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ドラゴンクエストⅤ~リュカとサトチー~

作者:桃色デブ
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第6話 オッサン


「あー魔王っていうのは嘘な」

「ええっ!?」

 洞窟に入って20分ほどして唐突にサトチーにいさんが言い出した。
 あっさりしたもので、悪びれることもなく笑っている。といってもサトチーにいさんが適当なことを言うのはいつものことなので、ぼくもすぐに諦めた。

「でも、じゃあおとうさんはなんでこの洞窟に入ったの?」

 さあな、なんて言ってサトチーにいさんは答えようとしない。じゃあ、ぼく達勝手に洞窟に入ったりして怒られないかな?
 でも、サトチーにいさんは、ぼくの心配もよそに軽快な足取りで奥へと進んでいく。

「おっ」

 サトチーにいさんが嬉しそうな声を上げる。その視線の先には一匹のスライムがいた。暗がりでよく見えないけれど、なんだかすごくプルプルしてる。

「ふっふ。草原では情けない姿を見せちまったからな。ここで汚名挽回だカミーユ」

 カミーユって誰? と、ぼくが言うより早くサトチーにいさんが身構えた。

「おまえは……おれのぉぉぉぉぉぉ!」

 叫びながら木の棒を振り上げる。けれど、ガシっと乾いた地面を叩く音が響くだけで、スライムは身軽にかわした。サトチーにいさんは諦めずに、ぶんぶんと棒を振り回すけれど、一向に当たる気配は見えない。
 少しして、サトチーにいさんは大きく息を荒げていた。

「ぜぇっ……はっはぁ……や、やるじゃねえか」

 スライムを睨み付けて言うが、木の棒を持つ手がスライムみたいにプルプル震えている。けれど、そんなサトチーにいさんをスライムは一向に攻撃してこない。さっきから逃げ続けているだけだ。
 そして、ぼくは何だかさっきから、もやもやした気持ちがしていた。だから、サトチーにいさんに言った。

「ねぇサトチーにいさん。もう逃がしてあげようよ」

 スライムはさっきからピギーって叫び声を上げているけれど、ぼくにはその鳴き声が怖いとは思えなかった。むしろ、逃げようとしているようにも聞こえた。

「あーん?」

 サトチーにいさんはぼくを睨み付けたけれど、すぐに思案顔になって、うーんと唸ってから結局は頷いてくれた。

「ほら、もう行っていいよ。怖い思いさせちゃってゴメンね」

 ぼくとサトチーにいさんのやりとりの間もやっぱりプルプル震えていたスライムは、ぼくの言葉が分かったのか嬉しそうに鳴いた。そして逃げていくとき、ぼく達のほうを振り返って、大きくピョコんと飛び跳ねた。

「なあ、リュカ。俺にはピギーピギーとしか聞こえなかったけど、オマエはアイツがなんて言っているのか分かったのか?」

 スライムがいなくなってサトチーにいさんがそう問いかけた。ぼくにも同じようにしか聞こえなかった。でも、なんだか、良く分からないけれど、なんて言っているのか、なんて言いたいのかはちょびっとだけ分かった。スライムって表情が変わらないけれど、怖いとか、嬉しいとか、なんとなくだけれど分かった。
 ぼくもよく分からなかったけれど、そのよく分からないことをサトチーにいさんは嬉しそうに聞いてくれた。ぼくも少しだけ嬉しくなった。

「よし! それじゃあ先に進むか」

 サトチーにいさんが進む。その背を追いかけながらぼくはついていく。てくてくって。
 どれくらいたったのか分からないけれど、足が痛くなってきたからきっと、たくさん歩いたんだと思う。きっと外はもう暗くなっているかもしれない。だからサトチーにいさんに帰ろうって言ったのだけれど、サトチーにいさんはまだ全然1時間も経ってないって言う。そうなのだろうか。

「洞窟の中と外じゃあ感覚的に時間の進み方が違うんだろうなぁ」

「そうなの?」

「暗くてモンスターもいて、何だか疲れるだろう? いつ敵が来るかわからないから気も張っていなくちゃならない。だから外を歩いているときより疲れるんだよ」

 そうなのかもしれない。洞窟の奥、暗くて見えない場所とかはやっぱり少し怖い。静かなのに、どこか遠くから聞こえてくる岩が転がるみたいな音もなんだか怖い。
 ん? 何か聞こえる。

