真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾
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反董卓の章
第20話 「………………魔人」
前書き
今回、文字数少なめです。
―― other side 虎牢関 ――
(あれは……なに?)
呂布は思わず眼を瞬かせた。
それほどに、目の前の光景は異様だった。
地面が揺れる。
周囲全ての兵がしゃがみ込むようにして、周囲を見回す中。
呂布だけが、目の前の人物から目を離さなかった。
それは――
「お前――」
呂布が何かを口にしかけ、それが中断させられる。
呂布は気がつくと、自身が宙に舞っていた。
(……え?)
不思議な感覚だった。
今さっきまで見ていた光景が、瞬時に変わる。
その光景は――まだ昼間のはずなのに、赤く輝いていた。
「――――」
一瞬の浮遊感の後、急激に戻ってくる現実感。
それを感じた瞬間、呂布の身体は考えるよりも先に身体を翻させ、態勢を整えて地面に着地する。
その時初めて、自分の右頬が痛むことに気付いた。
「…………?」
手を頬にあて、それを離す。
そこには、血がべったりと付いている。
それが自身の鼻から流れる血だと理解した時、呂布の眼は正面にいる人物の姿を見た。
その人物は――黒かった服を赤く染め、その身から溢れるような赤い『何か』を吹き出させている。
その血ではない『何か』――それを『氣』であることを知るものは、この場にはいない。
しかし、その溢れ出る『氣』は、その足元から大地のヒビを奔り――
所々でその赤い潮流が吹き上がる。
「な――っ!?」
誰かが叫ぶ。
その叫びは、伝播していき、すぐに絶句となって周囲を取り囲んだ。
その潮流は、天まで噴き上げる赤い奔流。
それが幾重にも大地から噴き上がり、周囲を赤く染めた。
「こ、これは!?」
「そんなバカな!?」
周囲の兵たちが騒ぐ。
だが当然だった。
それはこの周辺には起こるべくもないモノ。
それは――
「火柱ぁ!?」
それは、炎。
いや、正確には違う。
それは……噴火だったのだ。
爆発的に吹き上がる火柱は、その身がただの火ではない。
高温に熱せられた岩が高熱で溶け出し、溶岩となって噴き出している。
ありえるだろうか。
ただの荒野だった場所が…………火山のように噴火している。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
噴き上がる溶岩と、その火柱の飛沫が周囲に降り注ぐ。
まさに地獄のような光景に、敵も味方もなく逃げ惑う兵たち。
地平の荒野だった場所が、一瞬にして火山地帯と化した。
「…………嘘」
その場で、呆然と見上げるものがいる。
それは、たった今声を大にして叫んだ者。
劉備だった。
「な、ななななななななななななななんですかー!?」
「ちょ、熱っ! なにこれ!?」
周囲の状況に、その脇にいた孔明と孫策も声を上げた。
周辺の一変した状況に、誰もが戸惑い、恐慌を起こす中。
ソレは――声を上げた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
まるで猿叫。
いや、熊の雄叫びか。
獣のような叫びに、誰もがその場に眼を凝らす。
その時になり、初めて――この現状が『誰』によって起こされたのか、その場にいたすべてのものが直感した。
全身を覆っていた黒い衣は、その色を灼熱の赤へと変化させ、しかもその表面がボコボコとうねっている。
血だらけだった顔は、すでに人のソレとは違い、まるで鬼のような醜悪な容貌に見えた。
そこに居たのは『人』ではなかった。
「………………魔人」
誰かがそう呟いた。
だが、ソレはその場にいた全ての人間の感想だった。
そう、それに相対する、呂布ですら――
「!?」
瞬時にその魔人が消える。
と、同時に何かがひしゃげるような、酷い金属音が周辺に響く。
それは魔人が呂布に攻撃し、それを呂布がその武器にて防いだ音。
だが、呂布は完全に防いだわけではなかった。
