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久遠の神話

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第七十七話 百億の富その七

「もう陰でこそこそしている感じで目も死んでますよ」
「本当に廃人になっているんですね」
「ええ、まさに」
「最早アメリカで人種主義は悪になっています」
 アメリカではだ、日本の似非保守の間では違う様だが。
「ですから」
「しかし、それにしても」
「あまりない話ですね」
「アメリカでは」
 そこまで、何十年も徹底して糾弾されるというのは、というのだ。
「ないかと」
「そう思います、実は」
「誰かが煽っていますか」
「はい、そうなんです」
 実際にそうだというのだ、少尉は言う。
「日本から来たおかしなのがいまして」
「活動家ですか」
「そんなところですね」
 そうした類の人間だというのだ、それは。
「どうにも人種差別とかいじめを攻撃する」
「それ自体はいいことですね」
「はい、それ自体は」
 少尉もそれはいいとする、だがというのだ。
「しかし」
「それを口実にしてですね」
「そうです、その相手をいびり殺す」
「そうした輩に狙われたのですね」
「イワ・・・・・ええと」
 少尉はここで己の記憶を確かめることになった、名前を出そうとするがその名前がどうにも最初の方だけしか出なかった。
 それでだ、スペンサーに申し訳ない顔で言った。
「すいません、そこからは」
「そうですか」
「はい、思い出せません」
「しかし日本人だったのですね」
「そのことは確かです」
「では同じ民族の敵討ち、いえ」
 スペンサーも自分の言葉を思い出して訂正した。
「違いますね」
「多分差別が格好の攻撃材料ですから」
「それを旗印にして」
「そうです、その人を糾弾しまして」
 それがだというのだ。
「半世紀続いています」
「また極端ですね」
「何しろその人の住所や職場、人間関係から何から何まで公表したのです」
 調べてそれでだというのだ。
「今もネットで公表していますし」
「プライバシーの侵害ですね」
 スペンサーはその日本人の行為を犯罪だと断じた、それ以外の何ものでもないというのだ。
「それではただの」
「そうです、ですがネットのIP等を操作し常に変えていて」
「その人物の所在はですか」
「わからない様にしています」
 こうした工作も徹底しているというのだ。
「ですからその相手も捕まらず」
「今もですか」
「そうです、それで半世紀の間です」
 その人物、かつて日系人を迫害した彼への攻撃が続いているというのだ。
「酷いことに」
「本当にそうですね」
「確かに人種差別主義は悪ですが」
 それでもだとだ、少尉は疑問に感じている顔で述べた。
「その人はそこまでされる罪を犯したでしょうか」
「死ぬまで糾弾される様な、ですね」
「どうなのでしょうか」
「そうですね、それが是と言う人もいれば」
 人種差別主義を絶対の悪と考える人間である、この場合は。
「そうではないという考えの人もいるでしょう」
「その違いですね」
「そうです、そこは人それぞれの考えですが」
 だがだと、スペンサーは少尉にこうも話した。
「それを絶対の正義の旗印にして相手を攻撃し自己満足に浸るというのは」
「悪ですね」
「悪魔の所業でしょう」
 スペンサーもキリスト教徒だ、だからここでは悪魔を例えに出したのだ。即ちそれは絶対悪だというのである。 
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