「ねえにいさん、この音なあに?」

 ごごごってそんな感じの音だ。もっとずっと奥から聞こえてくる。

「あん……? 確かに何か聞こえるな。もしかして……」

 そう言うとサトチーにいさんはいきなり駆け出した。ぼくは暗がりに消えてしまいそうなその背中を必死になって追いかけた。

「待ってよ~」

「あっちだ!」

 サトチーにいさんはしばらくすると立ち止まった。その眼を向ける先には大きな岩がある。音は岩から聞こえてくるみたいだ。うん、やっぱりそうだ。さっきよりもはっきり聞こえる。ごごごごって、ぐごごごって、おとうさんが寝ているときみたいな音だ……って、アレ?

「……いびき?」

「おう、リュカ。こっち回って見てみろ」

 サトチーにいさんの言うとおりに回り込んでみた。そこでぼくは、びっくりして飛び跳ねてしまった。

「わひゃあっ!」

 そこにはヒゲがぼうぼう生えたおじさんの顔があった。よくよく見れば、岩の下に身体が埋まっているのが分かったけれど、最初は顔だけしかないように見えてビックリしてしまった。

「おい、じいさん。起きろ!」

 サトチーにいさんがヒゲのおじさんの顔をペチペチ叩く。

「んん~? ……おお、坊や達はこんなところで何をしているんだい?」

「それはこっちのセリフだよおっさん。まるで、薬草を取りにいったけれど岩の下敷きになって身動きが取れずに疲れて眠っちまったドワーフのおっさんみたいだぞ」

「お、おお。よ、よく分かったねえ。まったくもってその通りだよ。……坊や達、この岩を動かすのを手伝ってくれないかい?」

「おう。良いけど、この岩ほんとに動くのか? すんげえ、でけえぞ。というか、おっさんがどうしてこんなデカイ岩の下敷きで案外平気そうなのか不思議だ」

 サトチーにいさんが言うように、岩はぼくたちの身長ぐらいある。とてもじゃないが動くとは思えない。

「ああ、それはおじさんが探していた薬草が岩の下にあるくぼみにあってね。取ったは良いが、身体が引っかかって動けなくなってしまっただけなんだよ」

「ああ、それで仰向けじゃなくてうつ伏せなのか」

 う~ん、とサトチーにいさんはうめいて、ポンっと手を叩いて言った。

「良い考えが有る」

 そう言ってにやりと笑う。

「おいおい、坊や達。なんだったら村の大人達を連れてきてくれれば良いから……というかそっちの方が良い気がするんだが」

「まぁまぁ、ここは俺達に任せてください。沈没寸前のイカダに乗ったつもりで安心して下さい」

「安心出来る要素が皆無なんだがそれは……」

 サトチーにいさんは、ぼくを呼び寄せて小声で話す。

「おいリュカ、オマエ親父に最近魔法を教えて貰ってたよな?」

「うん」

「岩に向かって打ってみろ」

 ぼくはひとつ深呼吸して岩に向けて手をかざす。

「ん? ぼうや、何をしてしているんだい? おじさん凄く嫌な予感がするんだが……」

「バギ」

 ぼくの手から出てきた風は、岩の表面をがりがりって削っていく。ぼくも吹き荒れる風の反動で後ろに転んでしまった。けれど、おじさんはもっと大変だった。

「ぎゃああ、痛い! 岩の、岩の破片がぁ!」

 ちっちゃい破片がおじさんの顔に当たったようで、悲鳴を上げている。なんだか、すごく申し訳ないことをしてしまったようだ。

「ご、ごめんねおじさん」

「い、いや。ちょっとすごく痛かったけれど大丈夫だよ。それに岩も今の魔法でだいぶ削れて軽くなったようだし、これなら……ふんっ!」

 おじさんが掛け声を上げると岩がごろりと転がっておじさんが這い出てくる。

「うん、ちょっと予想外のこともあったけれど、君のおかげでなんとか出られたよありがとう、っとこうしちゃいられない。早く薬草を作らなきゃ」

 お礼もそこそこにおじさんはすっ飛んで行ってしまった。

「俺たちも帰るか」

 洞窟もちょうど行き止まりだった。ぼくたちは暗い洞窟をゆっくりと戻っていった。



 
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