| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

久遠の神話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第七十一話 全ての光でその三

「それからです」
「そうですね、では」
「勝って下さい」
 豊香も言うことだった。
「そうして下さい」
「わかりました、それでは」
「全ては勝利を収められてです」
「戦いを終えるべきですね」
「私達が常に望んでいる結末を手に入れて下さい」
 悲劇ではなく、というのだ。こう彼に告げてだった。
 三人の女神達は戦いを見守ることにした、それは上城と樹里もだった。
 二人は高代の背を見てだ、こう彼に声をかけた。
「先生、本当に頼みます」
「願いを適えて下さい」
「そして戦いを終えて下さい」
「そうして多くの子供達を助けて下さい」
「若し私にその資格があれば」
 己の恥ずべき過去を思い出しながら言う、このことを。
「この闘いにも勝てますね」
「資格ならあります」 
 上城はそれは既にあると返した、それもすぐに。
「もう。ですから」
「後はですか」
「闘って勝って下さい」
 そうしてくれというのだ。
「子供達の為にも」
「そう言ってくれますか。では」
「はい、それじゃあ」
「今からはじめます」
 その手に剣を出した、剣は出した瞬間にその刀身から眩い光を出した。 
 そしてだ、彼はその光を放つ剣を両手に持ち構えて言った。
「私の最後の闘いを」
「グルルルルル・・・・・・」
 ケルベロスは三つの頭からそれぞれ唸り声を挙げてきた、それと共に。
 その耳まで裂けた口から出る唾液でグラウンドの土を溶かした、土は唾液を浴びるとしゅうしゅうと溶けそして紫の蒸気を出した。
 その様子を見てだ、樹里は眉を顰めさせて上城に問うた。
「あれ、毒よね」
「うん、そうだよ」
「そうよね、確かケルベロスって」
「毒を持っているよ」
 実際にそうだとだ、上城も答える。
「あの蛇達もそうだけれど」
「犬の頭にもあるのね」
「ケルベロスからトリカブトが生まれたらしいよ」
「トリカブトが」
 樹里もトリカブトのことは知っていた、毒草しかも猛毒である。
「そこまで強い毒なのね」
「そうだよ、ケルベロスの毒はね」
「じゃあ少し間違えたら」
「死ぬよ」
 文字通りそうなるというのだ。
「剣士っていっても身体は生身の人間だから」
「先生もなのね」
「うん、この闘いは厳しいね」
 上城は真剣な顔だった、そしてその言葉も。
 全く楽観していない、それで言うのだった。
 高代もだ、剣を構えた状態で動かない。そうしてだった。
 ケルベロスの隙を伺う、だがそれもだった。
「頭が三つあって、しかも」
「あれだけ蛇がいるから」
「それだけ目があるからね」
 それぞれの頭に目が二つずつある、その目で見ているからだった。
「先生の動きを常に見ているからね」
「それで隙を見せないのね」
「見えていると隙は見せないよ」
 上城は剣道とこれまでの剣士としての戦いから樹里に話した。
「特に命のやり取りの場合は。それに」
「それに?」
「相手の隙も伺うよ」
 見えている、このことからだというのだ。
「つまりケルベロスはその沢山の頭でね」
「自分の隙を潰して先生の隙を伺っているのね」
「そうだよ」
 まさにそうだというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