自身の体は、宙を舞うが如く飛ばされる。
それを追って、魔人がまた掻き消える。
鈍い音だけが幾重にも響き、土煙と弾かれたような土砂だけがその場にあった。
そして、一際大きく弾かれたような音と共に、再び二人の姿が地面へと現れる。
「「「 …………………… 」」」
誰しもが周囲の異変に気付いていた。
火柱が上がり、溶岩のように噴き出している。
青空だった空は、黒煙と火柱により黒と赤に染められている。
それでも、誰もがその場に固まり、目を向けるのは――
互いに赤い『氣』を吹き上がらせた、人外の二人。
「――待ってた。恋……本気出せる相手」
その言葉は歓喜の言葉。
その内容を周囲が理解した時、ある異変にも気づく。
呂布の身体も、赤い『何か』が噴き出している。
「力、湧き上がる……今までにない力。よくわからないけど……楽しい!」
呂布の体は、魔人と同様に『氣』が体外に噴き出していた。
その姿は元々の褐色の肌に相まって――全身が炎の塊のようにも視える。
「恋、今までで一番本気出せる。たった一人で、なんにも考えることなく! ただ、戦える! 嬉しい! お前もか!?」
まるで狂喜。
普段の呂布を知るものが見れば、違和感しかない変様。
そんな口調の呂布が、赤い氣を噴き上がらせて叫ぶ。
その言葉に答えるように……顔を覆うような血をどす黒く染めた魔人が、にぃと笑う。
まさに魔人と言える表情だった。
「嬉しい! 嬉しい! もうなにもいらない! 恋の命も! なにも!」
叫んだ呂布が、その手にもつ戟を構える。
その戟すら赤い『氣』の力で紅に染まり、血まみれの矛に見えた。
そして魔人も腰の短刀を抜き……その刃が赤黒く染まる。
まるで魔人と鬼神。
周囲で見守る兵にはそう視えた。
だが――そう見ていない者もいた。
「っ! 負けるな、ご主人様っ!」
劉備が――
「頑張れぇ! 盾二様!」
孔明が――
「いけぇ! 盾二ぃ!」
孫策が――
「「「 勝って! 」」」
周囲の異常すら瑣末なことのように。
三人の乙女が、叫ぶ。
その願いに応えるように――
魔人は、掻き消えるように動き出した。
―― 曹操 side ――
「……これは幻覚?」
思わず呟く。
目の前で起こっている事に、頭がついていかない。
地震が起こったかと思えば、周囲に火柱が噴き上がる。
まるで火山の噴火のように。
――そんなはずはない。
ここは火山地帯ではない。
虎牢関周辺は、ただの荒野のはず――
「っ! 華琳様っ!」
「!?」
叫んだ春蘭が、その大剣を振るう。
それに砕かれたのは、火柱から飛んできた溶岩の塊。
「ぐっ……」
「春蘭!?」
その砕いた破片が、春蘭に降り注ぐ。
春蘭は不意に眼を抑え、その場に蹲った。
「どうしたの! 春蘭!」
「…………っ、な、なんでも……」
「いいから見せなさい!」
蹲る春蘭の顔を上げさせる。
そこには……
「!?」
眼に……左目に、細長い矢のような岩が突き刺さっていた。
「春蘭!?」
「ぐっ……か、華琳、さま。お怪我は……」
「なに言ってるの! 貴方こそ……」
「あ、ああああああああああああああああ姉者!?」
春蘭のただならない様子に、自身の弓すら放り出して駆け寄る秋蘭。
姉思いの秋蘭ならば当然のこと。
今は普段では見られないような慌てぶりで、今にも泣き崩れそうだった。
「姉者、姉者、あねじゃぁぁぁぁぁっ!」
「……騒ぐな、秋蘭。元よりこの身は、華琳様の盾。ならばこれぐらい、なにほどのものでもない!」
そう言って、その尖った岩の破片を掴み――
「ううおおおおおおおおおおおおおおっ!」
自身の左目ごと、引き抜いた。
「姉者!」
「春蘭!?」
「フゥッ……フウゥ……わ、我は父の精、母の血、棄つるべからざるなり!」
そう言って、岩の破片に突き刺さったままの自身の目を噛み切り、飲み込む。
「しゅ、しゅん、らん……」
「あ、あねじゃぁ……」
私と秋蘭は絶句したままそれを見る。
いや、その場にいた張遼も関羽も――
「ハァ……ハァ……さ、さあ! 張遼! 私はまだ戦える! お前が投降せぬのなら、今ここで首を撥ねることもできようぞ! 返答は如何に!」
