八条学園怪異譚

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第五十四話 コンビニの前その六

「やっぱりドーナツ十個はね」
「食べ過ぎたわね」
「ドーナツはカロリーが高いから」
「それに紅茶もかなり飲んだし」
 その砂糖をたっぷりと入れた紅茶をだ。
「だから今はね」
「甘いものは控えてね」
「それでよく歩かないと」 
 愛実は聖花にこうも言った。
「今日はね」
「歩いてカロリーを消費するのね」
「そう、私達って運動部じゃないし元々運動は苦手じゃない」
「走るのとかね」
 二人共文化系だ、身体を動かすことはあまりしない。体育にしても然程得意ではないのだ。
 だから走ることも得意ではない、しかしそれでもだと言う愛実だった。
「けれど歩くことは出来るから」
「歩いてそれでね」
「そう、カロリーを消費しようね」
「ううん、歩くのはいいけれど」
 聖花は愛実の話を受けて考える顔で聖花に言う。
「愛実ちゃんがそう言うとね」
「私が言うと?」
「やっぱりお母さんが言ってる様に聞こえるわ」
「私がお母さん気質だからなのね」
「ええ、最近特にね」
 愛実の母親気質が強くなっているというのだ。
「そうなってきてると思うわ」
「ううん、自覚はないけれど」
「世話好きで家事とか得意でしかも細かいところまで気付いて」 
 愛実の特徴だ、他の女の子の制服のほつれにすぐに気付いてそこから裁縫道具を出してなおしてあげるのが愛実なのだ。
 聖花も愛実のそうしたところをいつも見ているからだ、こう言うのだ。
「やっぱりお母さんよ」
「その気質が特になのね」
「強くなってるから」
「ううん、そうなってきたのね」
「お姉さんよりそれが強くなってない?」
「お姉ちゃんよりも?」
「そう、もっとね」
 そうなっているのではないかとだ、聖花は愛実本人に話す。
「お母さんになってきてるわ」
「お母さんね、じゃあ結婚して子供が出来たら」
「いいお母さんになると思うわ」
「嬉しい言葉だけれど十六でお母さん気質っていうのもね」
 どうかとだ、愛実は微妙な顔になって述べた。
「複雑ね」
「お母さんならいいんじゃないの?」
「いいの?」
「おばさんじゃないから」
「あっ、おばさんって言われたらちょっとね」
 愛実にしてもだというのだ。
「私も嫌だから」
「そうよね」
「お母さんとかお姉ちゃんって言われるのはいいけれど」
 そうしたことは言われると複雑な気持ちになるが悪い気はしない、しかしおばさんと言われると。
「おばさんはね」
「嫌よね」
「うん、多分三十や四十になってもね」
「私もね」
 聖花も愛実のその言葉に頷いて答える。
「おばさんって言われるとね」
「おばさんって言葉はね」
 それはというと。
「もうNGワードよね」
「そうそう、女の子にはね」
 この辺り女の子は複雑だ、おばさんと言われると幾つになってもそれこそ覚悟を決めるまで言われたくないのだ。
 だからだ愛実と聖花もこう言うのだ。
「何時までもお母さんでいたいわ」
「私も。お姉さんでね」
「そう言われたいわよね」
「これからもね」
 こう話す二人だった、そうして。
 そうした話をしつつ商業科に戻り学園生活に戻る、そして夜になると。
 二人は夜の学園にいた、愛実は真夜中の濃紫の学園の中で一緒にいる聖花に顔を向けてこう言ったのだった。 
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