Element Magic Trinity
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やさしい言葉
悪魔と化したミラの蹴りが、フリードの腹に決まる。
「ぐほぁっ!」
その拍子にサーベルが手を離れ、宙を舞った。
更にミラは右拳を叩き込む。
「どぅあっ!くっ!」
ミラから距離を取ろうとエルフマンとアルカのいる石橋の下を凄まじい速さで飛び駆ける。
それを確認したミラも背中から生やした悪魔の翼を使い、飛んだ。
「禁じ手だが仕方あるまい」
一気に距離を詰められたフリードは呟き、くるりと体の向きを変えてミラに向き合う。
「魔には魔をもって制す。闇の文字・・・」
サーベルがない為左手の人差し指と中指を立て、胸辺りに文字を描く。
そして文字を描き終えたと同時に――――――
「暗黒!」
緑色の髪が逆立ち、上半身は人間ではない異形へと変わり、翼はそのままに耳の上あたりから角を2本生やした『異形』。
フリードもまた、ミラのように悪魔のような姿へと変貌した。
「!」
その瞬間、向かってきたミラの左拳とフリードの左拳がぶつかり合う。
そこからは一進一退の攻撃が続いた。
フリードの拳がミラの顔面に当たったかと思えば、ミラの膝蹴りがフリードの顎に決まる。
空中での攻防戦。それは長く続き、2人は地面から遠く離れた上空まで飛んでいた。
「っ!」
そして一進一退攻防戦は終わりを告げる。
フリードがミラの背後に回り、その太い尻尾をがしっと掴むと――――――――
「つあっ!」
勢いを付けるかのように放たれた声と共に回転し、ミラの尻尾を離した。
回転の勢いがついたまま、ミラはそのまま真っ直ぐに足元にあった川に落ちる。
「ミラ!」
ゴロンと体をうつ伏せにし、2人の戦いを見ていたアルカが川に落ちたミラを見て叫ぶ。
・・・が、すぐさまその心配そうな表情は崩れ、笑みが広がった。
それを見たアルカは呟く。
「流石魔人」
川が突如渦を巻く。
台風のように渦を巻き始める。
その中心、台風の目にいるのは――――――ミラ。
両腕に水を纏い、川の水を一滴も残さないかのように水を巻き込み、回転する。
(川の水を纏って・・・!?どれだけの魔力なんだ!?)
その光景にフリードは目を見開く。
川の水を一滴たりとも残さず支配するとなれば、かなりの量の魔力を必要とするのだ。
ミラは真っ直ぐに空を飛ぶフリードを睨みつけ、右側で両手を合わせると――――――
「ぐはァァ!」
その両掌を空に向け、両腕を伸ばし、凄まじい速さで回転する水の竜巻を空に向かって放った。
その中心にいたフリードは容赦なく巻き込まれる。
「ごああっ!」
容赦のない攻撃に目を回すフリードとの距離を一気に詰め、ミラは飛ぶ勢いをつけたままこちらも容赦なく頭突きを決める。
「・・・!」
水の竜巻と頭突きの連続攻撃にバランスを崩した状態で宙に止まるフリード。
その前に飛ぶミラは右手を下に左手を上に構え、その両掌の間にバキバキと音を響かせながら魔力の球を生み出す。
「―――――――」
ミラは無言で魔力を球を造り出す。
フリードの顔がその魔力に、攻撃に引きつる。
鋭い眼光でフリードを睨み、フリードの顔が恐怖に染まり始め、そして―――――
――――――――その魔力の球は、フリードを包み込んだ。
―――――――その圧倒的な魔力と光で、フリードは見えなくなる。
「!」
マグノリアの街のとある場所。
突如空に現れた光と煙に、エルザは足を止め呟いた。
「ミラ?」
妖精の尻尾のギルド。
ナツとガジルが戦場へと向かい、レビィとヴィーテルシア、怪我をしているビスカとクロス、倒れたマカロフの残るギルドに彼ら同様に残るティアは、小さく背筋を震わせた。
「何・・・この魔力・・・」
背筋が震え凍り、鳥肌が立つ。
滅多に恐怖を覚えない氷の女王は自分を落ち着かせるように息を吐いた。
微量の恐怖を覚える魔力にティアは2階から窓の外を見た。
そして、煙を見つめ気づく。
「魔人ミラジェーン・・・復活したの?」
ドッとフリードは地に落ちる。
瓦礫や煙と共に落ちたフリードは、悪魔のような姿ではなくなっていた。
「ひっ!」
その前に降り立つのは、本物の悪魔。
紙を逆立て尻尾を生やし、耳をエルフのように尖らせ、両腕の肘から下を異形へと変えた魔人。
その魔人は真っ直ぐにフリードへと飛びかかる。
(か・・・勝てる訳が無い!これが魔人の真の力!)
圧倒的な魔力や力は、フリードを恐怖に染めるに十分だった。
ミラは左手でフリードの服の首辺りを掴み、馬乗りになる。
(こ・・・殺される!)
