少年少女の戦極時代
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第43話 咲と初瀬 ②
咲は初瀬を追ってずいぶん長い距離を歩いた。
大人の男と子供の咲では歩幅や体力が違いすぎる。足はすでにマラソン大会直後のような有様。
何度も膝に手を突いて荒い息をし、置いて行かれそうになりながら、それでも咲は初瀬を追いかけた。
彼を放っておくのも、彼に放っておかれるのも、我慢ならなかった。
「ねえ、初瀬くん。何でこんなとこ来たの? 何もないよ?」
「何、も……」
初瀬はまた怪しい足取りで工場の中に入っていく。ちょうど人がさっき入れ違いに出て行ったばかりのようだから、工場内に入っても人はいなかった。
「あっ」
咲は気づいた。工場内のカーゴ車に、ヘルヘイムの果実が絡みつき、車体を覆っていた。
「これ……あの“森”に生ってたヤツだよな」
「たぶんだけど、ここでヘルヘイムにつながる裂け目がひらいたんだと思う。裂け目の近くにこの植物が生るって、紘汰くん言ってたから――」
果実に触れることはしない。戦極ドライバーを持つ咲が触れたら、果実はロックシードになってしまう。インベスゲーム中止を訴える自分が新しいロックシードを持っていては、他のチームに示しがつかない。
何となしに蔦を軽くなぞっていた咲の手を、横から初瀬が掴んだ。
「は、初瀬、くん」
「……これ、ロックシードになんだろ?」
「そう、だけど」
「じゃあ取ってくれよ。俺に。俺にはロックシードが必要なんだ。力が必要なんだよ」
「だ、だめだよ。チカラなら――戦極ドライバーがあるじゃない」
「壊れた」
「え」
「壊れたちまったんだよ。俺のベルト。だからインベスが要るんだ。インベスが追っかけてくるから。あのブラーボとかいう奴も、白いアーマードライダーも、俺を狙ってやがる。ベルトがないんだよ俺は。インベスがいねえとやられちまうんだよ」
しゃべる内に初瀬の目の焦点が咲から外れていき、手を握る力が強くなっていく。
「おかしいだろ。俺だけあんな奴らにビクついて暮らすなんて。もう一度あの力さえあれば俺はたすかるんだ。たすかるんだよ。だから、なあ、たすけろよ、おれのこと。なあ」
もう片方の手が咲に伸びる。殴られるのかと思って、咲はとっさに歯を噛みしめた。だが。
「たすけてくれよぉ……!」
初瀬は何もせず、咲の肩を掴んでその場に頽れた。
(オトナがこわがるとこ、はじめて見た。オトナにもこわいものってあるんだ)
咲はそっと、項垂れた初瀬の頭に手を置いた。初瀬の体はびくんと跳ねたが、振り解かれることはなかった。
咲はそのまま初瀬の頭を抱き込んだ。彼がひどく哀れに思えた。
『グォォォ!!』
「! インベス…!」
工場の外からセイリュウインベスが突っ込んで来ている。咲は初瀬を離して背に庇い、ベルトを装着した。
「初瀬くん、はなれてて。――変身!」
後書き
幼女に守られる大人の男は誰得かって? 俺得だよ!
今回で作者も気づいたのですが、咲にはだめんずうぉーかーの素質がありますね。初瀬みたいに弱った男を放っておけませんでした。
コドモなりにオトナに頼られると一人前になれた気がして嬉しいという部分もありますが。この子も紘汰と同じで「大人に憧れる子供」の一人だったんですね。
咲が初瀬を抱きしめる場面、ちょっと犯罪的だったカモ…?
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