『八神はやて』は舞い降りた
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第2章 赤龍帝と不死鳥の騎士団
第20話 これが私の全力全壊
前書き
・子猫、覚醒編。
・スターライトブレイカー登場。
「ふむ、大分戦闘技術の方は向上してきたようだね。だが、まだ足りない。たった10日じゃ大きく実力が伸びることはない」
真剣な顔をしたグレモリー眷属の前で話す。
その一方で、彼女たちなら実戦の中で急成長するかもしれない、とも思う。
物語の主人公が戦いの中で大きく成長するのは、王道なのだから。
「悔しいけれど、はやての言うとおりね。あなたたちの特訓のお蔭で実力はついたつもりだけど」
「部長、まだ足りないということでしょうか?」
悔しそうに話すリアス・グレモリーに、兵藤一誠が問い返す。
それに答えたのはシグナムだった。
彼女曰く、半端に実力がついたところで、増長するのが一番危険、だそうだ。
生兵法は大怪我の基、ということだろう。
「そこで、だ。ボクの魔法にとっておきのヤツがある。試してみるかい?」
ニヤリと笑みを浮かべながら、グレモリー眷属にある提案を行った。
◆
リアス・グレモリーは、八神はやてに心から感謝していた。
彼女を巻き込んでしまい申し訳ない気持ちはいまでもある。
だが、それ以上に、合宿の特訓が実りあるものになったのは、彼女たちのお蔭であるのだから。
はやてのある魔法のお蔭で、たった10日足らずとは思えないほどの、濃密な訓練を行うことができた。
――幻想世界(ファンタズマ・ゴリア)
これこそ、はやてが提案した特訓の切り札だった。
効果は、幻想世界に精神を閉じ込めるというもの。
幻想世界に長時間いても、外の世界では一瞬でしかない。
つまり、時間がない今のような状況には、まさにうってつけの魔法だった。
はやては、ドラグ・ソボールの「精神と時の部屋」みたいなものだよ、と説明していた。
ただ、苦笑しながら、この世界はネギまがないもんね、とつぶやいていた。
焼き鳥にネギまで対抗するなんて、なんという共食い……とドヤ顔で言い放っていたが、八神家の面々から白けた目線を向けられていた。
どういうことなのかと疑問符を浮かべても、はぐらかすだけで答えてはもらえなかった。
もちろん、経験のフィードバックはできても、現実世界の身体能力が向上するわけではないから、実際に身体を動かす時間も必要だ。
それでも、幻想世界での膨大な経験は、グレモリー眷属の急激な実力向上という結果となって帰ってきた。
それで、気づいたことがある。
「どうした?まだまだできることがあるだろう――ボク一人倒せなくてはライザー・フェニックスには勝てないぞ……たぶん」
八神はやては強い。
グレモリー眷属全員でかかっても返り討ちにされるほどに。
ひょっとしたらライザー・フェニックスよりも強いのではないか、とリアスは考えていた。
それも当然だろう。
なにせ彼女は、シグナムから槍術を、
ザフィーラから格闘術を、
ヴィータからは戦術眼を、
シャマルからは回復術を、
リインフォースからは魔法全般を、
それぞれから吸収してきたのだから。
シグナムは剣士だが、永きにわたる戦の経験もあって、武芸一般に通じていた。
最初は半信半疑だったはやても、その見事な槍裁きに瞠目したほどである。
その実力は、彼女に師事したはやての槍裁きをみれば明らかだった。
ではなぜ、はやて一人と全員で戦っているのか。
それは、ライザー・フェニックスを一対多で追い詰めるためである。
シグナム曰く、ライザーの取り巻きの眷属クラスなら、すでに容易く勝てる、とのこと。
ゆえに、はやてをライザーに見立てて、格上との戦いの経験を積ませるともりだった。
「くっ、騎士のボクが切り合いで負けるなんて……」
悔しそうな顔を浮かべる木場悠斗をみて、さもありなん、と思う。