その表情に、その魔力に、その気迫に、フリードは恐怖する。
そしてミラは右拳を振り上げ、フリードに向かって振り下ろし―――――――――――
―――――――――――――動きを、止めた。
その拳は、ピタッと動きを止める。
あと少し動かせばフリードの鼻先に当たるという距離で。
「―――――――」
フリードは目を見開き、ミラは俯く。
ミラの脳裏に、額から血を流しながらも姉を安心させようと微笑むリサーナの姿が浮かんだ。
―――――――そして魔人は、天然看板娘へと姿を変える。
銀髪が揺れ、色素の薄い青い目が伏せられ、その握りしめた拳が解かれる。
「・・・え?」
突然の接収解除に目を丸くするフリード。
「こんな戦い・・・むなしいわね」
「勝者の驕りか、ミラジェーン・・・」
馬乗りのままゆっくりと口を開くミラ。
それに対し、フリードは震えながらも言葉を紡ぐ。
「とどめをさせ・・・」
が、ミラは2度と攻撃をしなかった。
とどめをさす事はもちろん、軽くデコピンする事さえも。
「私達は仲間よ・・・同じギルドの仲間・・・一緒に笑って、一緒に騒いで・・・一緒に歩いて・・・」
目を伏せ、どこか儚さを感じさせる笑みを浮かべるミラ。
「う・・・うるさい!俺の仲間はラクサス1人だ!」
それに対し、フリードは叫ぶ。
が、ミラは優しさで溢れた言葉を紡ぎ続ける。
「1人じゃないでしょ?あなたはとっくに気づいてるわ」
その言葉に、フリードの目が見開かれる。
それと同時に、ギルドのメンバーとの様々な会話が浮かんだ。
『フリード、ファンタジアの準備手伝ってくれよ』
そう言って笑うアルザック、ビスカ、レビィ、ジェット、ドロイ。
『あのさ・・・絵のモデルになってくれない?お前、顔立ちいいし』
『それ僕もいいと思う!ねっ、お願い!』
スケッチブックと絵筆を持ったリーダスと、その近くに座って会話を聞いていたルー。
『フリード、たまには一緒に飲もうか』
『滅多に会話する事が無いからな。たまにはどうだ?』
ジョッキを片手に笑みを浮かべるカナ、マカオ、ワカバ、ヒルダ。
『勝負すっか、フリード!』
『いーや、最初は俺だァ!』
『オイお前ら待て。俺だって勝負すっぞ!』
『アルカ君まで・・・』
勝負する気満々のナツとスバルとアルカ、呆れたように微笑むサルディア。
『なかなかの腕だな。それならS級でも通用する。私からマスターに言っておこうか』
凛々しく微笑むエルザ。
『ジャスティーン。同じ剣を使う者同士、たまには一緒に仕事にでも行かないか?』
磨いていた剣を置き、近くにあった依頼書を片手に持って微笑むクロス。
『丁度いい所にいたわ、フリード。暇そうだし、資料室の片づけ手伝いなさいな』
変わらない無表情でその両手に多くの本を抱えるティア。
『ラクサスがバカやらんように頼んだぞい、フリード』
煙を拭きながら呟くマカロフ。
「1人の人物に依存する事の全てを悪とは思わないけど、あなたの周りにはたくさんの人がいる。人と人はいつでも繋がっている」
沢山の人、様々な会話。
それはラクサスや雷神衆のメンバーだけじゃない、他の沢山の人とのもの。
フリードは小刻みに震え、目を見開いた。
「ほら。手を伸ばせばこんなに近くに・・・」
震えるフリードの左手を、ミラは優しく両手で包む。
先ほどの恐怖と力に溢れた魔力の球とは明らかに違う、暖かさと優しさがフリードを包み込んだ。
「1人が寂しいと気づいた時、人は優しくなれるの」
そう呟くミラの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「あなたはそれに気付いてる」
包み込まれた左手。
そこに目を向け、フリードの体が震え、その見開かれた目が潤み始め――――――
―――――――――ボロボロと、涙を零した。
「うぐ・・・うぅ・・・」
右手で目を覆い、涙を流すフリード。
「こんな事・・・したくなかっ・・・た・・・んだ・・・」
「うん・・・わかってるよ」
涙声で言葉を紡ぐフリードに、ミラは微笑む。
その笑顔は先ほどまでの悪魔を全て消し去るような、優しい笑顔だった。
「来年こそは一緒に収穫祭を楽しもっ」
銀髪を揺らし、微笑むミラ。
「・・・」
「かなわないねぇ」
「やっぱスゲェや、ミラは」
それを見ていたカナ、ジュビアを抱えたエルフマン、アルカはそれぞれミラの力とはまた別の凄さを思い知ったのだった。
「うん・・・えぐ・・・」
【フリードVSミラジェーン】
【共に戦意喪失】
雷神衆は全員倒れた。
火竜と鉄竜、女騎士と蛇そして最強候補。
この5人が向かう先にいるのは、ただ1人。
バトル・オブ・フェアリーテイル。
―――――――残るはラクサス、ただ1人。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
何か・・・フリードの相手はミラちゃんでよかったな、としみじみ思いました。
「仲間はラクサスだけだ」って言い張るフリードに鋭く冷たいティアはあいませんね。
「あらそう。ならそう思い込んでなさい」でおしまいだ。
百鬼憑乱の件、追記。
変わる可能性がある箇所
・カロンの過去(これはヘタだったんで書き直したい)
感想・批評・ミスコン投票・百鬼憑乱ご意見、お待ちしてます。
もうBOF編中盤も終わりに差し掛かっている・・・早いな。
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