魚屋繁盛
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第三章
「本当に」
「すぐに怒るし騒ぐからな」
「理性ないからね」
「参ったよ」
準也は本音を漏らした。
「お袋もよくあんなのと一緒にやってるよ」
「うちもね」
「そっくりだよな、二人共」
「そうそう、喧嘩ばかりしてるけれどね」
まさにそうだとだ、麻琴も準也のその言葉に頷く。
「そっくりよね」
「全くだな」
「けれどよ」
ここでだ、麻琴は言う。
「若しもお父さん達に私達のことがばれたら」
「そんなの洒落にならないぜ」
準也は麻琴の今の言葉にこう返した。
「それこそな」
「ええ、絶対にね」
「荒れるぜ、親父達」
普段から荒れているがそれでもだというのだ。
「台風がそれこそな」
「巨大台風になるわね」
「伊勢湾台風みたいになるぜ」
関西を荒らし回った巨大台風である、その恐ろしさは今尚伝説として語られている程だ。犠牲者もおかなり多かった。
「そんなのな」
「ええ、そうよね」
「けれどな」
それでもだった。
「このままでもな」
「よくないわよね」
「秘密にしててもな」
「何時かはばれるわよね」
「隠してる話はばれるんだよ」
それがまるで必然の様にだ、隠している話はやがてしかも隠している方にとって最悪のタイミングでばれてしまうものだ。
そのことがわかっているからだ、彼は言うのだった。
「だからな」
「何とかしてよね」
「ああ、ことを穏便に済ませないとな」
「そうよね、若しお父さんが私が準也君と付き合ってるって知ったら」
その時のことは麻琴も容易に理解して言う。
「だからね」
「何とかしないとね」
「いい智恵ある?」
麻琴は準也に顔を向けて問うた。
「何かね」
「いや、そう言われてもな」
難しい顔になってだ、準也は麻琴に返した。
「これといってな」
「そうなのね」
「だから困ってるんだよ」
「そうよね、私もね」
「ないよな、いい智恵が」
「ええ」
こう二人で話すのだった
「これといってね」
「けれどどうにかしないとな」
「駄目よね」
「隠してることはばれるんだよ」
またこう言う準也だった。
「だからな、何とかしないとな」
「そうよね、それじゃあ」
二人は真剣に悩んでいた、それでどうしようか考えていた。だがここで。
準也はふとだ、あることに気付いたのだった。
「そうだな、ここはな」
「なにか思い浮かんだの?」
「ああ、親父達が喧嘩した時いつもおもちゃ屋の爺さんが出て来るだろ」
「吉松堂のご隠居さんね」
商店街の長老である、もう齢百に達しようとしているが今尚矍鑠たるものだ。背筋もしっかりとしていて足腰もいい。
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