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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  小さな相棒

プレイヤーは、大きく四つのグループに分かれた。

まず、これが約半数を占めたのだが、茅場晶彦の出した解放条件を信じずに外部からの救助を待った者達だ。

彼らの気持ちは痛いほどよく解った。自分の肉体は、現実には椅子やベッドの上でゆったりと横たわり、呼吸している。それが本当の自分であり、この状況は「仮」のもので、ちょっとしたはずみ、ささいなきっかけで向こうに戻れるはずだ。確かにメニューからログアウトはできないが、内部で何か見落としたことに気付けば───

あるいは、外部では今、運営企業アーガスと、何より政府がプレイヤーを救おうと最大限の努力をしているだろう。慌てずに待っていればいずれ何事もなく自分の部屋で目覚め、家族と感動の対面を果たし、学校や職場でいっときの話題をさらう。

そう思うのも本当に無理はなかった。レンも内心の何割かではそのように期待していたのだ。彼らの取った行動は基本的に「待機」。

街から一歩も出ず、初期配布されたゲーム内通貨──この世界では《コル》という単位で表記される──をわずかずつ使って日々の食糧を買い求め、安い宿屋で寝泊まりし、何人かのグループを作って漠然と日々を過ごしていた。

幸い【始まりの街】は基部フロアの面積の約二割を占め、東京の小さな区ひとつほどの威容を誇っていたため、五千人のプレイヤーがそれほど窮屈な思いをせず暮らせるだけのキャパシティがあった。

だが、助けの手はいつまで待っても届かなかった。何度目覚めても窓の外に広がる光景は、常に青空ではなく陰鬱に覆いかぶさる天空の蓋だった。

初期資金も永遠に保つわけもなく、やがて彼らも何らかの行動を起こさざるを得なくなった。

二つ目のグループは全体の約三割。三千人ほどのプレイヤーが属したのが、協力して前向きにサバイバルを目指そうという集団だった。

リーダーとなったのは、日本国内でも最大級のネットゲーム情報サイトの管理者だった男だ。

彼のもと、プレイヤーはいくつかの集団に分けられて、獲得したアイテム等を共同管理し、情報を集め、上層への階段がある迷宮区の攻略に乗り出した。リーダーのグループは、【始まりの街】中央広場に面した《黒鉄宮》を占拠し、物資を蓄積してあれやこれやと配下のプレイヤー集団に指示を飛ばしていた。

この巨大集団にはしばらく名は無かったが、全員に共通の制服が支給されるようになってからは、誰が呼び始めたか《軍》という笑えない呼称が与えられた。

三つ目は、これは推定で千人ほどが属したのだが、初期に無計画な浪費でコルを使い果たし、さりとてモンスターと戦ってまっとうに稼ぐ気も起こさず、食い詰めた者達だ。

ちなみに、仮想世界であるSAO内部でも厳然と起こる生理的欲求がある。

それは、睡眠欲と食欲である。

睡眠欲は、これは存在するのも納得が行く。プレイヤーの脳は、与えられている感覚感情が、現実世界のものなのか仮想世界のものなのかなどということは意識していないだろうから。プレイヤーは眠くなれば街の宿屋に行き、懐具合に応じた部屋を借りてベッドに潜り込むことになる。莫大なコルを稼げば、好みの街で自分専用の部屋を買うこともできるが、おいそれと貯まる額ではない。

食欲に関しては、多くのプレイヤーを不思議がらせた。現実の肉体が置かれた状況など想像したくもないが、恐らく何らかの手段で強制的に栄養を与えられているのだろう。つまり、空腹を感じてこちらで食事をしたとしても、それで現実の肉体の胃に食べ物が入るわけはない。

だが、実際にはゲーム内で仮想のパンだの肉だのを詰め込むと空腹感は消滅し、満腹感が発生する。このへんのメカニズムはもう脳の専門家にでも聞いてもらうしかない。

逆に言えば、一度感じた空腹感は、食べないかぎり消えることはない。多分、絶食しても死ぬことはないのだろうと思う。しかし、やはりそれが耐えがたい欲求であることに変わりは無く、プレイヤーは毎日NPCが運営するレストランに突撃してはデータの食い物を胃に詰め込むことになる。

蛇足だが、ゲーム内での排泄は必要ない。現実世界でのことは、食う方面よりも更に考えたくない。

さて、話を戻すと──

初期に金を使い果たして、寝るはともかく食うに困った者達のうち大半は、例の共同攻略グループこと《軍》にいやおうなく参加することになった。上の指示に従っていれば、少なくとも食い物は支給されたからだ。

