Element Magic Trinity
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鬼面仏心
凄まじい魔力と聖なる光が集まる。
超絶審判魔法、妖精三大魔法の1つ、妖精の法律が今、放たれようとしていた。
「妖精の法律・・・マスタージョゼを一撃で倒した、あの・・・」
「聖なる光を持って敵を討つ・・・超絶審判魔法・・・」
ガジルとシュランは、誰よりもこの魔法の恐ろしさを知っていた。
かつて属していたギルドのマスターが、聖十の称号を持っていたジョゼがたったの一撃でやられてしまったのだから。
「よせ・・・ラクサス」
痛みの走る体に鞭を打ち起きあがろうとするナツが呟く。
「反則だろ!『敵と認識した者全て』が攻撃対象なんてよォ・・・」
「今のドレアーにとって俺達は無論、町民達も敵・・・そんな魔法を放てば・・・!」
敵と認識した者以外には一切の危害を加えない魔法、それが妖精の法律だ。
だからどんなに周りに味方がいようと、敵だけを討つ事が出来る。
が、敵と認識した者は全てを討つ。
今この状況において、その魔法が放たれれば最悪の結果しか招かない。
「うおおおおお!」
「ラクサス!」
「おおおお!」
ナツが叫ぶ。
光と魔力が集まる。
そこに、2つの足音が響いてきた。
「やめてーっ!ラクサス!」
「バカな事はやめなさいな、七光りィ!」
慌てた様子で大聖堂にやってきたのはレビィとティア。
「レビィ!」
「姉さん!」
「バカが・・・何しに来た・・・」
ガジルの問いには答えない。
この2人が放つべき言葉は別にある。
「マスターが・・・」
レビィが言いかけ、止まった。
その目から涙が溢れだし、言葉を紡ごうにも紡げない。
それを見たティアは一瞬目を逸らすと―――――――――
「っ・・・よく聞きなさい!ラクサス・ドレアー!」
叫んだ。
涙が邪魔して言葉にならないレビィの代わりに、自分達の知る、知りたくなかった現実を。
「マスターが・・・マカロフ・ドレアーが・・・」
びしっと指を突き付け、叫ぶ。
その整った顔を、微かに歪ませて。
その表情は無であり怒りでもあり・・・泣きだしそうで、恐怖しているようでもあった。
「アンタのおじいちゃんが・・・危篤なのよ!」
その言葉はラクサスへと届いた。
怒りに狂った雷竜の目が、一瞬揺れる。
「だからお願いっ!もう止めてっ!マスターに会ってあげてぇっ!」
ボロボロと泣きながら、レビィが叫ぶ。
一瞬にして突きつけられた現実に驚愕しているのは、ナツ達も同じだった。
「き・・・危篤?じっちゃんが・・・死ぬ・・・?」
「ウソだろ・・・?あのマスターが・・・死ぬのか・・・?」
突如突きつけられたのは、マカロフの危篤。
ナツは体の小刻みな震えを止められず、クロスはその青い目を最大限に見開いた。
「ラクサスゥ!」
レビィの悲痛な叫びが大聖堂に響き渡る。
それを聞いたラクサスは――――――――――
「丁度いいじゃねぇか。これでこの俺がマスターになれる可能性が再び浮上した訳だ」
笑みを浮かべた。
レビィの目から涙が流れ、ティアが悔しそうな表情で目を逸らす。
「ヤロウ・・・」
「なんて事・・・」
「何が・・・一体何がアイツをあそこまで変えた・・・!?」
ガジルが唸り、シュランが呆然と呟く。
クロスは祖父の危篤にも笑みを浮かべるラクサスを睨みつけるように見つめた。
「ふははははっ!消えろ妖精の尻尾!」
大聖堂の床が割れ、重力に逆らって天へと昇っていく。
「オレが一から築き上げる!誰にも負けない!皆が恐れ戦く、最強のギルドをなァァ!」
その叫びは絶望だった。
祖父の死を丁度いいと言うなど、誰が予想しただろう。
「そんな・・・」
「・・・!」
両手で顔を覆ったレビィががくっと座り込み、ティアは顔を逸らしたままぎゅっと拳を握りしめた。
「お前は・・・何で、そんなに・・・」
