七色の変化球
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3部分:第三章
第三章
「それを狙うか」
こう考えてだ。バッターボックスに入ったのだ。
そのうえで若林と対峙する。その彼は。
まずはカーブを投げてきた。それはだ。
ボールだと見た。それで見送った。
これでワンボールだ。一球目はそれで終わった。
「ここは変化球は打たん方がいい」
青田は一球投げたマウンドの若林を見ながら呟く。
「下手に打ったら打ち損じて」
それでどうなるかというのだ。
「ゴロかフライになってアウトになる。ワカさんもそれを狙ってる」
若林のその考えは読めていた。技巧派であり頭脳派である彼のその考えはだ。これまでの幾多の勝負からだ。読めるようになっていたのだ。
それでだ。彼は話すのだった。
「それなら。ここは」
ストレートだというのだった。
「それを狙って」
スタンドを見る。観客達のいる外野スタンドをだ。
そこを見てだ。それで言うのだった。
「ホームラン、狙うか」
一発勝負だった。若林をそれで打ち崩すつもりだった。それが今の彼の考えだった。
そのうえでストレートを待つ。その二球目は。
スライダーだった。今度はだ。
内角低めに入る。しかもぎりぎりだ。これは見送った。
ワンストライクワンボール。これはいいとした。
「今のは簡単には打てん」
そう思ってのことだった。
「打っても相当上手にすくいあげん限り打たせて取られる」
こう判断してだ。見送ったのだ。
「それにカウントはまだある。それならや」
見送ってもよかった。それで見送った。
こう呟きながらだ。あらためてだ。
若林を見る。彼は表情を変えない。だがその目はずっと青田を見ている。彼の一挙手一投足まで見てそのうえで考えを読もうとしている目だった。
その目を見てだ。青田も思った。
「あの目に惑わされたらあかん」
こう思ったのだ。
「読んでるのはこちらも同じ。読まれてることを意識した方が負ける」
それが勝負だった。
「それなら。読み勝つ」
腹を括ってだ。そうするというのだ。
そう決めてだ。そのうえでだ。
構えを取り続ける。そして三球目を待つ。
今度はシンカーだ。外角高め。しかしだ。
本当に僅かだった。僅かにだ。
コースから外れる。青田は一瞬手を出しそうになったが止めた。ボールと見てだ。
「これも手は出したら駄目だ」
ボール、しかもやはり変化球だ。それならばだった。
手を出してはいけない、しかもこれで打たせて取られては元も子もない。それでそのボールもだ。すんでのところで見送った。
そうしてだった。三球目も終わった。続いては。
異様なコースだった。内角、腹のところに来てすんでのところでコースに入る。際どいシュートだ。それが入ったのだった。
若林のボールは遅い、だからまた手を出しそうになった。しかしそれこそが若林の罠だと見てだ。青田はそのシュートも打たなかった。
「まだストライクは一球ある」
それでだ。ここは見送ったのだった。それでだ。
彼は四球目も手を出さなかった。ツーストライクツーボールになった。
「あと一球か」
もうストライクの見送りは許されない。それを覚悟した。
覚悟してだ。彼はあることを考えた。
「難しいけれどあれしかないな」
その考えはというとだった。
「カットしていくか」
ボールを打ってわざとファールにしようと決めたのだ。ストレートでないストライクが来たならばだ。そうすると決めたのである。
ただしこれには相当のバットコントロールが必要だ。青田といえどもそうそう簡単にはできない。しかしそれでも今はなのだった。
「ストレートを確実に打つ」
こう決めてのことだった。
「それなら。今は」
それしかないからだ。それでだった。
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