パンデミック
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第四十四話「過去編・最初の突然変異種」
ーーー【日本支部周辺・スクランブル交差点】
救援に来た本部の兵士達が、4人1組で行動を始めてから5分が経った。
街の至るところで戦闘が始まり、既に感染者に追いつかれ喰われた兵士が出始めた。
ブランクとフィリップは、行動を開始してから一度も立ち止まらずに走り続けた。
その道中で、ブランクは遭遇した感染者に飛び膝蹴りで撃退した。
「ハァ、ハァ、ハァ…………フィリップ、大丈夫か?」
走りながら、ブランクはフィリップを気遣った。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ………あぁ、大丈夫だ」
「そうか………よし、あいつらは追って来なくなったな……少し休むか………」
先ほどまで背後に迫っていた感染者の姿が見えなくなっている。
振り切ったようだ。2人はそれを確認し、ようやく立ち止まりビルの裏に入って休憩した。
ブランク、フィリップ含む本部の兵士達の活躍によって、日本支部周辺に群がっていた感染者の数は
急激に減少した。群がっていた大半は、本部の兵士を喰うために移動した。
感染者が減少した今なら、日本支部の防衛は不可能ではなくなる。
不可能ではなくなるはずだった……………
「なんとか感染者を日本支部から遠ざけられたな……」
横転した車の影で、ヴェールマンが感染者の様子を伺っていた。
「そうですね……これで少しは日本支部も持ち直すでしょうか?」
タガートがヴェールマンに問いかけた。
「持ち直すさ。日本支部の兵士達はそんなに弱くはない。信じるんだ」
「……はい」
ヴェールマンの言葉に、タガートはようやく安堵を見せた。
今すぐにでも日本支部に駆けつけ、救援に向かいたいという衝動も、少し薄れた。
タガートは、ふとヴェールマンの表情を覗いた。
ヴェールマンの眼は、まっすぐ日本支部の方を捉えていた。一切の不安も恐怖もない眼で。
「司令、緊急事態です!」
左手に日本刀を持ったまま、レックスが緊迫した様子でヴェールマンのもとに報告に来た。
「どうした!?」
「未確認の化け物が日本支部に急速接近!!」
当時は"突然変異種"の存在は、確認もされなかった。
だからこそ、突然変異種の出現は絶望を意味していた………
ブランクとフィリップは、休憩を終えて近くを歩き回っていた。
生存者か、孤立した兵士を探しているのだ。
「………誰もいない、のか?」
フィリップは、あちこちに視線を送り警戒する。
フィリップの前を歩くブランクも、顔は前を向いていたが、目だけは周囲を見ている。
その時………
ザザッ ガガッ
ブランクが持っている無線機に、ノイズ混じりの通信が入ってきた。
『全兵士に緊急で指示を出す!』
『至急、日本支部に戻れ!!未確認の怪物が集まり始めている!!』
『我々の戦力を集結させ、怪物共を叩き潰す!!』
「おい……これはどういうことだ?」
フィリップが不安を隠せない表情を浮かべてブランクに聞いた。
「…………分からない。だが司令の命令だ。行こう」
一切の迷いの無い表情で、ブランクはフィリップを連れ日本支部へ向かった…………
ーーー【日本支部・装甲壁前】
本部の兵士達が、日本支部の装甲壁前に集結した。
一足遅れてブランクとフィリップが走って来た。
「到着しました、司令」
「よし、ブランクもフィリップも無事だな……説明するより、見てもらった方が早い」
「……………あれを見てくれ」
ヴェールマンの視線の先には、筋肉が剥き出しになったゴリラのような化け物が、感染者の死骸を
ボリボリと音を立てて喰らっていた。こちらには目もくれない。
「おいおい………なんなんだ?あの化け物は………」
兵士の一人が、突然変異種を見てふと呟いた。
その瞬間………
突然変異種が、その紅い眼をギョロリと兵士達に向けた。
「グギギッ、グガガガガッ」
耳障りな唸り声は、獲物を前に笑っているようにも見えた。
「総員、戦闘態勢!!この化け物から日本支部を死守するんだ!!」
「「了解です!」」
ヴェールマンの指示とともに、突然変異種との最初の戦いが始まった………
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