うっすらと目に涙を浮かべたナツが怒りの表情で呟き――――――――
「妖精の法律、発動!」
その両手が、合わせられた。
刹那、眩い光が怒る雷竜を中心に放たれる。
その眩しさにレビィ、ガジル、シュラン、クロスは目を閉じ。
ティアは何かを言い放つように小さく口を動かし。
ナツの目が強く見開かれた。
聖なる光は大聖堂を溢れ、マグノリアの街を包み込む。
その光はエルザにまで届き、エルザは目を見開いた。
聖なる光が消え、マグノリアの街は本来の姿を光の中から見せる。
カルディア大聖堂の中央付近、両手を合わせるラクサスは息を切らした。
「オレは・・・ジジィを超えた・・・」
口角を吊り上げ、呟く。
そして煙が晴れ―――――――そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「ゲホッ、ゲホッ・・・」
「ゴホッ、ゴホッ・・・」
「!」
先ほどと同じように倒れた状態で咳き込むナツとガジル。
「な、何がどうなった・・・?何故俺は・・・くっ」
「無理に動かない方がよろしいかと・・・コホッ」
「!」
かなりの怪我を負いながらも先ほどと変わらない様子とクロスと、軽く咳き込むシュラン。
「ケホッ、ケホッ・・・」
「やっぱり、ね・・・」
「!」
口に手を当て咳き込むレビィと、呆れたような表情で溜息をつくティア。
「そ・・・そんなバカな・・・」
目に映る光景はあり得ない。
自分が敵と認識した者は全て消え去ったはずなのだ。
「なぜだ!?なぜ誰もやられてねえ!」
だが、敵と認識したはずのナツ達は全員やられていない。
もちろん戦った際の怪我はあるが、魔法発動前と発動後、何も変わっていないのだ。
「シュラン・・・無事か」
「私は何ともありませんわ。クロス様もご無事なようです」
「姉さんはっ!?マクガーデンも大丈夫か?」
「うん・・・私は平気。ティアは大丈夫?」
「外傷なし。全くダメージは受けていないわ。ナツは?」
「・・・」
「大丈夫そうだ」
「みたいね」
やられた人間は誰もいない。
衝撃的なその光景にラクサスの体は小刻みに震えた。
「どうなってやがる!あれだけの魔力を喰らって平気な訳ねえだろ!」
予想外。
その文字通り、目の前に広がる光景は全く想像していなかった。
ラクサスが怒鳴ると、その問いに答える為待っていたかのようにタイミングよく、大聖堂入口に人影が現れる。
「ギルドのメンバーも、街の人も皆無事だ」
ふら・・・と体を左右に揺らしながら現れたその人物は近くの壁に凭れ掛かった。
荒く息をするその人物は――――――
「フリード!?」
「誰1人としてやられてはいない」
ミラと戦い、戦意喪失したフリードだった。
その服はボロボロで、立って歩く事さえやっとに見える。
「そんなハズはねぇっ!妖精の法律は完璧だった!」
ラクサスの怒鳴る声に対し、冷たい声が響く。
心地よい高さのソプラノボイス。言うならばミラとジュビアを足して2で割ってそこにフリードやリオンのような感情の読めない声質を混ぜた感じ。
表すなら氷―――――その声の主は、ただ冷静に、冷酷に告げる。
「あの魔法の完成度は認めてあげる。完璧じゃなかったのは魔法じゃない。術者よ、七光り」
その青い目を鋭い刃の切っ先の様に煌めかせるティアは、さらに続けた。
「完璧じゃなかったのは、術者の心・・・アンタの心よ」
白く細く長い指を突き付ける。
その目には鋭い光と現実的な闇、そして憐みに似た混沌が揺れていた。
「ティアの言う通りだ。お前がマスターから受け継いでいるものは、力や魔力だけじゃない」
目を見開くラクサスにフリードは告げる。
ティア以外の人、この場にいる人間1名を除く人達、ラクサスさえも知らない真実を。
「仲間を思うその心」
フリードがそう告げた瞬間、ラクサスの表情が変わった。