子猫は格闘戦で負け、一誠は力比べで負け、朱乃は空中戦で負けた。リアスの砲撃戦でも勝てなかった。
リアス本人も、はやてがここまで強いとは考えていなかった。
とっておきの必殺技といってよい「消滅の魔力」を放ってさえ、敵わなかったのだから。
ボクは、近接戦闘もできる万能型だが、本来は、攻勢後方支援タイプなんだよ、としれっといわれて絶句したのは、つい先ほどのことである。
絶対ライザーより強いだろ、とリアスだけではなく他のグレモリー眷属も心の中で思っていた。
「俺たちは、後衛タイプの八神さんに接近戦で負けたのか」
絶望的な表情を浮かべる一誠。
幻想空間にて、なまじ経験を積んだことで、余計に実力差がわかってしまった。
『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』という規格外の神器を宿していながら勝てなかった。
だが、この中で一番進歩したのもまた一誠だろう。
幻想空間での苛烈な特訓によって、はやてと数合なら打ち合えるほどになったのだから。
たった数合とはいえ、まったくの素人だった彼からすれば、大きな進歩といえる。
「さあさあ、休憩は終わり。合宿残りも少ない。仕上げといこうじゃないか」
◆
塔城子猫は、戦慄していた。
『戦車』として転生し、グレモリー眷属となってから、格闘術には磨きをかけてきた。
にもかかわらずザフィーラには全く勝てなかった。
いや、彼はまだいい。格闘戦タイプなのだから。
それよりも、後衛タイプの八神はやてにまで勝てないとは、どういうことか。
たしかに、ザフィーラよりは劣っていることはわかる。
だが、子猫よりは上だと断言できた。
「でも、それでも、私は、負けないッ!」
なおも続ける。ここで倒れるわけには、いかない、と力を込めて叫ぶ。
部長の恩義にこたえるため、大好きなみんなを守るため。
「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に!」
ブフォッ、とはやてが噴き出す声が聞こえた。
れ、レイジングハート?という呟きも聞こえる。
よくわからないがチャンスだ。
「受けてみて!これがわたしの全力全壊ッッ!!」
全速力で接近し、驚愕の表情を浮かべるはやてに向かって掌底を放った。
この掌底こそ子猫のとっておきだった。
短時間で成果をあげるため、といってザフィーラから一つの技を集中的に磨くように勧められた。
その言葉に従い、子猫は一番自信のあった掌底を集中的に鍛え上げたのだ。
その成果が、この一撃である。
ぐほっ、と女の子が言ってはいけないような声をあげて吹っ飛ぶはやて。
この模擬戦で、初めてはやてにクリーンヒットを与えた瞬間だった。
「や、やった!」
「ナイスよ、子猫!」
喜ぶ子猫に、リアスもねぎらいの言葉をかける。
他のグレモリー眷属も初めての快挙に声援を送っていた。
「やってくれたね、塔城さん……さっきのセリフはどこで?」
「ヴィータさんです」
ヴィータ姉ぇ……、と何とも言えない顔をするはやて。
さきほどのセリフは、ヴィータが教えてくれた言葉だ。
訓練中ザフィーラにいいようにあしらわれて、消沈していた子猫に近づいてきたヴィータは語ったのだ。
とある魔法少女の不屈の心の物語を。
子猫はその物語に感動した。少女の不屈の魔道に胸を打たれたのだ。
感動した結果が、先ほどのセリフとともに放った掌底、名付けて「スターライトブレイカー」である。
この必殺技を告げた時、またはやてが噴出したが何かあったのだろうか。
ちなみに、むきになったはやては、次の模擬戦で、開幕早々広域殲滅魔法を発射して、ワンターンキルをしていた。
「マスター、彼女たちにいきなりデアボリックエミッションを放つのはあんまりじゃないですか?」
「いや、まあ、ヴィータ姉のせいだよ、うん。そっかー、魔法少女リリカルなのはに一番感動していたのって、ヴィータ姉だしねえ……」
