とある蛇の世界録
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第二話
前書き
完結までの道のりは長いですね。
勉強時間を考えると、そんなにかけないでしょうし。
朧は今日、日直だったので、オカルト研究部の部室に行くのが遅れた。アーシアには先に行ってもらったので、少し急ぎ足で部室へと向かう。
その途中の事だった。
「あなたが蛇神か?」
唐突に声を掛けられた。振り返るとそこには一人の男が立っていた。
朧は思考を巡らせる。それは、ごくごく僅かながらの、一瞬の時間だったが、それでも試行錯誤し、口を開いた。
「何を言っている?」
とりあえずの処置として、肯定とも否定ともとれる返事をかえす。それを訊いた男は一瞬いぶかしげに顔をしかめ、次いで言葉を発した。
「俺の名前は、曹操。禍の団、英雄派の一応のリーダーを務めているものだ」
「曹操、だと?」
「そうだ、俺は先祖である曹操の力を受け継いだ者だ」
ここまできて朧は、ごまかすのをやめる。
理由としては、第一に、この男――曹操の所属が、オーフィスと同じだったこと。第二に、本来の曹操が、つまり三国志に出てくる方の曹操が自らの友人だったことにある。
「オーフィスに聞いたか? あいつは変に口が堅いくせに、そういうときは甘くなるからな」
「いや、あなたにたどり着いたのは、こちらが独自に調べて探しだしたからだ。確証は得られなかったが、今分かったから十分だ」
「ふん、そうか。で、なんのようだ」
「単刀直入に行こう。あなたに禍の団への協力を頼みたい」
曹操の目を見つめる朧。圧倒的格上の存在に見つめられ、睨まれながらも、表向き平然と保てているのは、曹操の決意を如実に表していた。
「…………詳細を言え。私は、あまりお前達の組織を知らないからな。知っているのも旧魔王派の方だけだ」
「それは、すまなかった。そうだな、われわれの目的は、三勢力の人間界に対する接触を禁止させることだ。あいつらは、自分のメリットに対して欲深すぎるだろう? 人間こそそんなものだが、規模が違う。少なくともいるだろう、いわゆる心優しき聖人のような存在は」
それを聞き、思い浮かべたのは二人の少女だった。
一人は、人類を護るため死に。一人は、種族かまわず助けを求めるものに手を差し出す聖女。
「あぁ、そうだな」
「だが、そういう者に限って、利用される。しかも、その当人は直ぐに仕方がないと割り切るだろう?それはおかしな話だ。だから、そういう悪魔や堕天使たちに利用される人間達を救い出したいんだ。そして、人間に対する罪を、償わせたい…………どうだろうか?」
曹操の言っていることが、どれも嘘偽りの無い言葉だと、朧は見抜いていた。その上で、朧は口を開いて、
「……もし、お前達のその意志が本物ならば、私が力を貸してやる」
「それは本当か!?」
「あぁ、今は亡き神に誓おう。――だが、私自身は力を貸すことは出来ない」
「? それは、どういうことだ?」
「私は、神との盟約により、派閥ごとの戦いにおいての協力を禁止されている。まぁ、ミカエルあたりにでも頼めば、なんとかなりそうだが、それは私が許容できないからな」
「そうなると、どうするのだ? 協力はする、だがわれわれには協力できないとは」
「まぁ、待て。お前にはこれをやる」
そういって朧は差し出してのは、アーシアに渡していた『おまもり』に、非常に似通ったものだった。
「これは?」
「そこには、私の娘が入っている。封印されたんだよ、三勢力によってな。恐らく、相当恨んでいるだろう、三勢力の事を。どちらにせよ、主従を交わせば、お前に付き従うだろう」
「主従、とはどうすれば?」
「簡単だ。戦って勝て。それだけだ、大体五割程度の力だろうな」
「戦って、勝つ……」
「そうだ、これからお前達の歩むだろう道のりに欠かせないことだ。負けは許されないだろう?」
「…………そうだな。その通りだ。勝たなければいけない。協力感謝する」
「気にするな。どちらかといえばその娘のためだからな」
それに頷きで返し、何か大きな事を心に決めた顔で、曹操は霧に包まれていった。
そして、朧はポツリとつぶやく。
「…………人間に対する罪、ね」
かつて、愛した、一人の少女を思いながら。
後書き
…………かつて愛した少女、ね
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