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消耗品

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第二章


第二章

 そしてだ。先輩はその中でこんなことも言った。
「巨人なんてな。最下位になればいいんですよ」
「ですよね。それが」
「愛知県民共通の願いだよ」
「全くですよ。今年も中日の優勝ですよね」
「そうだよ。ドラゴンズ黄金時代は続くんだよ」
 先輩はファンの立場からも豪語した。
「磐石の投手陣がその原動力になるんだよ」
「権藤さんが指導するその投手陣が」
 こうだ。彼等は記事を書きカメラを動かしながら話していた。その彼等の傍でだ。
 かなり年配の。八十は優に越えていると思われる老人がだ。しみじみとこんなことを言ったのだった。
「いやあ、権藤さんも頑張るのう」
 こうだ。しわがれた声で言っていた。そしてだ。
 老人は一人だ。こんな言葉を出したのだった。
「権藤、権藤、雨、権藤」
「?権藤さんばかりだな」
「そうですよね」 
 二人もここで老人の言葉に気付いたのだった。
「何だろうな」
「権藤さんばかりなんですけれど」
「いやあ、あの頃の権藤さんは凄かった」
 老人はしみじみとした口調で話していく。二人に気付かず。
「よく頑張ってくれたのう」
「あの、いいですか?」
 二人は顔を見合わせ頷き合ってからだった。そのうえでだ。
 老人に自分達の席、老人のすぐ後ろの席から声をかけた。先輩が彼に声をかけたのだ。
「ご老人は権藤さんのことを御存知なんですか?」
「うむ。現役時代からのう」
「現役時代の権藤さん御存知だったんですか」
「そうだったんですか」
「そうじゃ。権藤さん、年下じゃがついついこう呼んでしまう」
 しみじみとした口調はそのままだった。老人は瞼が少し垂れてきているその小さな目でだ。昔を懐かしむ顔でこう二人に話したのである。
「あまりに凄かったからじゃ」
「あまりにですか」
「そこまでだったのですか」
「そうじゃ。新人の頃から先発で連投に次ぐ連投じゃった」
「ああ、だからか」
「それでなんですか」
 老人の今の言葉からだ。二人は老人の先程の言葉の意味がわかったのだった。
 それでだ。それぞれこう言ったのだった。
「権藤、権藤、雨、権藤っていうのは」
「連投してのことだったんですね」
「そうじゃ。先発で完投、ピンチでのリリーフ」
 老人はその頃の権藤の起用を二人に話していく。
「とにかく投げて投げて投げてじゃ。勝ったのじゃ」
「敗戦処理とかじゃなくて、ですか」
「先発とかでそのまま投げて」
「昔はエースはそんな感じでのう」
 このことは権藤だけではなかったのだ。稲尾和久にしても杉浦忠にしてもそうだ。セリーグなら秋山登がそうであったしあの金田正一もだ。エースとは連投するものだったのだ。
 権藤もそれは同じでだ。それでだったというのだ。
「二年連続で三十勝を挙げたのじゃよ」
「えっ、二年連続で、ですか」
「三十勝をですか」
「そうじゃ。凄いじゃろう」
「そんな凄いことをしたんですか」
「権藤さんは現役時代に」
 二人は目を丸くさせ呆然とした顔になり二人に応えた。そしてだ。
 そのうえでだ、二人はこうも言ったのである。
「そんな凄い人だったんですね」
「只者じゃないとは思ってましたけれど」
「あんた達はまだ若いからその頃のことは知らんのじゃな」
 昭和三十年代はもう遥かな過去のことだった。少なくとも二人は生まれてもいない。
 だからそのことを知らないことはだ。老人も仕方ないとしたのだった。そしてそのうえでだ。老人は二人にだ。こう話したのだった。
「本当に昔はそうだったからのう」
「今では絶対に考えられないですよ」
「そんな。先発にリリーフにっていう連投は」
「確かに二年連続で三十勝は凄いですけれど」
「身体大丈夫ですか」
「そう。そこじゃ」
 若い記者が身体のことを話すとだ。ここでだ。
 老人は悲しい顔になりだ。こう二人に話した。
「連投連投じゃ。それではじゃ」
「肩か肘がおかしくなりません?」
「そんなことをすれば」
「権藤さんは肩を壊した」 
 まさにそうなったというのだ。何故そうなったかは言うまでもなかった。
 
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