碁神
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子どもでいて欲しいと願うのは俺のエゴです。
前書き
あまりにも健全な流れできているので、念のため……。
この小説はヤンデレBL小説です。 もともとR18の物をR15に直しています。
私のR指定ものに対する認識は以下の通りです。
健全→性的目的では無いキス、身体の接触。純粋な信愛表現のキス。(異文化における挨拶のキス。恋愛小説における初々しいキス、女の子同士の温泉での軽いスキンシップは健全という認識。)
R15→性的目的を含むキス、身体の接触。(軽めの痴漢被害や、詳細を省いたベッドシーンはR15という認識。)
R18→本番。 またはそれに準ずる行為。(官能小説みたいなのはアウトという認識。)
本作品は男同士でR15指定物になります。
今回の投稿までは健全ですが、次から……というか次は指定物になりますので、苦手な方はご注意ください。
「と、いうことで、これで夏休みに関する話はおしまい! 最後に、国語教師として皆に伝えたいことがある」
今日は一学期最終日。 明日からは待ちに待った夏休みだ!
……ま、教師に休みなんてありませんけどね! 一応土曜だから明日は休みだけど、月曜日からはまた出勤さ……。
「今回の期末テストについてだ。 ……このクラス全員が中間よりも点数が伸びて、みんな、本当によく頑張った。 全員に拍手を送りたい」
笑顔で拍手をすると、何人かの生徒は照れくさそうな笑顔を、また何人かの生徒は嬉しそうな笑顔を見せた。
「ただ、間違えて欲しくないことが一つ。 俺がここで『よく頑張った』と言っているのは、テストで良い点が取れたということだけじゃない。 テストで良い点数を取るためにたくさん努力したこと、その努力を称えているんだ」
「……それって、良い点取れなくても頑張れば良いってこと?」
「でも、点数取れないのは努力してないってことじゃないの?」
俺の言っていることが良く分からないのか、クラスが少しざわつく。
結城がゴホッと咳払いすると、ぴたりと静かになった。
あー俺結城に甘えてるなー。 学級委員様ありがとうございます。
「仮に良い点が取れなかったとしても、解けた問題を見ればみんなが努力したことが良く分かる。 授業を聞いていれば分かる問題、自主勉強もしないと分からない問題、テストにはそういう問題を出すからな。 ちょっと計算してみたんだが、中間テストより延びた点数の平均点は全学年でこのクラスが一番だった」
そう言った途端、数人の子ども達の表情がパッと明るくなった。 狙っていた平均点学年トップを達成できず、足を引っぱったと落ち込んでいた子達だろう。
「テストで高得点を取ることができれば、それは成績に直結し自分自身の武器になる。 しかし、長期的に見て尤もみんなの事を支えてくれるのは、困難に打ち勝つ努力ができるということだと思う。 みんな、本当に良く頑張った! 国語教師として、君達の担任として、凄く嬉しかったよ。 これで先生の話は終わりだ」
「起立! 気をつけ。 礼!」
「「さよーならー!」」
「さようなら。 二学期も全員元気に来るんだぞー」
そう笑顔で言うと、帰りの支度を済ませた生徒がワラワラと集まってくる。
生徒達と話しながらもチラリと福田の方を見ると、松浦が両手を合わせペコペコと頭を下げているのが見えた。
福田は困ったように、しかしほっとしたように笑っている。
良かった、これでもう大丈夫だろう。
「椎名先生」
生徒達と教室を出て下駄箱が近くなった所でまた後ろから呼び止められた。
振り返ると、今度は福田では無く結城がにこやかに笑いながら立っていた。
「あ、それじゃあ椎名センセーバイバーイ!」
「また二学期ねー!」
「結城君もまたねー」
周りを取り囲んでいた生徒達が一斉に離れていく。
結城……もう尊敬を通り越して畏怖されて無いか……?