だが、どこの世界にも協調性など薬にしたくもないという人々が存在する。はなからグループに属するのをよしとしなかった、あるいは問題を起こして放逐された者達は、【始まりの街】スラム地区を根城にして強盗に手を染めるようになった。

街の中、いわゆる《圏内》はシステム的に保護されており、プレイヤーは他のプレイヤーに一切危害を加えることはできない。だが街の外はその限りではない。

はぐれ者達ははぐれ者達で徒党を組み、モンスターよりもある意味旨みがあり、危険の少ない獲物であるプレイヤーを街の外のフィールドや迷宮区で待ち伏せして襲うようになったのだ。

最後に四つ目のグループは、簡単に言ってその他の者達だ。

攻略を目指すとしても巨大グループには属さなかったプレイヤー達の作った小集団がおそよ五十、人数にして五百。その集団は《ギルド》と呼ばれ、彼らは《軍》にはないフットワークの良さを活かして堅実な攻略と戦力増強を行っていた。

更に、ごく少数の職人、商人クラスを選択した者達。せいぜい二、三百人規模ではあったが、彼らもまた独自のギルドを組織して、当面の生活に必要なコルを稼ぐためスキルの修行を開始した。

のこる百人たらずが、レンとユウキ、キリトもそこに属したわけだが──

《ソロプレイヤー》と呼ばれた者達だ。

グループに属さず、単独での行動が自己の強化、ひいては生き残りにもっとも有効であると判断した利己主義者達。

SAOというゲームは、《魔法》、つまり《必中の遠隔攻撃》が存在しないゆえに単身で複数のモンスターの相手をしやすいという特徴がある。

しっかりした技術があれば、ソロプレイのほうが経験値効率ではパーティープレイを上回る。

もちろんリスクはある。例えば、パーティープレイでなら誰かに回復してもらえばいい《麻痺》を喰らっただけでも、単独なら死の危険に直結する。実際、初期のソロプレイヤーの死亡率は、あらゆるプレイヤーカテゴリの中でも最大のものだった。

スクリーンモニタを通して2Dグラフィックの敵を攻撃するのとは違い、SAOでの戦闘はその圧倒的なリアリティゆえに原始的な恐怖を呼び起こす。

どう見ても本物としか思えないモンスターが、凶悪な牙を剥き出して自分を殺そうと襲いかかってくるのだ。

ベータの時ですら戦闘でパニックを起こす者がいたらしいのに、現実の死が待っているとなればなおさらだ。恐慌に陥ったプレイヤーは、ソードスキルを出すことも逃げることすらも忘れ、HPをあっけなく散らしてこの世界から永遠に退場することとなった。

自殺、モンスター戦における敗北。凄まじい速さで増えていく、無慈悲なラインを刻まれた名前達。

だが、人間というのは慣れるものだ。

あの第一層攻略戦から、わずか十日後に第二層が突破された頃から、死者の数は目に見えて減りはじめた。生き残るための様々な情報が行き渡り、きちんと経験値を蓄積してレベルを上げていけばモンスターはそれほど恐ろしい存在ではないという認識が生まれた。

