| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四十二話





「今村司令官、帝都の翡翠宮より緊急電です」
「うむ」

 アルヌスの派遣司令部で何時ものように勤務していた今村の元に翡翠宮から緊急電が来た。

「………」
「司令官、何か悪いことでも?」
「……見たまえ」

 今村の表情を読み取った健軍大佐に今村は無言で紙を渡した。

「……翡翠宮で戦闘……ですか?」
「そうだ。紙に書いてあるように受け入れた亡命者を引き渡すよう命令した帝権擁護委員部の掃除夫と戦闘状態に移行した」
「それでは……」
「健軍大佐、待機している空挺部隊を出撃させろ」
「はッ!! 直ちに出撃しますッ!!」
「イタリカの部隊にも帝都への出撃を出せッ!! 使節団を守るのだッ!!」

 こうしてアルヌス基地はにわかに騒がしくなり始めた。空挺部隊は陸海合わせて六百名が降下する。
 携帯武器は海軍がドイツから購入したベ式機関短銃、九九式軽機関銃、九四式拳銃、手榴弾となっている。
 空挺部隊の隊員達は飛行場で待機していた零式輸送機、武装を外した一式陸攻、九六式陸攻、九七式重爆に乗り込んだ。

「帽振れェッ!!」

 そして手すきの整備員達から見送られながら空挺部隊は出撃していった。
 なお、護衛の戦闘機はイタリカ航空基地の零戦と隼がそれぞれ十五機が発進した。
 更にイタリカに交代したばかり精鋭の第二師団と第三八師団、加茂大佐の混成第一戦車連隊もイタリカから出撃をしていた。

「急げェッ!! 健軍の奴に手柄を全て持って行かれるぞッ!!」

 健軍と同期の加茂は少々焦っていた。炎龍の件は加茂が活躍したが、今回の帝都攻撃は日本軍初の空挺作戦であり今までの手柄が全て無くなりそうだと危惧していた。

「手柄が健軍に行けば……戦車は新型に更新は止まるかもしれん。そんな事はさせんぞ」

 加茂の脳裏には中隊長として参加したノモンハン事件を思い出していた。
 ソ連のBTやT-26軽戦車の四五ミリ戦車砲に味方の中戦車や軽戦車は次々と撃破されていった。(なお、日ソ戦車の最大装甲は九七式中戦車の二五ミリである)

「一秒でも早く帝都に到着するぞッ!!」

 加茂はそう叫ぶのであった。




「撃ちまくれ水野ッ!!」
「は、はいッ!!」

 自衛戦闘を宣言した樹は九九式軽機関銃を構えていた水野に叫ぶ。水野は忠実に樹の命令に従い、引き金を引く。
 途端に七.七ミリの軽快な音が響き、先程までヴィフィータと言い争っていた委員の身体を引き裂いた。

「なッ!?」
「騎士団は一時下がれッ!! 片瀬達も撃て撃てェッ!!」
「了解ッ!!」

 後方の陣地にいた片瀬達も射撃を始めた。ヴィフィータ達騎士団はいきなり始まった戦闘に唖然としていた。

「これが……異国の戦争……なのか?」

 次々と倒れていく委員や掃除夫達を見ながらヴィフィータはそう呟いた。

「ぼさっとするなッ!! 早く後方に下がれッ!!」
「お、俺達は騎士だッ!! 下がることなどしないぞッ!!」
「最後に出番があるから一旦下がれッ!!」

 反論するヴィフィータに樹はそう言ってベ式機関短銃を掃除夫に叩き込む。樹は射撃をしつつ九九式手榴弾を投げる。
 樹はヴィフィータ達を伴い陣地へ後退する。そして手榴弾は何も判っていない委員達の足下で爆発して数人の委員を吹き飛ばした。
 そこへ九二式重機関銃も射撃を始め、守備隊の最大火砲で虎の子である九四式山砲二門も砲撃を始めて掃除夫達を肉片に変えた。

「騎士団さん、今だよ」
「よ、よし。野郎共ッ!! 花嫁を守れッ!! 抜刀ッ!!」

 騎士団の兵士達は己の剣を抜いた。太陽の光で刃がキラリと光る。

「皇太子の配下だろうが構うなッ!!」
「女と年寄りは道を開けろッ!!」
「他人の恋路を邪魔する奴はコボルトに食われて死んでしまえッ!!」

 騎士団は先程の菅原の行動を見ており士気は最高だった。そしてヴィフィータが剣を掲げた。

「此処は外交特権に守られた使節の館。帝権も及ばぬ異国。力ずくで押し入らんとする者はだれであろうとこのヴィフィータ・エ・カティが皇帝陛下の御名の下に討つッ!! 突撃、前へェッ!!」
『ウワアァァァァァーーーッ!!!』

 抜刀している騎士団は雄叫びをあげて全滅寸前の委員と掃除夫達へ突撃を敢行するのであった。



「何ッ!? 翡翠宮へ向かった部隊が壊滅しただとッ!!」
「は、残存は僅か九名です」

 指揮を取っていた委員達の報告にルフルス・ハ・ラインズ次期法務官は驚愕した。

「た、直ちに帝都全域に展開している帝国兵を集結させるのだッ!!」
「はッ!!」
「いや、貴様らではない」

 下がろうとしていた委員達にラインズは呼び止めた。

「貴様らには委員裁判が待っている。即時裁決をしてやる」

 ラインズ次期法務官の言葉に生き残りの委員達は顔を青ざめた。ラインズはギムレット委員部長を死刑と宣告して言い訳を与える暇をせずに処罰した。

「くそ、何でこんな事に……」

 ラインズはそう呟いた。そして天気は雲が群がり雨となった。

「健軍大佐、これでは落下傘降下は危険です」
「むぅ……やむを得まい。出直すしかあるまい」

 空挺部隊を乗せた輸送機と爆撃機が帝都に飛行してきたが雲が厚く、風速と雨もありとても降下出来るものではなかった。
 空挺部隊はやむ得ず引き返した。そのためこの日の空挺作戦は失敗した。

「大田大佐、何日まで持ちこたえられるかね?」
「念のためにと弾薬類は多めに携帯しています。空路で上から補給してくれたら我々は何年でも持ちこたえます」

 吉田の問い掛けに大田大佐はそう答えた。



 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