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戦国異伝

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第百五十話 明智と松永その七

「我等もお助けしますので」
「あの御仁をここで消しましょう」
「少しでもおかしな素振りを見せればその時に」
「すぐに」
 こう真剣そのものの顔でだ、二人は顔を前に出して羽柴に言うのだ。
「織田家の獅子身中の虫です」
「何を企んでいるかわかったものではありませぬ」
「ですからここは」
「兄上も」
「皆そう言うがのう」
 羽柴は腕を組んでだ、難しい顔で言った。
「どうしてもあの御仁が悪人には見えぬ」
「何処がでしょうか」
 秀長は兄の今の言葉に咎める顔で返した。
「あの御仁の」
「そう言うか」
「あれだけはっきりとした悪人はおりませぬ」
 秀長も人を見る目は確かだ、兄と同じく人を見ることにも長けているのだ。その彼の言葉である。
「蠍ですぞ、まさに」
「それがしもそう思います」
 今では織田家でもきっての切れ者と言われている明智の言葉だ。
「ですから」
「しかし」
 二人にそう言われてもだ、まだだった。
 羽柴はだ、難しい顔で言うのだった。
「何度もお話して思ったことだが」
「悪人ではないと」
「あの御仁が」
「はい」
 羽柴は確信を以て述べた。
「そう思います」
「そのうちおわかりになられるでしょう」
 明智は羽柴の言葉をここまで聞いて言った。
「あの御仁のことは、ではそれがしは」
「あの御仁をですか」
「森殿と池田殿、そして毛利殿と服部殿にお話しておきます」
 織田家で常に信長の周りにいる彼等にだというのだ。
「とはいってもあの方々も既にご承知ですが」
「殿の御身をですか」
「はい、用心を怠らぬ様にと」
 松永が何時何をしてくるかわからない、明智はそう見て彼等に話すというのだ。
「そうさせて頂きます」
「それはよいことですな」
 秀長は明智の言葉に確かな声で返した。
「あの御仁以外にも。本願寺もおりますし」
「はい、浅倉攻めの折にも狙われましたし」
 信長の身の安全は十二分にというのだ。
「そうしておきましょう」
「ですな、そのことは」
「そして何よりもです、本当に何時かわかりませぬからな」
 松永が仕掛けてくるというのだ、今も。
「殿のことは」
「ですな、しかし殿も」
 今度は秀長が言う、怪訝な顔で。
「あの御仁を妙に信頼していますな」
「全くです、殿もどうお考えなのか」
「わかりませぬな」
「ただ、殿は」
 信長、彼はどうなのか。明智はこのことも話した。
「あくまで、です」
「はい、あの御仁を見抜いておられます」
 このことは間違いないというのだ。
「そしてそのうえで」
「あの御仁を傍に置いておられます」
 間違いなくだ、そうなっているというのだ。
 そしてだ、さらに話す秀長だった。
「あの御仁の過去も知っていて」
「だからこそ余計にわからぬのです」 
 明智は首を傾げさせて述べた。 
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