正義と悪徳の狭間で
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導入編
麻帆良編
導入編 第8.5-M話 千雨という少女
前書き
少し真名とかから見た千雨ちゃんの描写とかを。
やっぱし、プロットだけだと文章増えては消してで進みが悪いですね。
私はマナ・アルカナ、あるいは龍宮真名、四音階の組み鈴に所属する魔法使いである龍宮コウキの従者をしている。
「なあ、マナ」
隣を歩いている栗色の髪をした同い年の友人が私に呼びかける
「なんだ?千雨」
こいつはレイン、或いは長谷川千雨。
旧世界の魔法使い社会最大の(武器を含めた)魔法具メーカーにして販売業者、アンブレラ社の正規メンバーだ。
今日、関東魔法協会から営業許可を受け、麻帆良の案内をしていた。
アンブレラ社は非魔法使いの裏社会においては巨大な武器商社として活動している為に一般的な魔法使いには受けが悪い組織である。
ちなみに魔法使い社会ではアンブレラ社のやってる事はギリギリ合法だ。
…現地の法律はグロス単位で破っている筈だがそれを突っ込むと他の魔法使いも首がしまる。
航空法や建築物の規制、武器規制、労働規制等、マギステル・マギだってダース単位では法律を破っている。
「上質な蜂蜜が欲しいんだが、良い店知らないか?」
…蜂蜜?
『レイン、蜂蜜の専門店なら知っているがまさかミード(蜂蜜酒)を作る気じゃないだろうな?』
確かレインはミードなんかの甘い酒が大好きだった筈だ。
ロアナプラで数泊する時は毎回の様に酒場に連れていかれる。
まあ、レインと飲む酒は嫌いではないのだが…そんな話をする気なら、とせめて日本語は避けた
パチン
レインが認識阻害をかけた
…おい
『…マナ、私はちゃんと確認したんだ』
『何をだ』
『…私が関東魔法協会に渡した誓約書(ギアスペーパー)を常識的に解釈した場合、
非魔法関係者に提供しない限りミードの醸造をしてもなんの問題もない!』
?…ああ、確かに予想される条文からすれば魔法関係者(本人含む)への提供目的なら醸造しても誓約違反には…
そう考えかけたが私はレインに歩み寄る。
『そう言うことじゃない!この大馬鹿者!
私達が麻帆良てJr.ハイスクールスチューデントをするのは表の平和な学生生活を楽しむ為もあるんだろうが!
密造酒作る中学生がどこにいる!』
レインの胸ぐらを掴む。
『落ち着け、落ち着いてくれマナ。
向こうじゃミードなんて一晩で1瓶あけてもお嬢ちゃん呼ばわりされる様な代物で…』
『ここはノーロアナプラだ!麻帆良なんだぞ!』
本気で非殺傷型の魔法弾を食らわせてやりたいがこんなところで銃を抜いたら駄目だ、と自重する。
『わ、わかった。わかったよマナ、醸造はしない。蜂蜜の水割りかお湯割りで我慢する』
『それで良い…まて、醸造は?まさか亜空間倉庫でミードを持ち込んでるんじゃないだろうな』
『いやミードは持ち込んでねぇよ』
『ミード『は』?他に何を持ち込んでる』
少しだけ殺気をこめる
『カルーアとカシスとゴディバを各3瓶ずつだけ…』
『没収だ!』
善良…かどうかはともかく、気の良い奴なんだがミードやカルーアみたいな甘い酒が大好きなのだけ…ではないがそう言った所がタマに傷だ。
入学式の日にクラスで結成式と称してパーティーをした。
こういうバカ騒ぎはしばしば経験したが戦場、四音階の組み鈴、ロアナプラ、そのどれとも違っていて新鮮だった。
お目当ての曲は歌わせられなかったが、レインの歌声を皆で楽しめたし…その歌声を今晩は私だけが独占できる。
入浴を済ませて就寝またはパジャマパーティーに移行となった隙に、桜咲に先に大浴場に向かう様に告げた上で私達は抜け出して屋上に行った。
「さ、曲目は?何を歌えば良い?」
「『the world of midnight』だけ…と言いたいが『Red fraction』もだな。
順番はダンスが先で次にレクイエムだ