「妖精の法律は術者が敵と認識した者にしか効果がない。言ってる意味が解るよな、ラクサス」
「心の内側を、魔法に見抜かれた・・・」
「つまり、ラクサス様は私達及び街の皆様を敵だとは思っていない・・・という事ですか?」
フリードの言葉にレビィとシュランが呟く。
シュランは一瞬怪訝そうな表情をしたが、その答えは自分の無事が示していた。
「魔法にウソはつけないな、ラクサス」
壁に凭れ掛かったまま、フリードは笑みを浮かべる。
「これがお前の『本音』という事だ」
その言葉は、全てを崩した。
ラクサスが隠していた本音を、一瞬にして暴き出す。
「違う!オレの邪魔をする奴は全て敵だ!敵なんだ!」
拳を強く握りしめ、ラクサスが叫ぶ。
「もう止めるんだ、ラクサス。マスターの所に行ってやれ」
「ジジィなんかどうなってもいいんだよ!」
ラクサスが叫んだ、瞬間―――――――――
「・・・ウソつき」
短く発せられた言葉は、大聖堂を一瞬にして静寂へと変えた。
「そんなに嘘を重ねて何になるのよ・・・それでアンタが得をするの?それで何かが変わるの?それで・・・マスターの容態が良くなるの?」
畳み掛けるように言葉を紡ぐティアは知っていた。
幼い頃からギルドにいる彼女は、否、かつてからラクサスを天敵とし天敵とされてきた彼女は誰よりも理解していた。
「私はギルドの加入が早いから・・・アンタの事はアンタが10歳の頃から知ってるわ。昔から生意気で嫌いな人種で、大嫌いだった。それは今も変わらない」
吐き捨てるように言い放ち、真っ直ぐにラクサスを見据える。
「だけれど、何かしら関わる度に知るの」
嫌いな分、口喧嘩などで関わる事が多かった。
天敵同士憎まれ口を叩く事で、彼女は理解する。
「アンタが祖父―――――――マスターマカロフを大好きだと」
ラクサスの目が大きく見開かれた。
「憧れが何故反発へと変わったかは解らないけど・・・アンタは1つ、勘違いをしている」
その瞳に映るのは、現実。
曲げようのない、どんな強力な魔法を持ってしても変えられない何よりも確かな。
そしてティアの目は、現実しか映さない。
その目には―――――現実しか、映らない。
「私がアンタを『七光り』と呼ぶ理由を」
その言葉が、ラクサスへと怒りを呼び戻した。
バキバキと体中から雷の音を響かせ、叫ぶ。
「オレはオレだっ!ジジィの孫じゃねえ!ラクサスだっ!ラクサスだぁあああーーーっ!」
その叫びは、ただ悲痛だった。
悲痛で、子供の我が儘の様で、怒りの様で――――泣いている様で。
「みんな知ってる」
そこに、声が響く。
ラクサスの叫びを打ち砕くような、力強い声が。
「思い上がるなバカヤロウ。じっちゃんの孫がそんなに偉ェのか、そんなに違うのか」
傷だらけの体を無理矢理起こして、ナツは立つ。
「血の繋がりごときで吼えてんじゃねえ!ギルドこそがオレ達の家族だろうが!」
その言葉に、ラクサスの雷がバチバチと音を立てる。
「テメェに何が解る・・・」
「何も解ってなきゃ仲間じゃねぇのか」
ナツの右拳に竜殺しの紅蓮が纏われる。
「知らねぇから互いに手を伸ばすんだろォ!ラクサス!」
「黙れぇぇぇぇっ!ナツゥゥアアアッ!」
そして、妖精同士の戦いは終わりを迎える。
火竜と雷竜が激突する時。
―――――――この戦いに、終止符が打たれる。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
一応お知らせしておきます。
私はずっと「俺」を漢字表記にしてきましたが、原作に合わせてカタカナ表記に変更します。
第1話から少しずつ修正していく予定です。
感想・批評・ミスコン投票、お待ちしてます。
次回、ついにナツとラクサスの戦いに終止符が打たれる!
そして希望の多いナツティアはいつごろに!
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