花天の椿
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第二章 小さな約束
前書き
文才が欲しいです。
第二章 小さな約束
全ての授業が終わった放課後、椿は三河に降りる為に酒井学長のいる学園長室に訪れていた。
「たく、なんで俺が行かなきゃいけないんだよ」
椿にとって酒井学長は、保護者のような存在だ
幼い頃に家族を失った椿は、母の友人だった酒井学長に引き取られたのである。
その為椿に、剣術などを教えたのは酒井学長であり、今椿が着ている羽織や、花天狂骨を椿に授けたのも酒井学長だった。
最も花天狂骨に関しては、当時誰も花天狂骨を鞘から抜く事ができなかった。
だが偶然、幼かった椿が花天狂骨を抜いてしまったため、そのまま椿に授け同時に剣術を教えたのだ。
「ハァ~、帰りたい」
学園長室の前で、深いため息をつき静かに扉をノックする
すると中から、どうぞ、という声が聞こえ椿は扉を開けた。
「何してるんですか?、もう三河に着きましたよ速く行かないと旦那達、怒りますよ」
学園長室の、中には中年過ぎの男性、酒井忠次の姿があった。
「おぉ、椿わざわざ悪いなぁ」
「悪いと思っているなら速くしてくださいよ、正純も居るんですから」
椿のため息混じりの言葉に、忠次はハイハイと言いながら立ち上がり、二人は学園長室を後にする。
学園長室を出て、すぐ二人は一人の女生徒と会った。
「あぁ、三河に降りる時の証書か?、ミトツダイラ」
椿の言葉に少女、第五特務、ネイト・ミトツダイラがその長い銀髪を揺らしながら答える。
「えぇ、松平分家の権利で一応お二人から証書を渡しに」
ミトツダイラは、ポケットにしまっていた二枚の紙を椿に渡す。
「ありがとう、わざわざ」
「たかだか、三河に降りるだけなのに面倒たねぇ」
頬をかきながら呟く、忠次に全くだと椿は答える。
「まぁ貰った事だし、行きましょう」
そして三人とも校舎の、出口をでる。
すると、校舎と門の間にある橋その階段部分に、三年梅組の生徒達がいた。
「何やっんの?、お前ら」
椿の言葉に全員が振り返る。
「椿君に酒井学長、これから三河に降りるんですか?」
質問してきた浅間に、椿がこたえる。
「まぁな、これから正純と合流してからだけど」
すると椿の後ろにいた、忠次が前に出てきた。
「噂になってんだが、トーリお前さんが告白するとか何とか………そんな危険な行為の及ぶ相手ってのは」
「ホライゾンだよ」
放たれた言葉に、皆が沈黙する。
「やっぱり、お前さんも、そう思うのか?」
「学長先生だって、そうだろう? それに解ったんだよ俺、もし彼女がホライゾンじゃなくても」
「なくても?」
「何も出来ねぇ俺だけど、そばに居てくれねぇかなって」
そうか、と言い酒井は煙草の煙を空に吐く
「いつ、そう思った?」
「一週間くらい前さ、十年前のこの頃に、ホライゾンがいなくなったんだな、と考えたら自然と、そう思えたんだよ、だからコクろうって決めたんだ。」
「そうかい、そこまで解ってる俺からは何もないね、まぁ頑張んな」
そう言うと酒井は歩きだす。
椿もその後に続く
「あぁ、そうだ椿お前結局、今日の幽霊払い来んの?」
トーリの言葉に椿は振り返る。
「八時ぐらいだよな?」
椿は酒井をみる。
「そんくらいの、時間なら大丈夫だろ」
「つーわけだから、顔ぐらいは出すよ、一応正純にも伝えておく」
頼むわ、というトーリの言葉を聞き椿と酒井は、再び歩きだす。
●
後悔道りを、抜けてすぐ椿と酒井は生徒会副会長、本多・正純と合流していた。
「椿、お前も行くのか?」
正純は、酒井学長だけが三河に降りると聞いていたため、今この場にいる、椿に驚いていた。
「あぁ、正純はまだ聞いてないのか、昨日の夜いきなり頼まれてな」
ジト目で酒井学長を睨む椿
「仕方ないだろ、昨日いきなりダっちゃんが、久々に椿の顔が見たいって言うから」
酒井の言葉にため息をつく椿