イジメられそう、なんて福田の考えすぎだと思ったが、そう考えざるを得ない程の何かがあるのだろうか。
まぁ、逆鱗に触れた時暴力的になるところがあるから、そのせいかもしれないが……。
「椎名先生、一学期間ありがとうございました」
「いやこちらこそ、結城には助けられっぱなしで。 ちょっと情け無いけど、結城がいてくれて良かった。 ありがとな」
「学級委員として当然の仕事をしたまでですよ。 ……ところで、さっきの期末の話ですけど――」
感謝の言葉をさらりと流し、結城は優等生然とした笑顔で小首をカクリと傾げた。
「あいつ、チクリました?」
「へ?」
一瞬何を言われているのか分からなかった。
「福田君ですよ。 昨日先生と相談室に入って行くのを見たって、ご親切にも教えてくれた人がいるのですが――」
「……見間違いじゃないか?」
「そうですか?」
綺麗な笑顔を貼り付けたまま、結城は言葉を続ける。
「伸びた点数の平均点が全学年でトップなんていう嘘くさいお話をされたので、てっきり『今回の国語の期末、学年で平均点トップを取ろう』なんていう話になっていたことを福田から聞いたのかと思いました」
「そんな話になっていたのか、初耳だ。 でも、嘘くさいってのは?」
「僕、中間も期末も満点で、一点も伸びてませんから。 ……ああでも、ハルト――松浦も福田君も中間テストが悲劇的点数でしたから、そこでバランス取れたのかもしれませんね」
この間、結城の表情変化無しである。
何か異様な迫力があるし、これは確かに怖いかも……福田の気持ちがちょっと分かったよ!
「伸びた平均点がトップだったのは事実だし、お前も含めて期末は全員よく頑張ったよ。 国語教師としてそのことを伝えたかった。 それだけだ。 今日の話に福田は関係ないよ。 それとも何かチクられるような心当たりがあるのか?」
少しずるい聞き方をすると、結城が微かに表情を変えた――嘲け笑うように。
「別に、したという程のことは何もしてませんよ。 もうご存知だと思いますが。 少しからかわれたくらいで先生に泣きつくとは……彼はもう少し根性を鍛えてあげた方が良いかもしれませんね。 先ほど先生のお話に出てきた、困難に立ち向かう力ってのが足りていないと思いません?」
『福田は関係ない』という言葉を華麗にスルーされた。 これはもう確信を持って話しに来たのだろう。 相談室に入る時、見られていないか確認したつもりだったが……誰だよ結城にチクった奴は!
「――尤も、あの程度のテストで努力も何も無いと思うんですけれどね。 国語に限らずですが」
「うーん……まぁ結城にとってはそうかもしれないな。 でも、結城が一番将来のために努力してるのは分かってるつもりだよ」
「は?」
結城の表情から笑みが薄くなる。
お、何か効果有り?
精一杯の笑顔で、言葉を続けた。
「親御さんに聞いたけど、医者になりたいんだって? 素晴らしい夢じゃないか。 それに、結城の手のペンだこを見れば、毎日どれ程頑張ってるか少しは分かるつもり――」
「――あ?」
ダンッ
不意に肩を掴まれ壁に叩きつけられた。
「っ!?」
至近距離で結城と目が合う。
苛立ちを含んだ強い視線に一瞬息が止まった。
つい視線を外し泳がせると、逃げていく他の生徒が目に入る。
今まで俺達に遭遇した生徒は壁ギリギリを通って早足で歩き去っていたが、とうとう回れ右をして別の階から下駄箱に行くようだ。
なんて、現実逃避してる場合じゃなかった!
