『八神はやて』は舞い降りた
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第2章 赤龍帝と不死鳥の騎士団
第17話 激おこ
前書き
・珍しくすべて三人称視点。
とぼとぼと家路を急ぐ3つの影。
隣には暗い顔をした主――八神はやての姿があった。
大丈夫ですか?と聞くと、大丈夫、と力のない返事をされる。
これからのことを考えているのだろう。
――ライザー・フェニックスの挑発にのり、レーティングゲームの参加が決定した。
そのことを念話で伝えられたことで、ヴィータから家族会議の緊急招集がかけられた。
駒王学園にいたシグナムとシャマルもはやての下に急行し、いまは逃げないように連行している。
剣道場にて剣道部の臨時顧問として指導していたシグナムにとって、寝耳に水の事態だった。
その場にいなかったことを悔やむ。
(いや、その場にいれば主はやてを侮辱されたことで激怒していただろうな。どのみち結果は変わらなかっただろう)
気落ちしているはやてを慰めたいが、無精者のシグナムには言葉が思いつかなかった。
ならば、とシャマルに目をやると、わかったように頷いた。
はやてちゃん、と声をかける。
その後は他愛もない日常について言葉を交わした。
レーティングゲームに関する追及は家でするのは決定である。
ならば、それまでの間は、関係のない話題で気をそらすのもいいだろう。
どのみち、主の決定に異議を申し立てるつもりはシグナムにはなかった。
(たとえ何があろうと、主はやては守ってみせる――烈火の将の名に懸けて)
決意をあらたにするシグナムだった。
責任の追及はヴィータにやらせればいい、と他人事のように考えながら。
◆
「――ごめんなさい。もうしません」
はあ。とため息をつく。
目の前で平身低頭しながら平謝りする愛すべき馬鹿――もといマスターのことだ。
リアス・グレモリーの結婚を巡るライザー・フェニックスとのレーティングゲーム。
これは、原作知識にもあった。参加すれば、実力を披露するはめになる。
高い実力を大勢の前でみせてしまえば、その力に目を付けた輩に、マスターが狙われるかもしれない。
したがって、マスターの身を守るためにも、不参加の方針で決まっていたはず「だった」。
「そのはやて本人が積極的に決まりごとを破ってどうすんだ!?」
「ひっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
当然、自ら危険に飛び込んで行ったはやてを家族が許すはずがなく。
八神家一同が揃って、家族会議が行われていた。
普段は司会をつとめるはずの家長が、下手人なため、名乗りをあげたヴィータが主導している。
語気荒く、それでいながら的確に追求をしていく姿は、やり手の検事を思わせる。
しばらく、原因を追求するヴィータたちと、おろおろしながら返答するはやての問答が続き――
「――鉄槌の騎士もそのへんにしておきましょうか。マスターも充分に反省されているようですし」
泣きながら――嘘泣きかと思ったら本当に泣いていたらしい――顔をくしゃくしゃにして、はやては謝り続ける。
誰よりも心配していたヴィータは、はやての無謀な行いに人一倍怒っていた。
激おこぷんぷん丸を通り越して、カム着火インフェルノォォォオオオウ状態。
いや、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームかもしれない。
しかし、本格的に泣き始めた彼女を見て、バツが悪そうに引き下がる。
「――ったく。心配掛けさせやがって。もう怒ってないから泣きやめって。ああ、そうだ。あれだ。新作アイスで手打ちにしよう。な?」
「ううぅ。ぐすっ。わかっ、たよ。ヴィータ姉ぇ――――ふう。手作りで飛び切りのヤツをつくるから、楽しみに待っていてくれ!」
「泣いたカラスがもう笑いやがったよ、現金なヤツめ」
悪態をつきながらも、元気を取り戻したはやてを見て、ヴィータも嬉しそうにしている。
他の面々も、それぞれ険しかった雰囲気を和らげ、苦笑している。
ようやく、いつもの和やかな空気が戻って来た。
「みんなも心配掛けてごめん。ボクも、迂闊な真似をしたと反省している」
はやても、いつもの凛々しさを取り戻していく。
彼女が、弱音や子供らしさを曝すのは、家族の前だけだ。
家族たちにとって、はやては、初めて会ったとき――9歳になったばかりの少女が両親にすがり嗚咽していたとき――から、変わらない。
彼女は、仕えるべき主であり、成長を見守って来た娘であり、愛すべき家族であった。
もっとも、身体も全く成長していないわけだが。
一度、深呼吸すると、はやては、ゆっくりと切り出した。
真剣な目つきで、はっきりと謝罪と反省の言葉を述べていき、家族会議は一旦終了した。