「たく、忠勝の旦那も言うなら、もう少し速く言ってほしいですよ」
まったく、と言いながら椿は呆れていた。
そんな椿に、正純が問いかける。
「椿、お前は本多・忠勝と面識があるのか?」
「まぁな、小さい頃何回か稽古をつけてもらった事があるんだ。つっても俺が一方的にボコボコに、されてたけどな」
笑いながら答える椿に、正純は言葉を無くす。
「じゃ、じゃあ本多・二代とも、面識があるのか?」
「二代って、旦那の娘さんの?」
あぁ、と答える正純
椿は少し考えた後
「あぁ、話した事は無いけど、お互い顔は見たことがあると思う」
曖昧な答えに、そうか、と正純は返す。
事実椿と二代は、実際に会話をした事はない
椿が稽古で、忠勝にボコボコにされた後、本多家付きの自動人形、鹿角に手当てをしてもらっていた時、襖の影から二代が此方を覗いていたのを、覚えていたのだ。
「それにしても、変だな」
ふと、酒井の言葉に椿と正純は、酒井の方を見る。
「変? というと………」
聞き返した正純、辺りを、貨車や人の流れをみて、正純はハッと何かに気付く
「武蔵への荷はあっても、武蔵からの荷は無い、ということですか?」
正純の、言葉に頷く酒井
「いつもはもっと、こっちからの荷もあったんだけどなあ。今回は妙に無いな」
眉をひそめる酒井に、正純は言う
「まるで、三河が死ぬ前に形見分けして、自らを世間から隔絶しようとしてるみたいですね」
「オイオイ、おっかないこと言うなよ。ただでさえ三河は鎖国状態で、交流不許可とかいって武蔵とも距離をとってるんだからさぁ」
酒井の言葉に、正純もそうですね、と返す
だが、椿だけは先程の正純の言葉が頭から、離れないでいた。
「まさか………な」
椿の小さな言葉は静かに空に消えた。
●
「じゃあ、一応私はここで」
三河の関所に着き、正純は酒井と椿に頭を下げる
「悪いね、わざわざ」
頭を下げる正純に酒井が、肩を叩く
「いえ、副会長として当たり前です、それじゃあ椿後を頼む」
「了解、あぁ後今日の夜トーリの大将が学校で、幽霊払いをやるみたいだけどお前も来る?」
幽霊払い?と正純は腕を組少し考えると
「いや、遠慮しておくよ今日は三河の花火が見たいし」
「解った、じゃあ皆に伝えておくよ」
そう言うと椿と酒井は、歩きだす。
すると正純は少し迷いながら、言葉を発する。
「あ、あの、今日このあと後悔道りを調べようと思っています。」
正純の言葉に二人は少しの間、言葉を無くす。
「え、えっと」
「良いんじゃないの、正純君がトーリ達の方に一歩踏み出すのも」
酒井の言葉にはぁ、と答える正純
「まぁ、色々あると思うけど調べて損は、無いと思うよ」
「はぁ、解りました。」
今度こそ、別れの言葉を言い合い、椿と酒井は歩きだす。
正純はそんなら二人の背中を、黙って見ていた。
●
三河の町を背後に三人の人影があった。
一人は、中年過ぎの、細い男、榊原・泰政
一人は、同い年くらいの、体格のいい男、本多・忠勝
まう一人は、二人目の背後に控えた少女、本多・二代
そこに、もう二つの影、酒井・忠次と、刻風・椿の二人だ。
(あれは、本多・二代?)
椿は忠勝と榊原の、背後に立つ少女二代を、見て少し驚いていた。
今忠次と、忠勝達が会話をしているが二代は、ただ、ずっと椿を見ていた。
(なんで、あんなにガン見してんだ?、俺なんかしたかな?)
あまりにも、凝視してくる二代に少し戸惑う椿
だが、次の瞬間椿と酒井に予想外の事がおこる。
「………見せろ」
空気を叩くように響く、忠勝の声
瞬間、二代の姿が消える。
舌打ちを打ちながら、椿は左の腰にある刀に手を沿える。
二代は椿の前、忠次の背後に円弧を描くように現れる。
その手に刀を握っていた。
(俺じゃなく、忠次さん狙いか!?)
酒井は、背後に来た少女本多・二代に対してただ、何もせず立っていた。
(避けないのか!?)
酒井の背後で、今まさに酒井を斬ろうとしている、だが二代は驚くが迷いなく忠次に向かって刀を振るう。
しかし、その瞬間
(な……なに!?)