春蘭は立ち上がり、己の大剣を構える。
その姿に張遼のみならず、周囲の兵や関羽まで絶句したまま、その場に立ち尽くした。
「………………あかん。あかんわ……完全に負けた。ウチはもう……」
そう言って自身の武器を放り出したのと、春蘭の身体が後ろへと倒れるのはほぼ同時だった。
「春蘭!」
「あねじゃぁ!」
倒れる春蘭を、秋蘭と二人で支える。
春蘭の顔は青ざめ、その左目からは血が溢れている。
「す、すぐに手当を! だれぞある!」
「姉者! しっかりしろ、姉じゃぁああああああっ!」
秋蘭が狂ったような悲鳴をあげている。
私は兵に指示し、手当をさせるべく叫んだ。
「………………霞」
「……負けたわ、ウチは。あんさんもはよ行き。この状況……なんぞヤバイことが起こっとるやろ」
その言葉に、はっとした顏をする関羽。
私も、不意に気付いて関羽を見た。
「まさか――」
「こんな状況、すべてがそうとは思わへんけど……黄巾の時のあの『合図』からして、なんぞ盾二が関わっとんやないか?」
「……………………」
「はよ行き。何ぞ悪い予感もするねん。ウチは夏侯惇の『武人の魂に応えて』曹操に投降するんやからな……」
「!? お前、その為に――!?」
………………
そう、か。
関羽でなく、私に投降する理由は。
劉備軍の疑惑を自分の身一つの代わりに伏せろと――
「……………………」
そんなものは関係ない、と突っぱねることは出来うる。
しかし、それは――春蘭の意地と武人の心を、私自身が踏みにじるということ。
春蘭が倒れた今、それを人質にすることも、私の首を取ることだって出来るのだから。
関羽は、いざとなれば……それを見逃すことも出来るのだ。
劉備の嫌疑を、世間に公表しないために。
風聞に名高い関羽ならば、それはすまい。
必ず私を助けるだろう。
だが、張遼はそれをせず私に投降することは、つまるところ関羽の発言を見逃せという意味。
「………………いいわ、張遼。貴方の投降を受け入れましょう」
「……曹操」
「貴方のためではないわよ、関羽。春蘭の意地と武人の魂を護るため……彼女らが私の盾であると同時に、私も春蘭たちの盾であるのだから」
「………………承知」
関羽はそう頷き、馬上から頭を下げる。
そして、その馬を翻し、走りだした。
炎と噴煙渦巻く、その中心へ。
―― 袁紹 side ――
「な、なにが起こっているんですのー!?」
わたくしは暴れる馬にしがみつきながら、馬上で叫ぶ。
唐周さんに指揮する姿を見せて、連合軍に袁紹ありと印象づかせる必要があると言われて、本陣を動かしてみれば。
突然の地震の上に、急に周囲を噴き上げる火柱が立ち始めた。
「あ、ありえませ……ぐえ」
暴れる馬を抑えきれず、落馬してしまう。
恐慌状態になった馬は、そのまま走り去っていった。
うう……み、みっともない呻き声を上げてしまいましたわ。
「ほ、ほほほほほほほほほ本初様!」
「こ、ここは危険です! お逃げを!」
周囲の兵が慌てた様子でわたくしの元に集まってきましたわ。
「き、きっと董卓が妖術を使ったのです!」
「い、いや、あの呂布ってやつかも……」
「お怒りだ! 天帝様のお怒りだあああああっ!」
……わたくしの身を案じて集まったのかと思ったら、縋りたいだけでしたのね。
まったく、わたくしの兵であるのに情けない……
「さ、騒ぐのでは、あああああありませんわよ!」
………………こ、声が上擦ってしまいましたわね。
わ、わたくしとしたことが……
「だ、だだだだだだ誰か、状況を報告させなさい! 唐周さん! 唐周さんはどこですの!?」
「ぶ、文官様でしたら、先程前線に……」
わ、わたくしを置いて勝手に前線に出たですって!?
こ、この異常な状況だというのに、猪々子さんも斗詩さんも唐周さんもわたくしの身を案じて馳せ参じないとは!?
「に、ににににににに逃げましょう! こんな妖術が相手じゃ敵う訳ありません! 鄴に戻りましょう!」
も、戻る!?
そ、そうですわね。
こんな天変地異を起こすような相手にわたくしが敵うわけ……
……
…………
………………
わたくしが、逃げる?
