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久遠の神話

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第七十三話 帯の力その三

「我を倒す程ではない」
「その様だな、今のは本気だったがな」
「生憎だが我も本気だ」
 猪自身もだというのだ。
「手を抜くことは嫌いだ」
「人も全力で倒すか」
「人は神より下だがな」
 それでもだというのだ。
「しかし手を抜けば倒される」
「それか」
「そうだ、だからだ」
 こう言ってそしてだった、再び彼に向かって突進してきた。今度のそれもだった。
 彼は今度は右にかわした、今度はというと。
 またしても闘牛士の要領だったが攻撃の仕方が違った、かわしたその瞬間に首に突きを入れたのである。
 しかしその突きは弾かれた、力を込めた一撃をだ。
 突進はすぐに止まらない、猪は今回も広瀬から離れた場所で止まった。それから振り向いてこう言ったのだった。
「残念だったな」
「今の一撃もか」
「生憎だが我の首は並の猪とは違う」
「皮か」
「それに毛と肉だ」
 その二つもあるというのだ。
「並のものではないからな」
「神の首は断ち切れないか」
「首を落とされた神はいない」
 ギリシアにおいてはそうだ、確かに誰もいない。
「だからだ」
「そうか、首はか」
「戦いでは首を狙うものだ」
 首を断ち切ればそれで死ぬからだ、傷つけても致命傷は確実だ。
 だが猪はアレスの力を受け継いでいる、それでだったのだ。
「我は首を鍛えている」
「それでか、俺の今の攻撃も」
「防げた」
 そうだというのだ。
「この通りな」
「そういうことか」
「言った筈だ、神が人に勝つことはだ」
「無理か」
「そう言った通りだ」
 だからだというのだ。
「貴様に我を倒すことは出来ない」
「そうか」
「ではだ」
 それではとだ、猪は言ってだった。
 再び向かって来た、広瀬はまたかわしざまに攻撃を仕掛けるがやはりそれも効果がなかった。その闘いを見てだった。
 中田は腕を組んだままだ、こう言ったのだった。
「さて、今のところはな」
「あの人がですね」
「ああ、不利だな」
 攻撃が効かない、それではだった。
「首を攻めてもだとな」
「そうですね、しかし」
「しかしか」
「弱点のない者はいません」
「例え神様でもだよな」
「神も倒されます」
 その神の言葉である。
「ですから」
「だからか」
「あの方もです」
 例え今どうであってもだというのだ。
「その弱点さえ見つけられれば」
「勝てるか」
「はい、必ず」
「成程な、しかしな」
「しかしですか」
「ああ、難しいだろ」
 広瀬が勝つこと、それはだというのだ。
「やっぱりな」
「それは確かに」
「だよな、今はああしてかわしてな」
 そしてかわしざまにだ、今もだった。 
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