久遠の神話
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第七十三話 帯の力その九
「金と人の心配はいらないな」
「世界屈指の大グループですからね」
「後は土地だな」
「あっ、八条学園内でかつて海軍の宿舎だった場所がありますよね」
「ああ、あの六十年以上そのままになってる」
「あそこに置くそうです」
「確かあそこ今は倉庫だったよな」
学園内のだ、それになっているのだ。
「あそこにか」
「丁度場所も広いですし」
「おあつらえ向きだな、じゃあな」
「はい、先生の願いは適います」
そうなるというのだ。
「銀月さん達の仰った様に」
「まさに神様の力だよな」
「そうですね」
「ちゃんと働いてくれてるな、神様達は」
「そうですね、それで」
「あいつのことだな」
「はい、広瀬さんは」
彼のことをだ、上城は中田に問うた。
「あの人はどうなります?」
「これからだな」
「願いが適うことがですか」
「ああ、見られるな」
そうなるというのだ。
「もう少ししたらな」
「そうですか、それじゃあ」
「ああ、楽しみに待っておこうな」
「そうですね、けれどあの人も」
「願いが適うな」
このことは間違いないというのだ。」
「絶対にな」
「そうですよね」
「あの人達は嘘は言わないな」
聡美達は、というのだ。
「そして約束も破らないな」
「そうですね、絶対に」
「まあ銀月さんが誠実な女神さんってことはわかってたさ」
聡美については既にだった。
「あの人はな」
「そうですね、あの人については」
「誠実な神様ってのは有り難いよ」
中田は笑ってこうも言った。
「中にはそうじゃない神様もいるからな」
「邪神ですか?それか魔神か」
「いや、普通にいい神様でもな」
「嘘を言う神様がいるんですか」
「いるさ、北欧神話なんかそうだろ」
「あっ、そういえば」
上城は中田の言葉で気付いた、彼はその北欧神話の主神であるオーディンのことを思い出したのである。
そして実際にだ、中田にこの神の名前を出した。
「オーディンなんかそうですよね」
「だろ?あの神様謀略は使うしな」
「人を騙すこともしますよね」
「そもそも不和が好きだしな」
オーディンは戦いの神だ、戦いは不和からも起こるからそれを好むのだ。
「そういう神様だからな」
「いい神様でも嘘を言うんですね」
「オペラに出て来ても約束を守らないしな」
「オペラ、ですな」
「ワーグナーのでな」
ニーベルングの指環の中の話だ。この大作のはじまりでオーディン、作中ではヴォータンというがこの神は巨人達との約束を破ろうとするのだ。
「そういう神様もいるんだよ」
「何か人間臭いですね」
「そういう意味でもな」
「そうですよね」
「逆に契約に五月蝿いのは悪魔なんだよ」
今度はキリスト教の話だ。
「天使は怪しいところがあるかも知れないがな」
だが悪魔は、というのだ。
「悪魔は契約、約束は絶対に破らないからな」
「悪魔なのにですか」
「悪魔だからだよ」
中田の今の言葉は逆説だった。上城の今の言葉に対して。
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