偽典 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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第8章 そして、伝説へ・・・
第弐話 バラモス城へ
俺たちは、庭をゆっくりと歩いていた。
「ここが、バラモス城ですか?」
変身を解いた俺に対して、勇者が確認を求めるようにたずねた。
「そうだ」
「ここでしたか」
勇者は、俺の答えに妙に納得した表情でうなづく。
「?」
「私が三姉妹と最後に会話した場所です」
俺が不思議そうな表情をしていると、勇者が説明してくれた。
「そうか、ギリギリ間に合ったのか・・・・・・」
俺は、背中に冷や汗をかきながら答える。
「さあ、この先だ!」
俺は、地下へ続く階段を指さす。
「はい!がんばります」
勇者は元気よく俺の後ろについてきた。
「ちょっと待ってくれ、トラマナ」
俺は、目の前の障壁を前にして、ついてきた勇者を押しとどめると、バリアからのダメージを防ぐ呪文を唱えた。
「これで問題ない」
俺は、地下への階段を下りながら、城内に侵入するまでのことを思い出していた。
アリアハンでも感動の再会が待ち受けていた。
オルテガと勇者の母親が抱き合って喜んでいた。
そうだろう。
母親は、オルテガが死んでいることを覚悟していたし、オルテガも10年以上ぶりの再会なのだから。
俺たちみたいに、冒険開始の日に自宅に帰ったり、一年間冒険を中断しアリアハンに帰宅したり(俺を除く)などとは訳がちがう。
勇者オルテガの場合、世界各地でモテていたので、家に帰らなくても寂しかったわけでもないだろう。
うん。そんなことはないはずだ。
感動の再会に俺たちは喜び、テルルはもらい泣きまでしたが、それからが大変だった。
勇者の母親が、これ以上、勇者を旅に出さないと言い出したのだ。
勇者が三姉妹に連れ去られたことが伝えられたとき、勇者の母親は倒れてしまった。
最愛の夫のみならず、子供まで失ったのだ。
その悲しみの深さは、よく理解できる。
子供を勇者として送り出したのも、死なせるためではなかったはずだ。
たとえ、宝箱を開封して命を失っても、セレンのザオリクでよみがえってもらう腹積もりがあったはずだ。
そして、俺たちが大魔王を倒し、勇者親子が帰還した。
勇者の母親としては、もう勇者を手離したくはないだろう。
とはいえ、魔王バラモスがいまだに健在だ。
一度、俺が撃退したとはいえ、バラモス城にいるだろう。
そうでなければ、俺の父親が大魔王ゾーマに殺されたはずである。
それに、いまだにこの世界にはモンスターで満ちあふれている。
結局、勇者の母親に対する説得は、俺があたることになった。
俺は、お願いする。
「勇者がいないと、魔王は倒せません。
ぜひ、ご協力をお願いします」
俺は、頭を下げるが、勇者の母親から返ってくる言葉は冷たい。
「大魔王を倒したのなら、あなたたちが魔王も倒せばいいじゃない」
俺は、あらかじめ想定した回答だったので、よどみなく話を続ける。
「魔王バラモスの城に乗り込むには、不死鳥ラーミアが必要で、勇者のように選ばれたものでなければ、乗ることができません」
「あなたが、竜に変身すればいいじゃない」
勇者の母親の指摘は手厳しい。
アリアハンでの俺の練習を把握していたようだ。
なかなか、手強い相手だ。
だが、俺は説得をあきらめない。
「素敵なおうちですね」
俺は、周囲を見渡してから、感心するように言った。
「?