このゲームを攻略(クリア)し、現実世界に戻れるかもしれない。そう考えるプレイヤーの数は、少しずつ、だが確実に増えていった。

最上層は遥かに遠かったが、かすかな希望を原動力にプレイヤー達は動きはじめ───世界は音を立てて回りだした。

それから約半年。

残るフロアの数は、七十五。










緩やかなクラシックが脳を刺激した。

レンは寝ぼけた脳を覚醒させ、寝ていたベッドから起き上がった。

それでもまだ半分寝ている目をこすりながら、部屋の窓を全開にする。

安っぽい宿屋だが、窓から見える景色は最高の一言だった。

森の緑と湖の綺麗な青が、見事なコントラストを醸し出している。

その時、部屋の隅から音もなく一匹の黒猫が現れた。その黒猫をみてレンは大きく溜め息をついて言った。

「………まだついて来てたんだね。おまえ」

その言葉が分かるかのように、黒猫は一声鳴く。

それを見て、レンは再び溜め息をつき、どうしてこうなったんだろうなー

と、昨日のことを頭に思い浮かべてみた。










昨日、レンはいつものように第二十五層の攻略をやり、気が付くと時刻は午後八時を回り、完全に辺りは真っ暗になっていた。

しかし、そんな状況でもレンはあらかじめ買っておいたピーナッツの袋を開け、それをポリポリとかじりつつ、鼻歌も歌っていた。

もちろん周囲への警戒は怠らない。

そんな時、視界の隅にカーソルが現れた。

色は殆ど白に近いペールピンク、モンスターだ。

この赤色の濃淡で、敵の相対的な強さをおおまかに計ることができる。どう足掻いても勝てない、圧倒的レベル差のあるモンスターのカーソルは血よりも濃いダーククリムゾン。

対して、何匹狩ってもろくに経験値を稼げない雑魚モンスターは殆ど白に近いペールピンク。

この場合は前者だ。

ちなみに、同レベルの適正な敵が、ピュアレッドで表示される。

レンは戦うにも値しない相手だと思い、そのまま無視して通り過ぎようとした。だが、あろうことかそのカーソルはこちらに急速に接近していた。

いくら弱い敵でも無抵抗に攻撃を受ければ、たちまちレンのHPは危険区に落ちるだろう。

仕方なくレンは腰裏に差した自らの武器を抜いた。

それは、短剣(ダガー)にしては随分刀身が長く、一般的には短刀と呼ばれている物だ。

短刀《小太刀》

巨大なサイのようなネームドMobを倒した時に、ドロップした物だ。

ダガーとしては最長の刀身の切れ味は凄まじく、今ではレンの相棒であり重要な右腕になっている。

それを構えつつ、レンの左手はなおも意地汚くピーナッツの袋に伸びている。だが、その幼いくりくりとした目は、カーソルを鋭く見つめている。

しばらくして、レンの見つめている草むらが揺れた。

そこから現れたのは、一匹の黒猫だった。

それだけならば、レンは躊躇いもなく瞬殺するだろう。だがレンはそれをしなかった。それは何故か。

それは、その黒猫が見るからにぼろぼろで今にも消滅しそうだったからだ。そして、主な理由は───その目。

こちらを見るその目は、決して敵対的ではなく、あまつさえ友好的な色さえ見えた。

そんなはずはない、とレンが目をごしごしと擦って、目を開けて見たのは、無防備に近寄ってくる黒猫の姿だった。

しかも、その大きな目が見ているものはレンではないようで、その視線をレンが辿ると、どうやら黒猫はレンの持っているピーナッツの袋を見ているようだった。

そこでレンは袋の中に残っていたピーナッツを左手でつまみ、黒猫の前に差し出してみた。

すると黒猫は少し匂いを嗅いだと思ったら、ピーナッツに食いついていた。

その黒猫がピーナッツを食っている様をレンは数秒間ぽけーと見つめていたが、思い出したように主街区に戻ろうとすると、後ろから当然のように黒猫がついてきた。

レンはすぐさま追い払おうとするが、黒猫は頑としてついてくる。

いっそ狩ってしまおうかとレンは考えたが、無抵抗の、しかも小動物を殺すのは、どうも良心が咎める。

たっぷり数分間考えたレンは、大きな溜め息をつき、黒猫を連れて主街区に向けて歩き始めた。  
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
ユウキ「はーい、今回はまたまた来た感想について語っていくよー!」
レン「また来たんだ。こんな駄作を読む人も世の中にはいるんだなー」
なべさん「全くだね!」
レン「お前が肯定すんなよ」
なべさん「それにしても感想も第三号かー、いいっすなー」
ユウキ「そーだね。感想が来れば来るほど、それだけ読む人が多いってことだからね」
なべさん「いやいや、あとがきのネタを考えなくて済むからだよ」
レン「そっちか!」
ユウキ「しかも極めて個人的な理由だし」
なべさん「ハイハイ、今回の感想はヒロインは誰だ、だって」
ユウキ「ボクが出てこない辺りが憎いね」
レン「あれ?ユウキねーちゃん怒ってる!?」
なべさん「えー、ヒロインについてですが、内緒ということにしときます。ただ、出てくるのはかなり先ですので、気を長くして待っといてください」
ユウキ「ほーい、自作キャラ、感想は、随時募集してるので、バンバン送ってきてくださーい!」
レン「ユウキねーちゃん!怒ってるよね!?笑顔で誤魔化してるけど怒ってるよね!?」
ユウキ「黒羽さん、ありがとうございました!これからもこの作品のご愛読をよろしくお願いしまーす!」
レン「ねぇ、ねぇってば!!」
──To be continued── 
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