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言う程もてない

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第四章

「絶対によ、秀幸君には誰も声をかけさせないから」
「それ言ってたことと変わってるから」
「誰か声をかけないかって心配だから見張るって言ってたじゃない」
「それでどうしてそうなるのよ」
「矛盾してるどころじゃないわよ」
「声をかけさせないって何なのよ」
「どうしてそう変わるのよ」
 周りはそんな藍に呆れていた、だがそれでもだった。
 藍は体育の授業が終わるとすぐに着替えて、まさに瞬時で着替えてそうしてだった。
 同じく体育の授業を受けていた秀幸のところに向かった、秀幸は丁度着替え終えて男子更衣室から出たところだった。
 その彼のところに来てだ、こう言ったのだ。
「クラス行こう」
「うん、わかったよ」
 事情を知らない秀幸はにこりと笑って応える、そのうえでクラスに戻ってだった。
 藍はこれまで通り秀幸の傍を離れず周囲を見回している、やはり番犬か何かの様だ。さながらドーベルマンだ。
 そうして一日ずっと過ごした、それは部活もだった。
 藍は自分の部活、美術部を強引に休んで秀幸がいるグラウンドを見張った。グラウンド全体が見える土手に座りそこからだ。
 部活に励む秀幸を見張る、クラスメイト達はこの時も藍のところに来てそのうえで彼女に対してこう言うのだった。
「あのね、今度はちゃんと見張ってるけれど」
「それでも部活まで休んで」
「しかも彼氏が誰かに声をかけないか心配だから見張るから休むって」
「普通堂々と言わないでしょ、部長さんに」
「部長さん呆れてたでしょ」
「休むことは許可してくれたけれど」
 それでもだ、言われた部長は呆れていたというのだ。
「全く、暴走し過ぎよ」
「しかも今も目を離さないし」
「そこから見て誰かが声をかけたら言うのよね」
「すっ飛んでいって」
「そうするのよね」
「当たり前じゃない」
 藍は周りの言葉に有無を言わさぬ口調で返した、その間も秀幸から目を離さない。
「絶対にね」
「やれやれね」
「そうしてなのね」
「今チェックするのね」
「何があっても」
「秀幸君は私のものなんだから」
 お決まりの台詞もここで出た。
「絶対によ」
「声をかけないかどうか」
「見張るのね」
「今も」
「そうよ」
 まさしくそうだというのだ。
「本当に心配だから」
「心配なのはわかるけれど」
「ちょっとねえ」
「幾ら何でもでしょ」
「今の藍ちゃん怖いから」
「絶対に普通じゃないわよ」
「普通じゃなくてもいいわよ」
 最早そうしたことすら目に入っていないといった声だった。
「秀幸君に声をかけてくる娘がいたら」
「やれやれね、全く」
「そんなに秀幸君が好きなのね」
「それで今も見張るって」
「もう無茶苦茶っていうか」
「暴走してるっていうべきかしら」
 周りはそんな藍に呆れていた、だがそれでもだった。
 藍はずっと秀幸を見ていた、そして。
 部活の最後まで見守るというか見張ってだ、そして言うのだった。
「それじゃあ後はね」
「これで終わりじゃないってことね」
「まだなのね」
「そうよ、今度はね」
 望遠鏡を自分の鞄に収めつつ言う。 
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