もし他の先生に見つかったら、最悪警察沙汰になってしまう。
肩を掴む結城の手をぽんぽんっと軽く叩いてゆっくり声をかけた。
「結城?」
「……椎名先生の、見透かして、垣間見た一面だけで全部分かったような気になって、所詮は子どもと見下すその上から目線、すげームカツク」
「そんな、つもりはっ……」
肩を掴む力が強くなり、思わず顔が歪む。
「ぐっ……結城――」
結城の目を真っ直ぐ見返した。
きっと、今目線を外せば信頼を失うだろう。
「――見下すつもりは、毛程も無いが……お前らはまだ子どもだよ……子どもであって欲しいと思ってる――子どもでいられ無い子どもは、――不幸だ」
結城がふと眉を顰め、手の力が緩む。
その時だった。
「おーーーい! ヒーローーー!!」
遠くから響く大声に、結城の表情から全ての感情が消え去った。
「一緒に帰ろーぜーー!」
結城が俯きブルブルと震え始めた。 声のほうを見遣れば、松浦が満面の笑みでブンブンと手を振りながら駆け寄ってくる。
が、俺と目があった瞬間、片手でシッシッと追い払う素振りをされた。
逃げろということだろう。
「ハルト……貴様――下の名前で呼ぶなと何度言えば分かるんだーーー!!」
俯いたままゆらりと俺から離れた結城は、青筋を浮かべた鬼の形相で松浦の方へ全力疾走して行った。
「ちょ、そんな怒んなくってもっ……いいじゃんかぁああ! かっこいいじゃーーーん!」
松浦も急ブレーキをかけて全力疾走で叫びながら逃げていく。
二人とも足が速いから事故にならないか心配だが、この時ばかりは呼び止める気になれなかった。
松浦春杜……学校のタブーとなりつつある結城の下の名前を執拗に呼ぼうとし続ける勇者であり、彼の親友である。
ありがとう、松浦――お前の犠牲は忘れない……。
● ○ ●
「――と、いうわけで! 今日ばかりは無礼講! 飲んで騒いで、日頃の疲れを忘れましょう! カンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
俺は今、学校の最寄り駅の隣駅から徒歩一分の居酒屋にいる。
一学期終了に合わせて前々から企画されていた、職場のお疲れ様会……つまり飲み会に参加しているのだ。
俺は飲めないが、やはりこういう親睦会には参加しないと、職場の人間関係に響くからな。
注文したウーロン茶をチビチビ飲んでいると英語の吉岡先生が腕を絡ませてきた。
「椎名セーンセ? 何飲んでるんですかぁ?」
「っ! う、ウーロン茶です」
ちょ、胸当たってる当たってる!
吉岡先生は新任の先生だが、アメリカに留学していた時期が長いためか非常に積極的、行動的で俺にもフレンドリーに接してくれる先生だ。
職場では数少ない女性の先生でもある。
「ええ? 何ソフトドリンク飲んじゃってるんですかっ! やっぱ飲み会はお酒飲んで何ぼでしょう!」
「ええーと、わ!?」
反対側からグイッと腕を引かれ、隣の人に倒れこむ。
ガッシリとした体格を背中に感じ、慌てて見上げれば山口先生だった。
体育の先生だけあって鍛えてるのは分かるが、あっさり全体重を受け止められてしまうのは同じ男として少々複雑である。
「吉岡先生、椎名先生はお酒飲めないんですよ。 前回の飲み会で、うっかり一口飲んじゃって大惨事になったでしょう」
「……そういえばそうでしたねー」
「はは……すみません」
そう、俺はアルコールが全く駄目なのだ。
付き合い程度にでも飲めれば良かったのだが、一口飲んだだけで記憶が飛んでしまい、記憶を無くした時のことを聞いても、時には青い顔で、時には赤い顔で『知らない方が良い』と言われ誰も教えてくれない。
ただ、『大惨事』とだけ言われるので、よほど酷いのだろう。
「椎名先生がウーロン茶なら、私も次はウーロンハイにしますかねぇ」