まあ、そうね。
留守を守るのが努めですから」
勇者の母親は、俺の急な話の切り替えにとまどいながらも、自信をもって答えた。
「それだけに残念です」
俺は、うなずきながらも、悲しそうな表情をみせる。
「?、残念?」
勇者の母親は俺の表情の変化に驚いた。
俺は、勇者の母親の表情の変化にも気にせず話を続ける。
「勇者が活動している間、国から支援金を受けていますよね?」
「当然よ。
お国の為に働いているのだから」
勇者の母親は、誇らしげにこたえる。
「そうですよね」
俺は、ええそうですともとうなずきながら、
「ですが、大魔王はともかく魔王を勇者が倒さなかったらどうなるのでしょうか?」
俺は、残念そうな表情を作る。
「?」
「勇者は、結局、使命を果たしてないですよね。
それなのに、支援金を受けている」
勇者の母親に、わかるように優しく説明する。
「俺たちは、勇者の頑張りを知っています。
ですが、街の人はどう思うのでしょうか?」
「それは、・・・・・・」
勇者の母親は、はじめて困惑の表情を見せる。
「心ない人から、いろいろ言われるのではないのでしょうか。
少なくとも、このような素敵な家に居られないと思いますよ」
本当に残念です。
と、俺は寂しそうな表情をみせる。
「・・・・・・」
勇者の母親は、俺に対して厳しい表情を向けながらも、いろいろと悩んでいるようだった。
「おかあさん。
大丈夫だから!」
勇者が、母親に諭す。
「私が、アーベルさんと一緒に行く!」
「いや、俺が」
勇者の強い叫びに、思わず、オルテガが呼び止める。
「お父さんはゆっくり休んで」
だが、勇者はオルテガをとどめる。
「アーベルさん」
オルテガは、真剣な表情で俺に対峙する。
「はい」
「サルファのこと頼めるか」
「あなた!」
母親が、オルテガに詰め寄る。
「サルファが、望むのだ。
任せようではないか。
なあに、俺たちの子どもだ。
たとえ、魔王バラモスでもいちころだろう。
無事に帰ってくるさ」
オルテガは、信頼の俺に視線を向ける。
「お任せください」
俺は、胸を張って宣言する。
「お願いします」
魔王バラモス討伐における、最大の問題点が解消された。
ただ、勇者の母親の俺に対する態度は、非常に悪化している。
まるで、「うちの娘をかどわかして、冒険という危険なことに巻き込む存在」とでも考えているようだ。
それをしたのは、俺達ではなく、3人組の誘拐犯なのだが。
そのことを、話に立ち会っていなかったテルルに話すと、
「アーベル、本気でいっているの?」
と、逆に心配されてしまった。
「あんたの考えはようやくわかったけど、ええ、やっぱり変よ」
テルルは、妙に納得した表情で俺の顔を覗いていたが、
「ひとりでは何をしでかすかわからないから、ついて行くわよ」
先ほどの言葉と矛盾することをいいながら、冒険についてきてくれた。
俺たちは、アリアハンを出ると郊外に待機していた不死鳥ラーミアの背に乗り、バラモス城を目指していた。
魔王バラモスを倒した後ならば、ゆっくり世界を旅しながらでもよかったが、今回はそうはいかない。
これ以上、勇者の母親を怒らせるわけにはいかないからだ。
オルテガは自分の妻に頭があがらないようなので、下手に冒険をながびかせないようにしたい。
俺一人では勇者オルテガには勝てそうもないからだ。
だが、勇者を死なせるわけにもいかない。
なにかあった場合は、俺はオルテガに殺されるだろう。
俺は、念のためポルトガ国王に依頼したアイテムを受け取るため、ポルトガに一度寄り道しただけで、魔王の居城へ直行した。
広大な砂漠を越え、巨大な山脈に囲まれた地形を眺めていると、
「それにしても、魔法の玉で襲撃したら良かったのに」
「さすがに、同じ手を食らうほどバカじゃないだろう」
俺はテルルの質問に答える。
あの戦いから1年が経過したのだ。
バラモスもなんらかの対策を練っているだろうと考えていた。
その一方で、バラモス城を乗っ取ることも考えていた。
山に囲まれ、侵入が難しい場所に存在するそれは、秘密の研究所とかにはもってこいである。
モンスターが存在しなくなれば、攻撃呪文は不要だろう。
