フェアリーテイルの終わり方
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六幕 張子のトリコロジー
8幕
前書き
小さな 姉 と 青年
長い階段を何とか登り切り、一行はようやく祠の境内に入った。
ミラはフェイたちに背中を向ける形で、肩を落として佇んでいた。
フェイは密かに胸をざわめかせた。こうしているミラはただの人間だ。それをマクスウェルとして崇める村人はどういう神経をしているのか。
ミラがフェイたちの来訪に気づいてふり返り、表情を険しくした。
「出て行けって言ったはずよ」
誰が答えるより早く、場にそぐわない電子音が鳴った。レイアがGHSを取り出す。
「わ、友達からメール。タイミング悪いな~」
ミラの浮かべるものが険しさから憎らしさへと変わった。
(レイアをキズつける気だ)
案の定、ミラは無詠唱で、手に生じさせた火球を、全く無防備なレイアに放つ。予期していたフェイはすばやくレイアとミラの間に割り込んだ。
今度もフェイはレイアの盾になって火球を受けるつもりでいた。
だがその時、思い出してしまった。「痛かったら痛いと言っていい」というローエンの言葉。エリーゼの涙。
それらを思い出した時、フェイの霊力野は知らず術を、自らの身を守る手段を編み上げていた。
ミラが放った火球と同じだけの火球を放つ。火球は相殺されて消えた。
「レイア! ダイジョウブ? どこもイタくない?」
「落ち着いて。わたしは大丈夫。フェイのおかげで何ともないよ」
ユリウスがフェイとレイアより前に進み出る。
「何の真似だ」
「それは黒匣でしょう!? 黒匣と、それにまつわるものを消去するのが、私と姉さんの使命!」
「――どうする? マトモに相手してくれそうにねえぞ」
レイアに下がっているよう言われて、フェイはエルの隣に行った。
「何とか……騙そう」
「分かった。話、合わせる」
アルヴィンがミラの前に出る。彼はミュゼの状態をミラに問いながら、ミラを時歪の因子破壊に協力させるよう話を誘導していく。
トドメにルドガーが骸殻に変身してみせたことで、ミラは完全に警戒を解き、こちらの協力者となった。
「行きましょう。姉さんはニ・アケリア霊山の山頂よ」
ミラの声は、最初に聞いた頃より生き生きとしていて、弾んでいるようにさえ聞こえた。
何がそんなに嬉しいのだろう。あの精霊を優しい姉に戻せる希望が? あの精霊から解放される自分が?
(どっちであっても、結局このミラは消えちゃう)
ミラを追って祠へ入って行くルドガーたちを、フェイも何も言わず追いかけた。
祠の中は上座で終わりと思いきや、上座の後ろに霊山へ通じるドアが隠れていた。そのドアを抜けると本格的な登山道が目の前に広がった。
「道、険しいわよ。あなたたちは特に気をつけなさい」
ミラが先頭を切って登り始めた。アルヴィン、レイア、ユリウスも続く。
ルドガーは、歩き出す前にエルに背中を差し出した。
「おぶってくから」
「エル、ヘーキだし」
「今まで結構な距離、俺たちのペースに合わせて歩いてくれたから。これはごほうび」
「……ごほうびってゆーんなら、もらってあげなくもないけど」
エルは恐る恐るといった体でルドガーの首に両手を回した。ルドガーがエルを背に抱えて、危うげなく立ち上がる。姉の顔は楽しげだ。ルドガーも笑っている。
(二人ともたのしそう、なのに。何でフェイ、胸、イタイんだろ)
エルとルドガーが先に行っていたアルヴィンたちに合流する。フェイは一番後ろからその様子を見守りつつ歩いた。
後書き
レイアが会社に電話し忘れたというエピソード、何となく間が抜けている気がするので変えちゃいました。
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