今日のパーティーも楽しかったが、メインの前に少しだけviolenceを足そう」
そう言って私は笑った。
「オーライ、ダンスが先だな…珍しい。二曲だけってのもだが順番もだな」
レインはそう言いながらタイを緩め、ゴム製のナイフを抜く。
「桜咲をあまり待たせる訳にはいかんだろう。
それに…これで締めだからな、danceを後にしたらたぎって仕方ないだろう?」
「違いない」『いくぜ、マナ』
『ああ、踊ろう。レイン』
私達は『ダンス』を始めた
「ふぅ…」
溜め息を一つ。
拙者は長瀬楓と申す。
ああいうばか騒ぎは初めての体験でなかなかに愉快で御座ったが少し疲れた。
…そしていささか食べ過ぎたでござる。
入浴前に夜風にあたろうと同室の童の様な双子にことわってから寮の屋上に向かった。
…物音がする、先客がいたか。
見つからない様に窓の外を経由して屋上の物音がする場所とは逆の端に上がった。
そしてこっそり様子を伺うと…そこでは二人のクラスメイトが歌いながら戦って…いや踊っていた。
確か名を龍宮真名と長谷川千雨と言ったか。
長谷川殿の歌声は昼にも聞いたが、あれは良いものであった。
しかし…いまはまるで二匹の狼がクルクル回っている様にみえる。
二人が手練れであるのは一目見て直ぐにわかった。
しかし、いまはそれに加えて先程までは隠していた裏…いや闇の人間のにおいがプンプンする。
厳密には長谷川殿は全うな表の人間相手ならともかく、
拙者の様な裏に関わる人間にはわかるボロを数えきれないほど出していた。
それを長谷川殿の未熟ゆえの事だと思っていたがそうではなかった。
隠しきれていない本当の理由は闇が濃すぎるからでござった。
いや、隠す事に練達していないと言う意味ならば未熟で間違いない、
多少の違いもあるが今まさに同じ様に濃い闇を纏って踊っている龍宮殿は上手く隠していたのだから。
二人が纏う闇のにおいは昔、暗殺を生業にしていたという里の老忍が見せてくれた闇に似ていた。
通常、闇を纏うモノはその深さに相応しいだけの隠し方を身に付ける。
少なくとも拙者は山でそうとわかる闇の者など価値が無いと教わった。
暗殺者にとって潜伏時に手練れである事がばれれば無用な警戒をうみ、その価値を著しく減ずると。
拙者は暗殺者ではなく戦闘員として訓練を受けているゆえ、普段は一般人に紛れる必要がない。
むしろ、わかる者には見せ札として手練れである事はバラしつつ、その実力を読ませない事が肝要だと習った。
であるからして、拙者はこの生来の性格を殆ど矯正されることもなく生きてきた。
逆に言えば長谷川殿はあれだけ深い闇を纏う生き方をしておきながらそれを殆ど隠さなくても良い生活をしてきたという事…
拙者の常識で考えれば、必要ならば積極的な殺しを躊躇わず、
それを威嚇及び抑止力とするヤクザ者の世界でも狂犬と呼ばれる護衛や用心棒の類…
だがその様な人間が日本の表社会に学生生活をしに来るだろうか?
そんな事を考えていると二匹、いや二人の歌と踊りも終わった様だ。
楽しそうに笑い会うと2メートルほど離れて向かい合った。
龍宮殿が何かを取り出し、口元にあてる…ハーモニカの様だ。
ドから順にレ、ミと吹き、それに長谷川殿が声であわせる。
そのまま順に1オクターブ高いドまで達し、元のドまで下がる。
二人は歩みよりくるりと回って背中合わせになる。
そして次の曲が始まった。
その歌声と音色は先程とうってかわって優しいものであった。
昼の歌声が歌姫、先ほどのが狼だとすればこれは…人魚か。
彼女達が纏う闇はより一層深みを増した様に思う…が、もはやその闇からは狂気を感じなかった。
それは平和で静かな夜の一時にも似ていた…いつしか拙者は二人の奏でる歌の世界に吸い込まれていた
まさに獲物を誘う『魔物』の歌声と言うべきか…
歌は続く
歌詞は英語で、理解が怪しいが、それでも想像はついた。
これは…光に生きられなくなった者が闇に身を投げる歌ではないか?
