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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第六八幕 「初めての師匠は意外と初心でした」

前回のあらすじ:Summer Devil

それはツーマンセルトーナメントでユウに大敗を喫し、気絶状態から目が覚めてからのこと。
癒子は悔しかった。自分に専用機持ちになるほどのずば抜けた才能は無い。容姿もモデルになれるほどかといえばちょっと首を傾げる。ISの腕だって友達とどっこいどっこいだ。でもそれでいいと今まで思っていた。楽しければいい。人生は楽しんでこそ価値があるから、無理に優劣にこだわる必要なんてない。だから相手に負けても「負けちゃった」の一言で笑って済ませられる自信があった。

でも、それは間違いだった。癒子はユウと鈴に圧倒的とも言える差を見せつけられ、負けた。15年ほどの人生の中で、考えうる限り最も無様な敗北だった。技量が違った。機体性能が違った。発想のスケールが違った。違うものは沢山あげられるが、なによりもその差に愕然としたのが、心の差である。
保健室のモニターには満身創痍になりながらも食らいつくユウと風花が映し出されていた。

自分はこの戦法を必ず成功させられるという自分の技量に対する絶対の信頼。この戦いは絶対に勝つという揺るぎない意志。勝敗ではなく、“勝つ”というたった一つの方向に全てを懸ける覚悟。癒子の目に映ったユウはどうしようもなく心が強かった。
それまで癒子は、例え表立った存在になれずとも人生を楽しめればそのほうがいいと考えていた。戦いや勉学にひたすら明け暮れるよりは適度に気を抜いているほうが心に余裕ができると。それが賢くてたくましい生き方だと思っていた。

違った。それは何に対しても適当な所で諦めているというだけで、ただ逃げているだけだ。自分の楽しい事にばかり目を向けて現実を見ようとしないのと同じことだ。だから悔しかった。自分は結局どうせ勝てない、どうせなれないと自分に言い訳して楽な道を選んでいただけだろうと。
それは、人としてはしょうがない事なのだろう。誰だって辛い事や面倒なことは御免被りたいものだ。しかし癒子が感じたのはそうではない。諦めていた自分を自覚してしまったことによって、心に今まで消えかけていた自己嫌悪の感情が爆発した。

―――悔しい!どうして私はこんなに弱いの!?どうしてユウ君みたいに全力になれないの!?
―――心に余裕がある!?バッカじゃないの!?中身がスカスカなだけじゃないの!!
―――そんな張りぼての心で私は今まで何に満足してたって言うの!!

このままでは自分は駄目だ。ただ社会を惰性に生きる負け犬だ。



「それで、何か自分が情けなくなって・・・変わりたいなーと思った結果・・・」
「僕に弟子入り?」
「うん」
「鈴は?」
「正直師匠の印象が強すぎて・・・隣のクラスだから移動大変だし」
(ちょこっと本音漏れたぞ!?)

やっぱり同級生に敬語はきつかったのか、話が終わった頃には癒子は普段の喋り方に戻っていた。最初からそうしてればよかったのに、とも思ったが形から入りたかったのかもしれない。しかし、単純にISの技術を教えるのならば他にも適任がいる。肉体も然りだ。人にものを教えられるほど卓越した実力を持っていないユウにとって、弟子というのは現実味が湧かなかった。

「僕なんてまだまだ未熟者だし、強くなりたいんならそれこそ箒ちゃんやセシリアさんに頼めばいいんじゃないかな?シャルや兄さんもきっと相談に乗れば・・・」
「そういう問題じゃないんだってば。いい、師匠?女の子にとって“初めて”って言うのは大切なの。例えばセシリアさんだってもしも最初の勝負で師匠に負けてたら今の師匠との関係は変わってたかもしれない。そのまま恋仲なんてこともひょっとしたらあったかもしれない。“初めて”はその人にとってはなによりも大きな割合を占める“きっかけ”なの」
「・・・やっぱりわからないよ。RPGで性能が悪くてもお気に入りの剣をずっと持ち続けてるようなもの?」
「また合ってるような違うような例えを・・・」

そう言う事ならば少しわかるような気がする。ユウも「テイル・オブ・グレイセフ」というアクションRPGで中盤に手に入れた武器をデザインが気に入っているからとラストまで持っていた経験がある。あの剣は未だにユウの中では運命の出会いに近い感情を抱いたものだ。
しかしその例えは彼女からしたら些か情趣に欠ける例えだったようで不満そうな顔をされた。そこでふと気づく。

―――距離近くない?

先ほどまで彼女の正気を取り戻させるために試行錯誤をしていたから意識していなかったが、2人の距離はもう少しで肩が触れそうな近さだ。女性にあまり免疫がないユウとしてはこの距離は結構近い。あまり女の子が近くにいると恥ずかしくて萎縮してしまうため少し距離を開けた。
・・・開けた分の距離をすぐさま詰められた。同級生の女の子に積極的に近寄られると流石に変な勘違いをしてしまいそうになる。何せ癒子も容姿は十分美少女と言える部類に入るのだ。鈍感超人の一夏とは違ってユウはそこまで女の子に近寄られて動揺を微塵も見せないでいられない。・・・本人も気付いていない事だが、少々遅れてきた思春期である。
自分でも良く分からない緊張に戸惑いつつ再び距離を開け、すぐさま詰められる。