本当は、これからの計画も話し合う予定だったのだが――
『話しすぎて、腹減ったな。そろそろ夕飯にしないか。はやて。ギガウマなヤツを期待しているぜ?』
――というヴィータの発言でお開きになった。
先ほどまで憔悴していた様子のはやても、元気よく返事をして台所に向かった。
「汚名を返上するチャンスだな。胃袋を掴んだ者こそが、最後に勝つのだよ」と、ぶつぶつと呟きながら、はりきって料理をしている。
あのまま話し合いを続けては辛いだろう、というヴィータなりの気遣いなのだと思われる。
残りの家族も察して、口々に「和食でたのむ」「あら、わたしは洋食のほうがいいわ」「肉をいれてほしい」「いや、野菜もいいな」などなど。
好き勝手に言って、はやてをからかいながらも、励ましていた。
普段の大人びた彼女なら、家族たちの気配りに気づいただろう。
しかしながら、このとき彼女は、深く反省して気落ちしていた。
それゆえに、空気の変化に気づくことなく、逆襲を企む料理人となっていた。
仮に、家族たちの心配りに感づいていたら、申し訳なさでいたたまれなくなっていたはずである。 危機迫る顔で、一心不乱に手を動かし続けるはやてを見て、思わず笑みが零れてしまうのは仕方ないだろう。
(だが、話を聞く限り、マスターの様子は『異常』だ)
叱られて、泣きながら謝る姿。
打って変って、楽しそうに料理する姿。
その姿は、年相応、あるいはそれ以下の年齢にみえる――実際、変身魔法を解けば、9歳児相当の身体である――が、彼女は本来もっと大人びている。
部室でのライザー・フェニックスとの一幕だって、普段の彼女なら冷静に回避して見せただろう。
(原因不明の感情。いや、衝動、か。どうにもひっかかる。これが、『虫の知らせ』というやつだろうか。デバイスの私に『勘』などというあやふやなものがあるのか不明だが)
はやては、本来、好戦的な性格ではない。
力を求めたのも、『家族と暮らす平穏な日常を守るため』に過ぎない。
(少し前、アーシア・アルジェントが悪魔化したときの様子もおかしかった。あれ以来、彼女とは距離を置いているらしい。だが、悪魔化はマスターから言い出したことだ)
アーシア・アルジェントとライザー・フェニックス。
両者に共通点はないように思える。
もし、あるとしたら――
(――――二人とも『悪魔』という点だな)
◆
ヴィータはリインフォースから受けた相談について考えていた。
確かに、ライザー・フェニックスの挑発にあっさりひっかかったのは腑に落ちない。
何かがおかしい。が、それが何かは分からなかった。
「ナイスショット、ヴィータちゃん」
「ん、ありがと」
つらつらと考えつつ、かけられた言葉に照れたように返答する。
いま、ヴィータはゲートボールをしていた。
近所のご老人とともにゲートボールに興じるヴィータは、マスコット的存在だ。
ヴィータ本人もゲートボールが気に入っていたし、ご老人とのつきあいも楽しんでいた。
はやての言う原作とやらでも、ヴィータは同じようにゲートボール好きだったらしい。
(確かに、原作と合致する点は多い。だが、それに足をすくわれることだってありえる)
「つぎは、じいちゃんの番だぜ」
思考の渦にのまれつつも、何事もないように会話する。
マルチタスクはつくづく便利だな、と内心つぶやく。
ライザー・フェニックスが居たあの場にいなかったのは失敗だった。
護衛もかねて、シグナムとシャマルは駒王学園に務めているが、あの場にはいなかった。
原作が始まったことで警戒していたつもりだった。
が、原作通りに事が運んでいたせいで、油断があった点は否めない。
それよりも、だ。
あのはやてが激高する姿が想像できなかった。
基本的に外面はクールを気取っているはやては滅多なことで感情を荒立てない。
ま、家の中では泣き虫だがな、と昨日のやりとりを思い出して苦笑する。
家族を侮辱されれば怒りもするだろう。
だが、ライザー・フェニックスの挑発は、ごくありふれたものだった。
(相手が悪魔だからか?はやての両親を殺したのも悪魔だったしな)
リインフォースが気づいたはやての悪魔への敵意。
両親の仇なのだから恨んでいてもおかしくない。
だが、それにしてはアーシア・アルジェントへの対応が妙だった。
妹ができた!と、笑顔でヴィータに報告してきたはやて。
アーシアと一緒に遊んだことを、嬉しそうに話していた。
それが、いまは一方的に避けるようになっている。
嫌な予感がしながらも、いまはゲートボールに集中するヴィータだった。
後書き
・クールぶっているのに、本当は泣き虫なはやてさん。ギャップ萌え。
・ゲボ子はご町内のマスコット。
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