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戦国異伝

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第百五十話 明智と松永その十二

 それでだ、こう言ったのである。
「到底、ですから」
「暗殺は出来ぬか」
「御主が得意とするあれでもか」
「おそらく備前の宇喜多殿でも」
 ここでだ、松永はこの名を出したのだった。
「出来ぬでしょう」
「そうですか」
「はい、そうです」
「そうか」
「ですからそれは出来ませぬので」
 諦めろとだ、松永はにこやかに笑って答えた。
「お許し下さい」
「ふむ、しかしな」
「時が来ればな」
「その時はな」
「わかっておるな」
「無論です」
 空返事だった、まさに。
「それでは」
「織田信長は何としても除かねばな」
 絶対にだ、それでだった。
「そして他の者達もな」
「他の者達はといいますと」
「わかっておろう」
 影のうちの一人が松永に返す。
「色を司る者達よ」
「では本願寺もまた」
「当然じゃ、本願寺もまた我等の怨敵よ」
 それに他ならないというのだ。
「まさにな」
「だからですな」
「そうした意味で本願寺もまた織田信長と同じよ」
「顕如殿もまた」
「一時は操ろうとしたがな」
 その顕如をだというのだ、裏から手を回して。
「しかしあ奴は鋭い」
「だからですな」
「そうじゃ、操る前に何か気付いたのか」
 それでだというのだ。
「あの男は周りの我等の手の者達を遠ざけた」
「そうでしたな」
「うむ、全く鋭い男じゃ」
 影達は忌々しげに話す。
「全く以てな」
「それで、ですか」
「本願寺を操る策はしくじった」
 そうなってしまったというのだ。
「とはいっても我等には気付いていなかったがな」
「それは何よりですな」
「何よりではない」
 忌々しげにだ、また話す彼等だった。
「本願寺を乗っ取れなかったのだ」
「では今織田家と本願寺を争わせているのは」
「共倒れよ」
 それを狙っているというのだ。
「その為じゃ」
「左様ですか」
「そうじゃ、そうするつもりじゃ」
「では」
「伊勢と近江ではしくじった」
 この二国ではだ、だがだというのだ。
「加賀と越前、そしてじゃ」
「摂津ですな」
「それと紀伊じゃ」 
 この国でもだというのだ。
「あの国でも動くわ」
「わかりました、それでは」
「御主がまだいるならよい」
 影の中でとりわけ暗い者が言って来た。
「それならな」
「有り難きお言葉」
「血は忘れられぬからな」
「さすれば」
「ではな」
 ここまで話してだ、そしてだった。
 影達は何処かへと消え去った、気配も何もかも消し去った。その影達が全ていなくなってからであった。
 松永は思わせぶりに笑ってだ、一人こう言った。
「しかし、忘れたくはあるのう」
 一人この言葉を言ったのだった、しかしこの言葉は誰にも聞かれることなく彼は再び眠りに入ったのだった。


第百五十話   完


                    2013・8・27 
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