恋のレッツダンス
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第四章
第四章
「その剣の腕前を本当に見せてもらいたいのよ、プリンセスは」
「じゃあもうすぐ見せようか?」
また言葉を返してやった。
「この場でな」
「乗ったわ」
これが俺の言葉に対する彼女の返事だった。
「その言葉。喜んでね」
「有り難いね。受けてくれるのかよ」
「ええ、気が向いたからね」
俺の方を見ながらまた言ってくれた。
「それじゃあ。今日のダンスの相手はね」
「俺で決まりだな」
「そうよ。さて」
話しているうちにだった。音楽がかかってきた。まずは伴奏だった。そこからダンスがはじまることはもうわかっていることだった。
「見せてやるぜ、俺の剣捌きをな」
「楽しみにしてるわ」
キャンドルライトの中でダンスがはじまった。それはチークダンスだった。俺も伊達にこの名うての浮気な娘に申し込んだわけじゃない。ダンスには自信がある。右に左にリズムよく。彼女の動きに合わせ音も忘れず踊ってみせた。俺は顔は笑っていたが内心真面目だった。
彼女のダンスもかなり上手い。それに合わせるのははっきり言って簡単じゃない。けれどそれでもやっていって。チークダンスの中で言ってやった。
「今夜はこれで終わりかい?」
「あら、その言葉って」
俺の今の言葉に応えて笑ってきた。
「何かあるのかしら」
「何かあったらどうするんだい?」
俺は余裕を含ませて問い返してやった。
「その場合は。どうするんだい?」
「聞きたいわ」
答えずに言ってきてくれた。
「貴方が今どう考えているかね」
「騎士ってのは最後まで守るものだろ?」
言葉をその中に隠してみせた。
「最後までな。どうだい?」
「それは今夜って意味かしら」
悪戯っぽい笑みはここでも出て来た。
「今夜。どうかしらってことかしら」
「だとしたらどうするんだい?」
踊りながら一歩踏み出てやった。
「そうだとしたら。どうするんだい?」
「そうね」
俺の目を見て言ってきた。ダンスはそろそろクライマックスだ。そのクライマックスのダンスの中で俺は彼女の次の言葉を待っていた。
そしてその言葉は。これだった。
「今夜はね」
「今夜は?」
「いいわ」
こんな調子だった。
そして唇に小指を当てて出してみせた言葉は。
「明日ね」
「明日かよ」
「そうよ、また明日」
右目をウィンクさせて。また言ってきてくれた。
「それでどうかしら、ダーリン」
「おやおや」
俺は内心を隠して笑ってやった。
「明日かよ」
「答えはそれまで待っていてね」
悪戯っぽい笑みはそのままだった。
「それでいいかしら」
「へっ、いいさ」
踊りはそのまま続けていた。
「それじゃあな。そういうことでな」
「ええ。それじゃあね」
結局この日はこれで終わりだった。俺の完敗ってわけだ。切り札を出すよりも前に敗北した。戦車での突撃はあえなく失敗に終わった。
「それで終わりだったんだな」
「そうさ」
仲間達と一緒に夜の街中でだべりながら話をした。場所はパブだ。勿論ハイスクールの連中は入っちゃいけない場所だがこっそりと入って大人のふりをしてカウンターでビールをやりながら話す。
店の中はかなりぼろぼろで木に年季があった。何か頑丈なだけが取り柄みたいな椅子に座ってテーブルにビールを置いて。それで皆と話をしていた。
「見事にな。今回は失敗さ」
「今回は、かよ」
「明日また仕掛けるさ」
言いながらビールを飲んで思い出したのはそのペンダントをしていた首元だった。白くて奇麗な首に銀のペンダントが映えている。そして何よりもその下の胸元のことを思い出した。
「またな」
「まあそうじゃなくちゃな」
「仮にもあんな娘をゲットするってんだからな」
「そうさ、やってやるぜ」
俺はまた言ってやった。
「何があってもな」
「そうそう、その意気ってな」
「頑張れよ」
仲間も笑顔で周りから励ましてくれた。
「明日もな。正面からな」
「ぶつかっていけよ」
「そうさ、明日もダンスパーティーだ」
俺も言葉を出してやる。
「明日こそな。陥落させてやるぜ」
今は涙はビールで流し込み取り乱しそうなまでに苦しい気持ちも流し込んでやった。ビールと仲間の言葉が何よりも嬉しかった。けれどそれは今夜までのことで明日また挑戦してやる、俺はそのことを固く誓いながら今は飲んだ。また明日仕掛けてやることを決めて。
恋のレッツダンス 完
2009・6・15
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