「あっ!それじゃあ私もっ!」
ニコニコしながらお酒を一気飲みしてウーロンハイを頼む山口先生と吉岡先生にちょっと引いた。 見てるだけで酔ってしまいそうだ。
それからお酒でどんどんテンションが上がっていく吉岡先生に色々話しかけられるが、さっきの結城のことが気になってなかなか気分が盛り上がらない。
とは言え、暗い顔をしていたら酒の席に水を差してしまう。
そう思ってなんとか笑顔を作って話を聞いていたが、流石に疲れてきた。
「すみません、ちょっとお手洗いに」
「はーい、いってらっしゃーい」
ヒラヒラと手を振って見送ってくれる吉岡先生を尻目に、席を立ち上がり、トイレへ向かった。
「ふぅー……」
ドンチャン騒ぎから離れて、静かな曲の流れるトイレの便座に座り、やっと一息つく事ができた。
必然的に、意識を結城のことが占めていく。
俺の言葉が結城を確かに傷つけてしまった。 俺はそれを謝らなくてはならないが、あいにく明日から夏休み。 次に合うのは二学期だ。
せっかく新しい気分で臨む二学期に一学期の問題を引きずり込んだら迷惑になるだろう。
……そう考えると謝るタイミングは無さそうだなぁ。
コンコンッ
トイレのドアをノックされハッとする。
いつまでもトイレに篭っていたら迷惑になる。
……何か気分転換のつもりが余計暗い気持ちになったが仕方が無い。
手を洗って、外で待っていた人に頭を下げて、鬱々とした気分で席に戻った。
「おかえりなさーい」と迎えてくれる吉岡先生に「戻りました」と微笑みかけて、飲みかけのウーロン茶を手にとり一気に飲む。
って、あれ? 何か味が違うような――
頭がクラリとし、視界がぐにゃぐにゃと歪み意識が遠のく。
遠くで山口先生の「あっ、椎名先生、それ私のウーロンハイ――」という声が聞こえたような気がした。
立っているのか座っているのか、どっちが上なのか下なのかも分からなくなり、身体から力が抜ける。
一瞬、目の前がブラックアウトして――
――……ふと、気づいたら、『僕』は学校の教室にいた。
後書き
松浦春杜君と結城主人公君のその後――
結城「だぁああっ捕まえたぞこの運動馬鹿がぁああ」
松浦「ごふぁああっ」
結城に頭を掴まれ地面に叩きつけられる松浦。
しかし、こりた様子も無く「いててっ」と言いながらすぐに身体を起こす。
結城「はぁっ、はぁっ……くっ、無駄に頑丈な奴め……!」
松浦「うぐぐ……そんな怒らなくていいじゃんか! 良い名前だと思うんだけどなー」
結城「ハッ! じゃあお前の名前と交換してやろうか?」
松浦「マジで!?」
心の底から嬉しそうに目を輝かす松浦に、結城は諦めたように息を吐いた。
捕まえるのに疲れすぎて、怒りはもう霧散してしまった。
そんな結城を見て松浦は、彼にしては珍しく言葉を選びながら口を開く。
松浦「てかさぁ、あんま、椎名センセー虐めるなよな? 良い先生じゃん?」
結城「あぁ?」
松浦「ユウキだって本当は好きなくせに。 他の先公には反抗的な態度とらないじゃん、なぁ? ユウキ様?」
結城「……ま、椎名先生は教え方上手いからな。 そこだけは評価してる」
松浦「はい出ましたツンデレー! 素直じゃない奴!」
結城「煩い!」
松浦「ごふぁっ!?」
再び地面に叩きつけられる松浦。
何だかんだ言って仲の良い二人であった。
◆
なんだか今日、アクセス数多いなぁ……と思ったら日間ランキング4位になってました……!
今後読む人を選ぶ作品になっていくので、もうランキングに上がれることは無いと思いますが……嬉しいですっ! ありがとうございました!!
最初で最後かもしれないこの小説のランキングに載った瞬間を見逃さなくて良かったです。
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