しかし、いざという場合に備えて研究とかは続けたいと思っている。
そのための研究所であれば、この建物はうってつけだろう。
まあ、それも昔の話である。
話をしているうちに、バラモスの居城の入り口に到着した。
本来であれば、居城の庭に着陸させて、すぐにバラモスとの戦いに挑みたかったのだけれども、闇の力により城内への着陸はできないんだよね。
ちぇっ。
「ところで、どうするの?」
バラモス城への入り口を前にして、テルルが質問すると、
「まあ、そうだな」
俺は、テルルに振り返ると、
「代わり映えしないが、後ろをついてきてくれ」
俺は、ドラゴラムで竜に変身する。
今回使用したドラゴラム(陸戦型)は、小型で飛行出来ないが、炎を吐くことができ、意識を持って移動することができる。
小型化したことで、消費MPを抑えることができる。
そして、
「はぐれメタル?」
テルルの声と同時に、銀色の液状の物体が目の前を駆け抜ける。
だが、俺は炎を吐き、液状の物体を蒸発させる。
「レベルがあがりました!」
勇者が喜びの声を上げる。
俺も、勇者のレベルアップを喜ぶ。
最大HPが上昇することで、生存率があがるからだ。
「!」
直後、勇者は貧血を起こしたようにふらつく。
「だいじょうぶ?」
勇者に腕を組み支えたセレンが、ベホイミで治療する。
急激な、HPの上昇により瀕死状態になったのだろう。
勇者が回復するのを確認してから、行動を再開した。
俺たちは、モンスターを焼き尽くし、通行の邪魔となる木々を切り倒しながら、目的地へと進んでいった。
階段を下りた先には、懐かしいモンスターが待ちかまえていた。
ロマリアで一度撃退したモンスターである魔王バラモスである。
前回の姿と特に変化はなく、同一モンスターと思われる。
バラモスは、二段高く設置された床の上にある玉座に鎮座していた。
玉座に向かう途中には、先ほど通ったものと同じバリアが張り巡らされており、侵入者を防ぐ構えとなっている。
もっとも、もう一度トラマナを唱えれば、ダメージを受けることなく通過することが出来るが。
俺は、袋から祈りの指輪を取り出すとともに、テルルに一本の杖を手渡す。
「これって、ポルトガ王から受け取ったアイテムよね」
「ああ、そうだ。
対魔王用の切り札だ。
魔王に向けて道具として使えばいい。
大事に扱えよ」
俺は、簡単な説明をする。
俺が、ポルトガ王に頼んだのは、まふうじの杖と呼ばれるものであった。
魔法を使う職業のものしか装備ができないが、道具として使用すると、まふうじの呪文「マホトーン」が使用可能となる。しかも、装備と異なり、使用することができるのは職業の制限を受けることが無いという便利さである。
「え、ええ。
わかったわ」
テルルは、驚いた様子で杖を受け取ると、高価なプレゼントのような気持ちで大事に抱えている。
実をいえば、この杖、アッサラームの南東にあるすごろく場の中の商店で購入することができることは、言わない方がいいかもしれない。
今回は、時間的な余裕がなかったため、ポルトガ城内の宝箱にあることを思い出した俺がポルトガ王に頼んだのだが。
俺達は、MPを回復させ体調を整えると、バラモスに対して、
「やあ、久しぶり」
俺は、昔からの友人にでも逢うかのように、気さくに声をかける。
「ついにここまで来たか、アーベルよ」
バラモスは、俺の姿に驚くことなく、
「この大魔王バラモス様に逆らうなど身の程をわきまえぬ者たちじゃな」
あたかも、虫けらに対する侮蔑の視線を向ける。
どうやら、バラモスは俺と戦ったことを忘れているようだ。
ひょっとしたら、別の個体なのかもしれない。
「ここに来たことを悔やむが良い。
前のように、小細工は聞かないぞ。
このバリアで、貴様の変な攻撃は届かぬようにしたからな」
どうやら、このバラモスは前回の戦いの相手と同じだったようだ。
そして、先ほどのバリアが設置された理由に納得した。
俺が、遠くから魔法の玉を投げても、バリアのところで勢いを防ぐようになっているようだった。
試験をしても良いが、別に今回は魔法の玉を使用するつもりはない。
そんなことを考えていると、
