この夏君と・・・・・・
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妹の葛藤 ~梢side~
にぃは私に隠し事をしてる!
それはにぃの話を聞いた時すぐわかった。
だってにぃが夜の学校で夏目先輩とあったということは、魔法をみていることなのだから。
魔法の存在を――裏の世界の一端を知られてしまった!
お父さんとお母さんが死んだあの日から私だけが知っていたはずのこと。
にぃにはずっと隠してきた存在。
それを知られてしまった。
幸いにぃはまだ魔法というものが自分になんの関係も無いものだと思っているのだろう。まさか自分の人生を変えた存在だとは思ってもいないだろう。
――お父さんとお母さんは魔術師に殺された。
私の両親はどちらも魔術師だった。それはもう恰好よくて魔術師の間でカリスマ的存在だった、らしい。
勿論あとで聞かされた話だ。魔術師の間では子供に魔法の存在を教えるのは子供が十才以上になったらというのが慣習らしい。けれど私もにぃもお父さんたちが死ぬ時にはまだ十才にはなっていなかった。
私が魔術の存在を知ったのはお父さんたちの詩から数日後だった。
葬式の時、放心状態だった私に一人の女性が声を掛けてきた。確か名前は夏目真菜だっただろうか。とにかくお母さんの友達だったという彼女はこう言ったのだ。
「あなたのお母さん、お父さんは事故ではなく他殺なのよ」
それは衝撃だった。お父さんたちの死は買い物の途中に自動車のブレーキにトラブルが起き、信号待ちをしていたトラックに追突したことによる事故と説明されていたからだ。ブレーキのトラブルは意図的に起こされたものだったらしい。
そしてその事実を知った時私は一つのことを心に誓った。
私の手で、お父さんたちを殺した奴を殺してやる――
でもそのためにはやらなくちゃいけないことがあった。
敵をのことを知らないと倒すことはできない。だから私は魔法を知るところから始めた。
私に魔法を教えてくれたのは夏目真菜だった。魔法を教えてと頼んだらあっさりと了承してくれた。
私は有能な両親から生まれたせいか、才能的な部分である魔力容量というものが底なしだった。
魔法を使うには魔力がいる。その魔力をためておける量を魔力容量と言ってそれが多ければ多いほどたくさんの魔法を使えるのだ。
私はどんどん魔術師としての力を強めていったが、それと同時に魔法の在り方というか、魔術というものの根源というもの感じ取れるようになった。
魔術とは、憎しみ、悲しみ、そんな負の感情から芽生える鬱々としたものを糧としているものなのだ。
――だとしたら魔力容量の多い私は相当負の感情を持っているということになる。
私は自分が汚らわしいという事実に気づいてしまった。そして、にぃに魔術の存在を知られてはいけないと思った。
汚らわしい自分に気づかれたくないというのもあったが、にぃにこんな世界に足を踏み入れて欲しくなかったというのと、心配させたくなかったというのが本音だ。
つまるところ私はにぃのことが大好きなのだ。
(でも――私の好きなにぃを……)
夏目先輩がしたことは私に対する宣戦布告だ。本人にその気はないのかもしれないが、にぃに魔術の存在を知らせた人物となるのだから許せない行為だ。
(そもそも――)
夏目先輩はさっき風紀委員の仕事を分からないと言っていた。それなのになんで夜の学校にいたのだろうか。
風紀委員会の仕事とは、夜の学校に現れる悪魔の撃退だ。つまり日中の学校の風紀を守るのではなく、夜中の学校の風紀を守るのが風紀委員会の仕事だ。そしてそれを夏目先輩は知っていたということになる。そもそも、こんな転入生が来るシーズンではないときにやってきたのだ。多分日本魔術協会の一員として派遣されてきたに違いない。派遣された理由は分からないけれど。
だから風紀委員としての仕事が分からないような素人ではまずもってないはずだし、それどころか相当のベテランなはずなのだ。
とにかく夏目先輩本人に聞いてみなければ分かるものも分からない。
そういうわけで私は玄関でにぃと別れ、夏目先輩の家に向かっている。
着いた!
夏目先輩の家は厳かというのがしっくりくる大きな洋風の屋敷だった。
チャイムを鳴らそうとすると、後ろから声を掛けられた。
「あら、梢ちゃんじゃない。――そろそろ来ると思ってたわ」
振り向くとそこには夏目先輩がいた。
全身の毛がぞくっと逆立った。
――――まずい、まずいまずい、今すぐ逃げろと全身の細胞が叫んでいる。
けれど逃げるどころか恐怖で足がすくんで動けなかった。
夏目先輩は獲物を品定めするハイエナのような目つきで私を眺め、そして
「立ち話もなんだから家の中に入れば?」
その声には有無を言わせぬ雰囲気が漂っていた。
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