久遠の神話
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第七十三話 帯の力その十一
「心の中で思ってるうちはいいけれどな」
「出したらですね」
「戻らないからな」
それが言葉だ、文章も同じである。
「だから政治家の失言もまずいんだよ」
「それで辞めた政治家は多いですよね」
「そうだよ、だからなんだよ」
「ううん、難しいんですね言葉も」
「怖いものなんだよ」
ただ恐ろしいだけではなくだ、そういうものでもあるというのだ。
「自分の身を滅ぼしたり関係も壊すからな」
「慎重に言わないといけないんですね」
「そうだよ、まあ今はそこまでいかないけれどな」
しかしそれでもだというのだ。
「そうしたことは言わないでくれよ」
「そうですか、それじゃあ」
「ああ、そういうことでな」
これで話は終わった、そしてだった。
中田は前を見ていた、そのうえで自分の前を通る大学の生徒や先生達を見ていた。そのうえで隣にいる上城に言ったのである。
「何か食うかい?食堂で」
「食堂で、ですか」
「もう昼食ったか?」
「はい、購買でパンを買って」
それを昼食としたというのだ。
「野菜ジュースと一緒に。村山さんと二人で食べました」
「そうか、けれどまだ食えるか?」
「そう言われると」
「いけるだろ、丁度今食堂うどんがな」
「うどんですか」
「安いんだよ、かけうどんが一杯七十円なんだよ」
「確かここのかけうどんって一杯百円ですよね」
消費税を入れてだ。
「それがですか」
「ああ、七十円だよ」
三割引きである。驚異の割引きと言うべきだろうか。
「三杯食って二百十円な」
「二杯ちょっと分ですね」
「いいだろ、しかもここのうどんって量が多いしな」
「しかも大阪か讃岐かきし麺を選べますよね」
「そうだ、どれでもいいからな」
「それじゃあ」
上城もその話を聞いて心が動いた、そのうえで中田にこう答えた。
「幸いお金もありますし」
「ああ、乗るか」
「きし麺を」
目を輝かせての言葉であった。
「三杯程」
「いいよな、うどんは」
「そうですよね、食べやすくて美味しくて」
「腹にたまるしな」
「お昼に最適ですね」
「だからな、いいな」
中田も楽しげに笑って言う。
「よかったらあの娘も呼んでな」
「いつも通り三人で、ですね」
「食うか、うどんを」
「それじゃあ」
こうした話をしてだった、そのうえで。
二人は樹里も呼んで三人になってから食堂のうどんを食べた、上城はきし麺であるが紛れもなくうどんである。
そうしたものを食べつつ共にいる時も楽しんだ、また一人戦いから降りられたことを喜びながら。
第七十三話 完
2013・6・27
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