と、あきれ顔のリインフォースに小言を言われるはやてを見ながら、はやてに一撃を入れたスターライトブレイカーを鍛え上げようと決心する子猫だった。
◇
――時刻は、夜十一時四十分を過ぎる頃だった。
ボクは、家族と旧校舎にあるオカルト研究部の部室にいる。
各々のアームドデバイスを起動し、騎士甲冑を展開している。準備は万端だ。
リアス・グレモリーたちグレモリー眷属も、思い思いの格好でくつろいでいた。
アーシア・アルジェントが何故かシスター服だったが、他全員は、駒王学園の制服を着ている。
(主はやて、緊張しているようですね)
これから戦場に赴くというのに学生服は場違いな気がしないでもない。
が、木場は手甲と脛当を、小猫はオープンフィンガーグローブをつけていた。
ボクたちも、それぞれのアームドデバイスを手に持っている。
シグナムは、剣型の『レヴァンテイン』
ヴィータは、ハンマー型の『グラーフアイゼン』
シャマルは、ペンデュラム型の『クラールヴィント』
ボクは、騎士杖型の『シュベルトクロイツ』
(シグナムにはバレていたか。負けられない戦いだからかな。高慢ちきな男に好き勝手される趣味はないのでね)
(あの焼き鳥やろう。あたしがゼッテーぶっ飛ばす)
念のために説明すると、デバイスとは、メカメカしい魔法の杖だと思ってほしい。
普段は、待機状態となり、小型化して持ち運びがしやすくなっている。
ボクのシュベルトクロイツは、待機状態は、剣十字を模したペンダントだ。
(ご安心ください、主はやて。我らヴォルケンリッター一同、一命に代えましても勝利を捧げて見せます)
(うん。ありがとう。ボクには頼もしい騎士たちがいる。これほど心強い味方はいないさ)
(お任せください。盾の守護獣の真価を見せましょう。主の護衛ができぬのが残念です)
起動すると、騎士甲冑あるいは騎士服――防護服ともいう――と呼ばれる衣裳も身にまとう。
騎士甲冑は、好きにデザインできる。
たとえば、ボクの騎士甲冑は、原作の「八神はやて」と同様だが、鎧には見えない。
しかしながら、見た目によらず、全身を魔法で守る優れた防御性能を誇る。
起動状態のデバイスは、戦闘形態へと変化し、魔道師――ベルカ風にいうと騎士――の武器となるのだ。
ボクのデバイスであるシュベルトクロイツは、大人モード使用時のボクの身長を越える程度の騎士杖へと形態を変化させる。
杖としても短槍としても扱える頼もしい相棒だ。
(マスターもご無理をなさらぬように。我々だけでも、不死鳥を完封できましょう)
(リインフォースの言う通りよ、はやてちゃん。王は、どっしりと後方で控えているのがお仕事なのだから)
(わかったよ。ただ、止めは譲ってもらうからね。宣言どおり、おのれの分を弁えさせてやらないとね)
デバイスには種類があり、アームドデバイスとは、杖というより近接戦闘用の武器として扱うデバイスのことを指す。
原作で主流だったミッドチルダの魔道師に比べて、ボクたちベルカの騎士は、接近戦を好む。
したがって、自然と武装は、アームドデバイス一択になるのだ。
(さて、そろそろ時間、か。他の部員たちもリラックスできている。特訓の成果かな?まあ、地獄のような特訓を乗り切ったのだ。自信はついただろうさ)
開始十分前となり、部室の魔法陣が輝いて、銀髪銀目のメイド――グレイフィアが出現する。
「みなさん、準備はお済みになりましたか? 開始十分前です」
後書き
・幻想世界(ファンタズマゴリア)は、ネギま!に登場する魔法。精神と時の部屋ですね。
・「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に! レイジングハート、セットアップ!」初回の変身呪文よりも短いバージョンです。
・塔城子猫はスターライトブレイカー(物理)を習得しました。
・原作知識として魔法少女リリカルなのはは詳しく説明しています。他の漫画・アニメについても。
ページ上へ戻る