「あ、あああああああああああありえませんわ!」
「「「 …………へ? 」」」
周囲の兵が、一瞬ほうけたような表情になりましてよ。
「わた、わたくしが逃げる!? 四代にわたって三公を輩出した、名門汝南袁氏のこのわたくしが!? そんなのありえませんのことよ!」
「な、なに言っているんですか!? 天帝様のお怒りが怖くないんですか!?」
「天帝様のお怒り? それは誰に対してお怒りなのですの!?」
「え? えと……」
「だ、誰って……」
「…………誰だ?」
「そのお怒りは当然、洛陽を違法に占拠し、今また討伐軍に刃を向ける董卓さんに決まっているじゃありませんの!」
「「「 え、ええぇ…………? 」」」
なんですの、その『まさかぁ』みたいな反応は!
「これが天帝様の神罰であるのでしたら、今劣勢の連合軍に対しての救援なのですわ! 董卓軍を討ち滅ぼすために、天帝様がお力をお貸しくださっているのですわよ!」
「この妖術が……?」
「まさか……」
「いやでも……」
そう、そうなのですわ!
妖術なんて、そんなものがあるわけがありませんの!
きっとこれは、連合軍の劣勢に天帝様がお力添えをしてくださるための神力なのですわ!
「お~ほっほっほ! みなさん、この戦、勝てましてよ!」
「……お、おい、どう思う?」
「た、確かにこんなの妖術か、天罰でもなきゃ……」
「そ、それにこっちが劣勢だったのだから……」
「それに見てごらんなさい! 周囲の噴き上げる炎は、わたくしたちに向けて降ってきているのではありませんわ! 董卓軍を中心に炎が吹き上がっているじゃありませんの!」
「……そうかな?」
「……確かに、こっちの後方には火が噴いている様子はないな」
「じゃあ、やっぱりこれは……」
あら……確かにそうですわね。
迸るような火柱は、戦闘が起こっている前線周辺で噴き上がっていますわ。
ということは……これは、やっぱり天佑なのですわね!
「お~ほっほっほ! みなさん、今こそ奸賊董卓軍を討つ最大の好機ですわ! 全軍突撃して、虎牢関を攻め取りますわよ!」
「………………」
「……えっ、と……」
「返事は!?」
「「「 は、はっ! 」」」
それでこそわたくしの兵ですわ!
「この天変地異は、天帝様の援軍ですわ! それを連合全体に広め、一気に押し返しますわよ!」
「「「 オオオオオオオオオオオオオオオオッ! 」」」
ふふふ……わたくしには天帝様のご加護が付いているんですのよ!
お~ほっほっほっほっほっほ!
―― 唐周 side ――
なんだこれは……
周囲に火柱が立っていやがる。
俺は異常に暴れる馬を、必死で立て直そうとしながら周囲を見た。
まるで火山の火口みたいじゃねぇか……
こんな荒野になんで――
周囲の袁紹軍の兵達は、右往左往して戸惑い、中には逃げ出そうとしている。
当然だ、こんな異様な光景……今まで見たことが。
「…………?」
見たことが……………………………………あるぞ。
これは……あの時の!
「郷循…………あの時のやつか!」
そうだ。
黄巾の時、奴が似たような火柱を上げた!
「これは奴が起こした妖術か!」
火柱が噴き上げたあの時、黄巾の別働隊千人が灰となり、辺りがすべて炭となったあの光景。
逃げる最中に見た、あの光景が俺の脳裏に蘇る。
「おのれぇ!」
俺は一向に収まらない馬を捨て、その場から走り始める。
もはや一刻の猶予もない。
やつの……奴の息の根を止めなければ!
俺は手に持つ弓を空へと向ける。
そして、用意した赤い布をつけた鏑矢を番えた。
「この混乱を起こした元凶! 死ぬがいい、北郷盾二!」
俺は天へと矢を放つ。
鏑矢は、笛のような異様な音を響かせて、天へと赤い筋を煌めかせた。
後書き
ちょっと私事でいろいろありまして……正直アップする時間すら取れなくなってきました。
現在、定期更新をやめるか、文字数を大幅に削減するかで迷っています。
定期更新をやめれば、クオリティは向上するとは思いますが、正直どのくらい見込めるかはわかりません。
文字数を3000程度に削減すれば、定期更新は出来るかと思いますが、話数は半端なく多くなると思います。
(現状の一万字前後ですら1章ごとに20~30と見越して、予定では残り100は超える予定です)
どちらがよいでしょうか……
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