「逃げないでよ師匠~」
「逃げてないよ。その、あんまり近づかれると何か嫌じゃん、ね?」
「弟子になればもっと近づくことになるんだから慣れてよね!」
「癒子ちゃんの中では僕が師匠になるのが決定事項なのかな!?」

じりじりと後ろに下がった分だけ距離を詰められ、いつの間には後ろには壁が立ちはだかっていた。気が付けば何故か自分が自称弟子に追い詰められている謎の状況。

実際の所、癒子はユウが恥ずかしがっていることを承知の上で無慈悲にも近づいていた。そう、これも作戦の内だったのだ。ユウが闘いの場以外では割とシャイであることを知った上で落とそうとしている辺り、結構外道である。
いくらなんでも実力行使で排除する訳にはいかないが、かといって弟子入りを受け入れるのも抵抗がある。クラスの女の子を弟子にとって教え込むって色んな意味でハードルが高い。こんな時だけはあの鬱陶しい兄の助力も借りたくな―――


「待てぇい!!」

「「!?」」


デェーン・・・デェーン・・・デェーン・・・デェーン・・・


何処からか流れてくる物憂げなギターの音と共に、2人のいた自販機前の休憩スペース・・・その自販機の上に人が現れた。この明るい環境なのだから顔くらい見えそうなものだが、不思議なことに何故か逆光で見えない。リアクションに困っているとその人影が無駄によく通る声で口を開く。

パラパラパパパラパラパパパラリラパ~♪

―――草原を渡る風は自分がどこで生まれたかは知らん


パラパラパパパラパラパパパラリラパ~♪

―――だが風は誰にも束縛されず支配されない


パパパラリララ~・・・

―――人、それを「自由」という!


「誰だ貴様はー!?」
「ええ!?ツッコまずに乗るの!?」
「貴様に名乗る名は無いッ!!」
「そっちもノリノリかいッ!!」

謎のラッパとギターが鳴り終わると同時にその人影は自販機から飛び降り、その姿を現した。

「闇ある所、光あり・・・(ユウ)ある所、(オレ)あり!天空の使者、夏黄櫨(なつはぜ)参上!!」

ドォーーーーン!!

「・・・ってやっぱりジョウさんじゃないですか!」
「あ、ボクもいるよ~」

自販機の後ろから骨董品レベルのカセットレコーダーを持ったシャルまで現れた。あれでさっきの無駄に渋いBGMを流していたのか・・・なんという無駄な演出を用意しているんだか。逆光で顔が見えなかったのは夏黄櫨の展開による光だったようだ。世界一無駄なISの使い方をしている兄に頭を抱える一方、ようやく癒子の注意がそれて「自由」を手に入れたユウはほっと息を突く。

「ちなみに前口上を考えたのは簪ちゃんで曲のセレクトは一夏ね?」
「意外に協力者多いですね!?」
「さて・・・谷本癒子!本題に入ろうではないか・・・」
「あっ、はい」

既に無駄に展開していた夏黄櫨を量子化させたジョウがソファに座って圧迫面接さながらに癒子を()め付けている。緊張した面持ちながら目は逸らさない彼女は偉いと思う。それにしてもこの先どう云った展開なのか全く読めないな、とユウは固唾をのんで二人の様子を見守る。

「ところで兄はいつからこっちに?」
「5分くらい前にそろそろ行くって言い出したから、もっと前からこの状況になることは感づいてたんじゃないかな?」
「ご迷惑をおかけしてすいません・・・」
「いいよいいよ、僕も暇だったし」

シャル、君は天使だ。日常的にあの阿呆兄と友達をしているなん聖人君子でも難しいだろうに、と失礼大爆発なことを考える。まぁそのシャルもこの前は暴走していたが。やはり完璧な人間などいないのだろうとユウは一人納得する。

「君は、自分磨きのためにユウに弟子入りしたい。しかしユウはまだまだ修業中の身・・・本人が言う様に人にものを教えられるほどの腕前ではない」
「そこをなんとか!お願いします!」
「・・・ふむ。ならばこうしよう。俺達兄弟は朝早くから体力作りや組手に取り組んでいる。それに参加してみたらどうだ?」
「朝練ですか?」
「うむ。ラウラや鈴音も参加しているからそれなりにハードだが、人数が多い分仲間内で切磋琢磨し合える。悪くないだろう?最近は佐藤の奴も顔を見せるしな」
(・・・しまった!?その手があったじゃないかぁぁぁーーーー!!)

ユウは自分がどれだけ詰め寄られて焦っていたかを思い知った。確かに朝練ならば弟子入りとまではいかずともある程度指示を与えて誘導することは出来る。その辺りで手を打てばよかったのに、自分は何をあそこまで悩んでいたんだ。落ち込んでいると横のシャルにくすくすと笑われてさらに落ち込んだ。
煩悩退散失敗。身も心も精進が足りない。

(一夏が羨ましい・・・!どんなに女の子に近寄られても平気な顔してるあいつが羨ましい・・・!!)

それがいい事かどうかは別として、だが。
ユウはまだ知らない、これが終わりではなく始まりだということを。この日を境に癒子はユウの弟子というポジションを狙って幾度となくユウに接触してくることを。そしてそんな癒子のほんのちょっぴり恋心の混じった接近によって自身の人間関係がさらに混迷することを・・・
 
 

 
後書き
恋愛感情?ちょっとだけあるみたいです。あわよくば、みたいな希望的観測に近いですけど。 
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