二代の腕を握りしめ、刀を止める一人の少年が二代のすぐ隣に、立っていた。
「え~と、個人的には止めたくないんだけど、一応護衛役だから俺」
一応ってなんだよ、という忠次を無視して椿は忠勝と榊原に呆れた視線を送る。
「で、これはどういう事ですか?、旦那方」
椿の言葉に、忠勝と榊原は口笛を吹きながら誤魔化していた。
●
右舷二番艦・多摩の表層部右舷側商店街。
そこには、巫女服姿の浅間と、義腕の少女、第六特務、直政と
眼鏡の少女、アデーレ・バルフェット
前髪の長い少女、向井・鈴、の姿があった。
「結構、買ったな、一応これで終わりか?」
肩に荷物をの担ぎながら、直政が前を歩く浅間に問いかける。
「一応、これで終わりですよ、それより皆さん今日の幽霊払いは行くんですよね?」
浅間の言葉に、三人はJud.と頷く
「でもまあ、三河の花火もありますけど、やっぱ皆さん総長の方に行くんですよねー。」
「わ、私も、私も行きます」
アデーレの言葉に鈴も頷く
「何だかんだと、皆、トーリ君の事が気になってますね」
「まぁ、確かに世間は織田だの大罪武装だの末世だのと煩いけどさ、そんな中、一人の馬鹿の告白が通るかどうかはホント、通し道歌じゃないけど……」
直政は、空を見上げて言った。
「怖いさね。………よくやる気になったもんだ、あの馬鹿」
すると、直政は視線を下げ浅間を見て、口元を緩めながら言った。
「それで、アサマチお前はコクんないのか?」
すると、浅間は呆れた視線を直政に送る。
「コクるって、私が誰にコクるんですかマサ?」
浅間の言葉に小首を傾げる、直政
「あれ、お前って椿の事が好きなんじゃないのか?」
うんうん、と首を縦に振るアデーレと鈴、そんな三人に浅間はため息をつきながら言う
「まぁ、確かに私は椿君の事が、好きなんだと思います。」
空を見上げながら言う、するとアデーレの頭の中に一つの疑問が生まれた。
「そう言えば、気になってたんですけど、浅間さんは何で椿さんの事を好きなったんですか?」
「あぁ、それは私も気になってた、何かきっかけがあったのか?」
直政の言葉に鈴も頷く
「きっかけですか?、う~ん、あっ、そう言えば皆さんって椿君に妹がいるのを知ってました?」
浅間の問いに、三人は少し考える、すると直政が言った。
「あぁ、見たことは無いけど知ってるよ、けど確か椿の妹って」
「はい、椿君の家族は、父親がいなくて、母親も椿君が五歳の時に亡くなっていて、だから妹さんは椿君のたった一人の家族だったんです。でも妹さんも確か椿君が小等部に入ってすぐの頃に病で亡くなっています。」
「それと、椿の事を好きになるきっかけと、どう繋がるんだ?」
浅間は少し目を閉じる、何かを思い出すように
「妹さんの名前は、菫、私菫ちゃんとは仲が良かったんですよ、私が椿君と出会ったのも菫ちゃんを通してだったんですよ」
「へぇ~それは知りませんでした。」
アデーレは眼鏡を少し上げながら言う。
「当時、椿君は少し暗い性格で、私の知る限り心を開いていたのは、ノリキ君ぐらいだったと思います。」
「あぁ、そう言えばノリキとは仲が良いよな、椿は」
直政の言う通り、椿とノリキは幼い頃からの親友であり、少し無愛想なノリキも椿とは仲が良い
「はい、それで私、菫ちゃんの葬式に行ったんです。仲が良かったから私泣いてしまって、でも椿君は泣いていませんでした。」
直政達は少し驚く、まだ小等部に入ったばかり幼い少年が、たった一人の家族を亡くして泣いていないということに
「私、その時椿君を見てまるで、自動人形みたいだなって思ったんです、酷いですよね」
浅間は笑っていた、だが幼い少女ならそう思うのも無理はない
「椿君は、葬式の時ずっと上を見ていたんです。」
「上?」
直政の疑問に、浅間は笑って答える
「はい、ずっと上を見ていました。そして葬式が終わった後椿君はすぐに、何処かに行ってしまって、私気になって後を付けたんです。」
浅間は、空を見上げる。
●
武蔵の住宅街を、巫女服姿で走る一つの影があった。
幼い頃の浅間だ、彼女は今葬式が終わった後いきなり何処かへ行こうとしていた、椿の後を付けていたのだが、見失ってしまったのだ。
「どこに、行ったのかな?」
必死に探しても見つからない、仕方なく浅間は椿の家に行くことにした。
