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八条学園怪異譚

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第五十二話 商業科の屋上その九

「怨霊もまた、な」
「つまり人間の心は怖いんですね」
「怨みや憎しみというものは」
「そうした感情に心をとらわれている者の顔を思い出すことだ」
 そうすればわかるとだ、日下部は二人に返す。そうした話をしながらそのうえで三人で屋上への階段を昇っていく。
「醜い顔になっているな」
「そうですね、歪んでいて」
「どうしてもそうなりますね」
「怨霊はそれだ」
 そうした感情に心をとらわれている人間だというのだ。
「人間のそうした面なのだ」
「怨みや憎しみにとらわれた」
「そうした人ですか」
「じゃあ生きている人もですね」
「怨霊になりますよね」
「なる、生霊となって出ることもある」
 これは雨月物語でもある、妻の霊は最初生霊、怨念により身体から出たそれとなって出て来る場面があるがそれがまさになのだ。
「よくネットで醜い書き込みをしている輩がいるが」
「差別とか憎しみをですね」
「物凄く書いている人いますよね」
「そうした人はですか」
「もう既にですか」
「怨霊になっている、だが怨念は外に出るだけではない」
 それに留まらないというのだ。
「中にも向かい自分自身をも蝕みやがてはだ」
「やがては?」
「やがてはっていいますと」
「その自分自身を人でなくし破滅させてしまう」
 それが怨念であり怨霊だというのだ。
「魔物にしてしまうのだ」
「ううん、何ていいますか」
「怨みとかって怖いんですね」
「人はどうしてもそうした感情を持ってしまうことがある」
 これも人間だからだ、人にあるものは正の感情だけではない、負の感情もありそれにとらわれる時も生きていればあるのだ。
 だがそれが過ぎるとだ、どうなるかというのだ。
「それにとらわれ過ぎて心が荒むとだ」
「魔物になるんですね」
「やがては」
「そうなる、誰でもな」
 人から魔物になるというのだ。
「最早妖怪でも幽霊でもない、そうなれば」
「魔物ですか」
「もうそれは」
「無論悪魔でも天使でもない」
 今度はキリスト教の話をする日下部だった、海軍将校だっただけにその教養はかなりのものであることが伺える。
「魔物なのだ」
「禍々しい存在になるんですね」
 聖花は日下部の話を聞いてこう解釈した。
「そうですね」
「そういうことだ、だからだ」
「本当に心はですね」
「気をつけないとね」
 愛実は再び話に入った。
「私達もね」
「うん、怨みとかって」
「私も、入学した時聖花ちゃんを妬んでたから」
 愛実にとっては今も反省することだった、その反省から感じることだ。
「あのままいったら」
「私も、愛実ちゃんにね」
 聖花もだったのだ、愛実は気付いていなかったが二人はお互いを妬みもう少しでそれにとらわれるところだったのだ。
 その二人がだ、日下部の後ろでお互いの顔を見て話す。 
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