時に皆を楽しませる楽師のように楽しげにうたったかと思えば、
ある時は餓えた獣の様な、狂気を孕んだ闇を纏い、
その直後にはその闇が泣く幼子を優しく抱き締める様な闇になる
彼女達の居場所は良くも悪くも日の当たる場所ではないのだろう。
それだけが今の拙者に理解できた事だった。
だがそれでも、拙者は彼女達は外道ではないと判断していた。
今日の千雨の、レインの歌声は今までで最高の出来だったと私は感じた。
『マナ、良い音色だったよ』
『お前もな、やはりレインの歌声は良い。今までの中でも最高のできで嬉しいよ』
「…今日は観客もいたから尚更だ」
敵意が無かったから放置したが私達の舞台を覗いていた者がいる。
そう、私だけが独占できるはずだったレインの歌声を
まあ、覗き自体は少し残念だがそこまで気にしていない。
むしろ途中まで気付かなかった自分に腹が立つ。
「何…何処だ」
レインが辺りを見渡す…レインとそいつの目があう
「見事な隠行術だった。途中まで気付かなかったよ、長瀬」
そう、覗いていたのは同じ組になった長瀬楓だ。
最初は単純に気配が無いのではなく、一流のスナイパーの様に周囲に溶け込んでいた。
だが歌の途中で気配が動き、見つける事ができた。
「いやはや、入浴前に夜風に当たりに来たら二人が楽しそうに踊っていたのでつい見学させてもらったでござるよ。
不快に思われたなら申し訳ない、謝罪する」
ゴム製の訓練用とはいえとはいえ、ナイフ格闘をしながらのダンスにその反応…な
「かまわないさ。好んで見せる様なものじゃないが見られて困る様な事じゃない」
千雨がそう言いながらアンブレラのペンダントを取り出す。
「そういっていただけると幸いでござる。スマヌが、双子を待たせているのでお先に失礼するでござる」
アンブレラのペンダントには反応なし…
「ああ、私達も少ししたら風呂に行くよ。それとここでのことは皆には言わないでくれ、また歌をさせられる口実が増える」
「そうでござるな、『お互い』あまり知られたくない事の一つや二つもあるでござろう!」
直後、長瀬の姿が掻き消える…忍びの類かな、あいつは。
「私達も行こうか、マナ」
「ああ、そうしよう、千雨」
こうして私の、私達の麻帆良生活は始まる事となった。
後書き
これにて導入編はおしまいで平和な?日常編が少し入ってから麻帆良、ロアナプラでの転機、そしてその日常といった後に原作入りという予定になっています。(思いつきで盛らない限りは
楓の二人に対する認識は概ね正しいです。
千雨もマナも正真正銘、闇の住人で言うなれば二人とも『ほんの少し優しい誰かに拾われた双子』なんです。
コウキがマナを助け出していなければ、あそこでレインがロボスに追われてアイシャと出会ってなければ、二人には双子と同じ末路も十二分に有り得ました。
だからこそ二人と二人は友達になれました。程度や経緯は違えど四人は互いに鏡写しの自分なのですから。
一番幸せな人生を歩んで来たのが(壊れた幼い千雨の分も合わせた)千雨って時点でお察しです。
いやまあ、レインになってからの千雨ちゃんって主観では凄く幸せな人生歩んでますけどね。
客観的に見ると壊れた幼女が生きる為に背徳の街で人殺しに手を染め、ついには犯罪組織の一員となってしまった。
って経歴なんですが本人の主観では、
産まれて直ぐに抑圧者から自分を解放し、運良く金と力も手に入れ、金を活用できる比較的善良な商人に接触でき、
酒や賭博を初めとした娯楽を楽しみながら、命懸けの苦労はしつつも、
ロアナプラ基準では極めて待遇の良いアンブレラに雇われ、正規メンバーにまで到達してますし、
その上、保護者と友人(三人中二人死んでますが)にも恵まれています。
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