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DOGSvsCATS

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第四章


第四章

 それで中に入ると。まずはマスターが笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい」
「ああ、やって来たぜ」
 俺が笑顔でマスターに応えた。
「今終わったところだ」
「それでどうなったんだい?」
「顔見てわかるだろ」
 また笑顔で言ってやった。
「勝ったぜ。楽勝だ」
「楽勝か」
「そうさ。ちょっと怪我した位さ」
 今度はこう言ってやった。
「ちょっとだけな」
「ちょっとかい」
「向こうは何十人もいて全員ボコボコだぜ」
「その通りさ」
 俺の言葉に続いて仲間達もマスターに言ってきた。七人でカウンターの席に着いてそこでまた話す。丁度そこでバーボンが入ったカップが出された。
「俺達はそれに比べたらこの通り」
「掠り傷だけさ」
「そういえばそれ位だね」
 マスターは俺達の傷を見て目を少ししばたかせた。
「見事なものだよ」
「そういうことさ。奴等全員ふらふらさ」
「そこまでやったのかい」
「ああ、舐めるなってんだ」
「猫風情がな」
「じゃああれかい」
 マスターは俺達の強気の言葉を聞いてまた言った。
「これでこの街はあんた達のシマになったのかい?」
「いや、それがな」
「ちょっとな」
 俺達はここでどうにも苦い顔になった。そうなったのはバーボンのせいだけじゃなかった。バーボンの苦さとは違った苦さのせいでだ。
「奴等も存外しぶとくてな」
「全員捨て台詞置いて逃げ去りやがったよ」
「おやおや、じゃあ再戦ってわけか」
「そうなるな」
「残念だけれどな」
 苦笑いと一緒にバーボンをあおってマスターに答えた。
「やれやれだよ」
「どうにもこうにも」
「そうそう上手くはいかないってことか」
「ああ、その通り」
「猫共もしぶといぜ」
 本当に今度こそと思ったがこんな終わりだった。映画みたいに格好よくはいかなかった。
「また当分賑やかなのが続くぜ」
「けれどな。今度こそ」
「勝つっていうんだね」
「その通りさ。ああ、バーボン」
 マスターに答えるのと同時にここでバーボンをまず飲み干しちまった。
「もう一杯な」
「おいおい、もう一杯飲んだのか」
「今日はパーティーなんだろ?だったらいいよな」
「また飲むってことか」
「ああ、そうさ」
 笑って答えてやった。
「勝ったんだからな」
「そうだったね。約束だったし」
「どんどんやるぜ」
「こっちとしてはやれやれだよ」 
 マスターはここで両手を腰にやって呆れたような笑顔を俺に向けてきた。
「これでこのパーティーも終わりかって思ったんだけれどね」
「悪いな、けれど今度こそな」
「勝つっていうのかい?」
「だから何度も言ってるだろ?」
 早速出されてきたバーボンを受け取りながらマスターに答えた。
「犬が猫に負ける筈ないってな」
「そうだといいがね」
「絶対そうさ。それじゃあな」
「まあ、勝ったらまた来るんだね」
 今度はバーボンのボトルをまとめて何本も俺達の前に出してきた。ついでにつまみでナッツもどかんと籠に入れてた。しかもチーズまで出してくれている。
「こうやって奢ってやるからな」
「流石だね、マスター」
「そうこなくっちゃ」
「情報役に立ったみたいだな」
 店の扉の方から声が聞こえてきた。
「いや、何よりだよ」
「あんたのおかげさ」
 声の方に顔を向けて不敵な声で返してやった。
「それもこれもな」
「そうかい。じゃあ俺もいいかな」
 イタチだった。楽しげに笑いながら俺達のところに来る。
「入れてもらってな」
「あのバーボンはまだ手をつけてないのかよ」
「待ってたんだよ」
 こう俺に返しながらカウンターに来た。
「ずっとな。あんた達が来るのをな」
「随分と律儀だな」
「俺らしいだろ」
「いや、全然」
 イタチの今の言葉には首を横に振って笑ってやった。
「全くな。そうは思わないさ」
「随分と冷たいね、また」
「冷たくなんかねえさ」
 ここでは笑顔になった。
「わかってるんだよ、あんたのことをな」
「そうなのかよ」
「それでだ」
 イタチに対して尋ねた。
「あんたもまた忙しくなるぜ」
「ああ。キャッツの奴等は生き残ったらしいな」
「野良猫も案外しぶといぜ」
 俺はバーボンをやりながら言った。
「また随分とな」
「喧嘩は当分続くってわけか」
「そういうことさ。それじゃあその時はまたな」
「ああ、頼まれてやるぜ」
「わかったらほら」
「あんたもよ」
 仲間達はイタチを取り囲んできた。
「飲めよ、ほら」
「どんどんな」
「へへへ、悪いな」
「じゃあマスター」
 俺がマスターにまた声をかけた。
「悪いが朝まで延長だ。それでいいな」
「ああいいさ、好きなだけやりな」
 マスターが笑顔で返してくれてこれで決まりだった。俺達はそのままとことんまで飲んだ。喧嘩に勝ったらいつもこうだった。野良犬共の下らない、けれど楽しい喧嘩の後のパーティーだった。


DOGSvsCATS   完


                 2008・10・1
 
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