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最高のタイガース=プレイヤー

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第九章


第九章

 歓声に包まれる西武球場。しかしそれは西武ファンのものではなく阪神ファンのものであった。思いも寄らぬバースのファインプレーであった。
「よっしゃああああ!」
「バースがやったで!」
「そうだ、バースだ」
 広岡はその歓声の中で呟いた。
「そのバースを攻めたのだがな」
「まさか」
 森も驚きを隠せない。彼等は今で勝てると思っていた。阪神の弱点であるバースの守備を攻めたのだ。だがそのバースの守備により失敗した。彼等にとっては信じられないことであった。
「こうなるとはな」
「どうやら。我々の予想以上だったようで」
「そうか。吉田は」
 ようやくわかった。何故あえてバースを守備につかせたか。それは吉田がバースの守備を知っていたからだ。それに他ならなかった。
「知っていてやったのか。何もかも」
「我々の作戦負けですか」
「そうだ。いや」
 広岡は言おうとしたところで自分の言葉を訂正する。そうして言うのは。
「バースに敗れた」
「バースにですか」
「そうだ。まさか守備まで見事だったとは」
 それが広岡にとっては思わぬことだった。今更言ってもはじまらないにしろ。
「この失敗は大きいな」
「シリーズは。これで」
「少なくとも阪神の流れが決定的になった」
 彼もそれを認めるしかなかった。まだ歓声をあげる阪神ファンの声がそれをさらに教え込んでいた。彼の心の中に。
「これでな」
「しかし。敵を褒めるようですが」
 森は表情を変えずに広岡に言ってきた。
「何だ?」
「バースは素晴らしい選手です」
 それを今言う。
「素晴らしい野球選手です」
「そうだな」
 広岡も表情を変えずに森のその言葉に頷く。
「彼は助っ人ではない。そう」
 そして言う言葉は。
「最高の野球選手だ。最高の阪神の選手だ」
「阪神のですか」
「そうだ。あれだけ阪神のユニフォームが似合う選手は今までいなかった」
 これまで多くの阪神の選手を見てきた彼の言葉である。それだけに重みがあった。
「見事なまでにな」
 この試合も阪神の勝ちであった。そうして第六戦。阪神は西武球場において遂に日本一を決めた。所沢の寒風の中でバースは問われた。
「寒くなかったですか?」
「寒い?そんなのは全然感じなかったよ」
 シリーズのMVPを受賞し歓喜の中での言葉であった。
「エキサイトしていたからね。半袖でも全然平気だったよ」
「それでこそバースや!」
「ホンマに神様や!」
 その言葉に喜ぶ阪神ファン達であった。彼等は今バースという最高の野球選手を見てその素晴らしいプレイを堪能していたのだった。
 ランディ=バース。この名は永遠に残っている。最高の野球選手、最高の助っ人との声も高い。しかしある人は言う。彼こそは最高の阪神の選手だったと。少なくとも彼がいなくてはこのシーズンの阪神の日本一はなかった。そうして今も深く愛されている。これだけ愛されている阪神の選手は稀である。アメリカに帰ってもまだそうである。
「バースがあの時打ってな」
「あのバックスクリーンにな」
 今でも甲子園球場で目を細めさせて語るファン達がいる。入団当初は不安視もされていたが今は違う。伝説として残っているのだ。


最高のタイガース=プレイヤー   完


                         
                 2007・11・26
 
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