「ふたたび生き返らぬようそなたのハラワタを食らいつくしてくれるわ!」
バラモスは襲いかかってきた。
ふたたび生き返らぬようにと思っているのはこっちだと思いながらも、バラモスとの戦闘を開始した。
勇者は、一番後ろで身を守っている。
本来であれば戦闘で戦って欲しいところだが、レベルもHPも低いし、実践の経験が無いので仕方がない。
テルルは、前衛で盾がわりになって戦っている。
攻撃力が少し低いが、仕方がない。
それよりもテルルに期待しているのは、まふうじの杖による、バラモスの呪文封じであった。
俺が一人で戦った時は、空を飛び直接攻撃を受ける可能性がなかったことから、マホカンタによる呪文反射で問題なかったが、この呪文の効果が一人にしか効果がないこと、回復呪文まで反射してしまうことから、今回は使用できない。
セレンも、テルルと同じく前衛で戦いながら傷ついた仲間の治療に当たっている。
それなりの攻撃力はあるが、基本的には回復に専念をさせている。
余裕があれば、マホトーンを唱えてもらい、バラモスのイオナズン、メラゾーマ、バシルーラやメダパニを防ぐようにしてもらう。
俺は、後方でバラモスの防御力を落とす呪文であるルカニを一度唱えると、メラゾーマを唱えている。
勇者を守る形にはなっているが、それでも女性陣に守られているようになっているのは、適材適所とはいえ、すこしだけ悲しかった。
とはいえ、魔法の玉を使用できない以上、一人で戦うわけにもいかない。
それにしても思う。
タンタルがいれば、楽だったと思う。
ただ、不死鳥ラーミアに乗ることが出来るのは4人。
タンタルには、来てもらっていない。
そもそも、彼はアリアハンに戻っていないのだ。
まだ、ラダトームに残っているのだろうか?
長い戦いではあったが、早期にセレンのマホトーンが効いたことも幸いし、死者がでることもなく、戦いが終わった。
「ぐっ・・・・・・」
バラモスは、13回目のメラゾーマを受けると、膝をつき倒れる。
「お、おのれ、アーベル」
バラモスは憎悪の表情を俺に向ける。
「わ、わしは・・・・・・あきらめ、・・・・・・ぬぞ・・・・・・ぐふっ!」
バラモスは、崩れ落ちるように倒れると、体は霧のように散っていった。
「あっけなかったね」
「まあ、ゾーマを倒した後だからね。
仕方ないさ」
「またレベルがあがりました!」
勇者が喜びの声をあげる。
「そうだな、バラモスの経験値が豊富だからな」
俺もかつて、バラモスを撃退したときに、一気にレベルがあがったことを思い出す。
魔王を倒した喜びが一段落つくと、
「勇者たちよ、私の声が聞こえますね」
柔らかい女性の声が聞こえてきた。
最初は精霊ルビスの声かと思ったが、少し違うようだ。
「夢の中で聞いた声と一緒です」
勇者が、何かを思い出したようにつぶやく。
「ああ、精霊のほこらの妖精さんか」
俺は勇者の言葉で、声の主を思いだした。
「えっ!」
急に声の主が慌てだす。
「ど、どうして知っているのですか!」
もし、この場に声の主がいれば、つかみかかってくるような勢いであった。
「い、いや、そんな気がしてたから」
俺は、適当なことを言ってごまかす。
目的が達成できたことに浮かれて、よけいなことを口にしてしまった。
「テルル・・・・・・」
「セレン。
ええ、そうね。
やっぱりそうね」
セレンとテルルは俺と声の主とのやりとりを聞きながら、ひそひそ話を続ける。
「何の話をしているのだ?」
俺は、セレンに質問する。
「アーベルは、やっぱり・・・・・・」
「やっぱり?」
「・・・・・・」
だが、セレンはそれ以上はしゃべらなかった。
「アーベルは、アーベルということがよくわかったということよ!」
「?」
俺は、代わりにテルルが答えたが、俺の納得がいくものではなかった。
「え、えっと・・・・・・。
あなたたちは本当によくがんばりました」
しかし、妖精の声により話が、元にもどされた。
「さあ、お帰りなさいあなたたちの待っている人々のところへ・・・・・・」
俺たちは、光に包まれると別の所に飛ばされた。
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