久遠の神話
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第七十一話 全ての光でその五
だがそれでも彼の言葉を解しているらしくだ、その話に反応を見せていた。
「それで霧は消せるのです」
「グルル」
「そして他のものも」
ケルベロスを見据えての言葉だ。
「それが出来るのです」
「グルルルル・・・・・・」
「例え貴方の毒が何もかもを滅ぼす程強くとも」
それでもだというのだ。
「私はその毒を消せるのです」
「じゃあ先生」
「見ていて下さい」
上城の声にも応える、背を向けたままであるが。
「これから私がどうして勝つのかを」
「そうさせてもらうつもりです」
言葉の最後、それに出しはしなかった最初から、と言った。
「では」
「厳しい闘いですが」
僅かでも触れれば死ぬ程の毒だ、それならばだ。
「しかしそれでもです」
「先生は勝ちますね」
「そうです」
その通りだとだ、高代は樹里にも答える。
そうしてだった、今度は彼からだった。
ケルベロスには接近しない、突きを無数に繰り出して。
そうしてそこから光の矢を放つ、それでだった。
ケルベロスを攻める、それも一つの場所に留まってではない。
左右に素早く動きながら突きを突き出し矢を放つ、そうして攻撃を浴びせた。
そしてだ、こう言うのだった。
「これならばどうでしょうか」
「グッ・・・・・・」
「攻撃は一つの場所からするものとは限りません」
ではどうするかだった。
「こうして動きながら攻撃すればです」
それだけ攻撃の幅が出来るというのだ。
「これは効くでしょう、貴方にも」
ケルベロスに対して言う。
「流石に」
「グルル」
だが、だった。ケルベロスはそれまでは確かに怯んでいた。
しかしやがて呻くのを止めてだ、そうしてだった。
跳んだ、そのうえで。
高代の頭の少し上を跳びつつ襲い掛かって来た、その三つの犬の頭で。
それで噛もうとする、その攻撃に対して。
高代は前に身体を屈めて一気に前に出てかわした、怪物は虚しく着地するしかなかった。
背中から少し離れたところに着地した怪物を振り返る、そして言うのだった。
「そうでしたね、ケルベロスもまたですね」
「グルルルルル」
魔犬もまた振り返ってきた、彼等は身体ごとそうしていた。
「動きがありますね」
「ケルベロスの武器は毒と牙だけではないです」
豊香が言う、ただ言うのは高代にではなかった。
今も己の左右にいる聡美と智子にだ、こう話したのである。
「その力と俊敏さもです」
「そうしたものもですね」
「ケルベロスの武器ですね」
「ギリシアの中でも最も強い怪物の一つです」
こうも言われている、ギリシア神話の数多い怪物の中でも。
「それは偽りではありません」
「あの攻撃をかわして反撃に出られるだけの力があるのですね」
聡美はそのケルベロスを見ながら言った。
「そうなりますね」
「はい」
その通りだとだ、豊香はその聡美に答えた。
「あの様にして」
「やはり強いですか」
「それも尋常ではなく」
「あの巨体であれだけの素早さは」
大きさは虎に匹敵した、そしてその俊敏さもだったのだ。
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