戦国異伝
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第百四十九話 森の奮戦その十五
その話をしてだった。森はあらためて言うのだった。
「あの者達は何でありましょう」
「わかりませぬ、しかしです」
「普通の門徒共ではありませんな」
「どうやら」
このことはわかるのだった、そして長政も言う。
「あの者達は本願寺に雇われているのでは」
「傭兵ですか」
「そうではないかとも思うのですが」
「そういえば伊勢にも出たそうですし」
「殿の文にもありましたな」
「確かに」
森のところにも文は届いていた、それで長政も森も伊勢のことは知っているのだ。信長はそこで妙にしぶとく強い者達と戦ったのだ。
それでだ、今近江のこの城で二人で話すのだ。
「伊勢にも近江にもいるとなると」
「雇われ者でしょうか」
「その可能性はありますな」
「ですな」
こう話すのだった、そしてだった。
長政は眉をぴくりと動かしてだ、こう森に述べた。
「若しや」
「若しやとは」
「はい、忍の者を思わせる動きをしていました」
今言うのはこのことからだった。
「このことを考えますと」
「忍の者ですか」
「そうではないでしょうか」
こう森に己の見立てを話すのだった。
「そうも思いますが」
「確かに、その可能性はありますな」
「忍の者を雇うことも考えられますな」
「ですな、ですが」
それでもだった、ここでさらに言われるのだった。今度は森が言う。
「その忍の者の出処は」
「甲賀はありますまい」
真っ先にだ、長政はこの者達はないとした。それは何故かというと。
「甲賀者は皆織田家に従っておりまする」
「ですな、久助殿に従い」
滝川は今や甲賀衆の棟梁とも言っていい、甲賀には上忍はおらず五十三の中忍の家がそれぞれ下忍達を束ねているが滝川はその中忍達を従えているのだ。
そして甲賀者達は信長に仕えている、だからなのだ。
「それはありませんな」
「伊勢にも近江にも人と出せる忍の家となると甲賀か」
「伊賀ですな」
「では伊賀者達は」
「伊賀者ならばです」
今度は彼等の話になる、長政が話す彼等は。
「徳川殿の下に服部殿がおられます」
「あの方が伊賀の棟梁のお一人ですな」
「そうです、しかし伊賀の棟梁は一人ではありませぬ」
「確か」
「はい、百地三太夫という者がいます」
ここでこの名前が出た。
「齢幾つかもわからぬ者ですが」
「そういえば聞いたことがあります」
ここで森もこう応える。
「得体の知れぬ、妖術さえ使うという」
「伊賀は実質この二人の棟梁がおります」
半蔵とその百地だというのだ。
「そして百地の下に三人の上忍がおります」
「三人ですか」
「石川五右衛門、楯岡道順、音羽の城戸」
この三人の名前が挙げられる。
「百地の配下の上忍三人です」
「確かその三人は」
「与三殿もご存知ですな」
「どの者も凄腕とか」
「そうです、まるで普通の者とは思えぬまでに」
そこまでの域に達しているというのだ、それがその三人だというのだ。
「恐ろしい忍術を使うそうです」
「そしてその三人の上にいる百地という者もですか」
「妖術も使い」
まずだ、百地はこの術を使うというのだ。
「さながら果心居士の如きとか」
「あの伝説の忍と」
「そう聞いています」
そうだというのだ、百地はそこまでの人物だというのだ。
その話をしてからだ、長政は森にあらためて言った。
「では」
「はい、明日になれば朽木殿も来られますし」
「義兄上も」
「ですな、殿も来られますから」
助かる、このことを実感するのだった。
そうしてだ、長政は森に確かな顔で述べた。
「さて、あらためて戦いましょう」
「生きる為に」
森も確かな顔で応える、敵は今も攻めてくるがそれでもだった。彼等は虎口を脱したことを喜び合いあらためて戦いに向かうのだった。
第百四十九話 完
2013・8・20
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