十分ぐらい歩くと目的地に、到着した。
椿の家は、椿達の母親が亡くなった今でも残っていた、仮の保護者である酒井が残してくれたのだ。
そして、その屋根の上に椿は座っていた。
浅間は、すぐに椿の元に向かった。
「何してるの、こんな所で?」
屋根の上に登った浅間は、椿に話しかける、椿はただ上に広がる空を見ながら答える。
「この場所はさ、菫が好きな場所なんだよ」
静かに、ハッキリと答える椿、だがその背中は震えていた。
「椿君?」
浅間は静かに椿の隣に座り、椿の顔を見る。
その目には涙が浮かんでいた。
「母さんと約束したんだ、菫を守るって……でも……僕は…病気で苦しんでいた菫に………何も…出来なかった。」
それでも、椿は、涙を必死に抑えていた。
「それは………」
仕方がないことだ、と言ってしまいそうになるのを浅間は、こらえた。
「解ってる……仕方がないことなのは………でも僕は……自分を許せない」
浅間は、黙って椿を見つめていた。
「だから、せめて菫が……僕を心配しないように…涙だけは流さないって決めたんだ。」
震える体と涙を必死に抑える椿
そして浅間は理解した、椿が涙を流さないようにずっと上を見ていたことを
その姿は、幼い椿を更に幼くみせた。
「椿君、もう大丈夫だよ」
気づいたら、浅間は言っていた。
その、言葉に椿は、始めて顔を浅間の方に向けた。
「椿君は、頑張ったよ…だから……もう泣いても良いんだよ…」
気がつくと、浅間は涙を流していた。
「もう、良いのかな……僕は…もう泣いても……良いのかな?」
椿の言葉に、浅間は涙を流しながら、静かに頷いた。
その瞬間、椿は涙を抑えることを、やめた、吐き出すように、赤子のように涙を流した。
そんな椿を、浅間は静かに抱きしめる。
二人は、ただ、泣き続けた。
泣きながら浅間は思った。
(私が、この人の特別になれたら良いのに)
これが、浅間・智の初恋だった。
●
浅間は、話し終えると笑っていた。
「それが、アサマチが椿を好きになった、きっかけなのか」
直政の言葉に頷く、浅間
すると、今まで黙っていた鈴が、呟いた。
「で、でも、それだと、た、たぶん、椿君も、浅間さ、んの事が、好き、だと思う」
「あっ、それ私も同感です。たぶん椿さんも浅間さんの事が、好きだと思いますよ」
鈴の言葉にアデーレも頷きながら言う
「まぁ、でもあれからお互い、何もないので椿君の気持ちは、解らないんですけど」
浅間は少し戸惑いながら言った。
「まぁ、今日は中々良いことを聞いたよ、アサマチ何か進展があったら聞かせてくれよ」
考えておきます。と浅間が返すと四人は再び歩きだす。
(それに、この話しには続きがあるんですけどね)
●
椿と浅間は流せる限りの涙を流し、今二人は屋根の上で夕焼けに染まる、空を見ていた。
すると、浅間の隣に座っていた椿が立ち上がり言った。
「僕、いや、俺…決めたよ……強くなる…もう何も失いたくないから、強くなって俺の大切なものを守る」
椿の目には、もう涙はなく強い意志があった。
そして、椿は浅間の方に体を向け、浅間の目を見て言った。
「そして、強くなって自分を許せるようになったら、俺………浅間にコクるから」
「…………えっ」
いきなりの告白予告に、浅間は頭の中が真っ白になる。
そして、浅間が答える前に椿の顔が真っ赤に染まる。
「やっぱり、今のな「待ってる」……え?」
「何年でも、私待ってる椿君が告白してくれるのを」
椿は、予想外の言葉に戸惑う
「それって、okってこと?」
すると浅間は、少し笑いながら答える。
「それは、椿君が告白してくれたら教える」
浅間の表情を見て、椿も笑った。
すると浅間が、椿に向かって右手の小指を差し出す。
「約束」
すると、椿も自分の右手の小指を差し出した。
そして二人の小指が繋がる。
「「約束」」
●
浅間は再び空を見上げる、同じ空の下にいる椿の事を思いながら
(待っていますから、今でも変わらずに)
そう思いながら浅間は前を歩く、三人を追いかけていった。
後書き
更新が遅れてスミマセン
一応更新は週一のペースでやろうと思っています。
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