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あの娘とマッシュポテト

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第一章


第一章

                あの娘とマッシュポテト 
 朝起きてまずはミルクをカップに入れて電子レンジであっためる。それからスプーンでミルクの上の膜を取って口の中に入れてからそのスプーンでミルクをかき混ぜて。それからホットミルクを飲む。
 これが僕の一日のはじまりで。ルームメイトに挨拶を受ける。
「ああ、いつものか」
「そう、いつものだよ」
 眠そうな顔で頭を掻きながら出て来た彼に答える。パジャマが随分と乱れていてしかも髪も同じようになっている。まあこれは僕も同じ様なものだけれど。
 その同じ様な格好になっている僕は。彼の次の言葉を聞いた。それはこうしたものだった。
「それで今日も行くのかい?」
「いつも通りだよ」
「それもいつも通りなんだ」
「他に何処に行くんだよ」
 ミルクを飲みながら彼に言った。
「あそこしかないだろう?」
「それで頼むのはあれなんだね」
「そう、あれ」
 また彼に答えた。
「あれだよ」
「よく飽きないもんだよ」
 ここまで話を聞いて呆れたようにして言ってきた。
「毎日毎日朝がそれで」
「飽きないさ」
 僕は笑ってその呆れている彼に対して答えた。
「だってさ。やっぱり」
「恋は盲目ってわけか」
「日本の諺だよね」
「確かね」
 その辺りは今一つ知らない。何か日本には色々な言葉があるらしい。アメリカ人にはわからないことが多い。このニューヨークには日本人も多いけれどそれでもだった。
「そうだったと覚えてるよ」
「それでその日本の諺の通りに」
 僕はこう彼にまた言葉を返した。
「僕はなってるってわけなんだ」
「はっきり言ってそう見えるよ」
「まあそれでもいいさ」
 自分で自覚があるからもうそれでよかった。やっぱりどう見ても、だからだ。
「それでね」
「じゃあ今日もそれか」
「君はどうするんだい?」
「僕?僕はここで食べるよ」
 そう言って冷蔵庫から何かを出してきていた。出したのはハムと卵だった。ついでにオレンジやキーウィも出してきた。どれもよく冷えている。
「フルーツに。それに」
「ハムエッグだね」
「後はトーストだね」
 今度はパンを出してそれをトースト焼き器にすぐに入れてしまった。そういえば僕は最近自分の家で朝は食べない。それがいつもになっていた。
「こうしてね」
「じゃあ僕はその間に」
「身支度整えるんだね」
「そのまま大学に行くよ」
 こう彼に述べた。
「朝を食べてからね」
「いつも通りだね」
「そうさ、いつも通りさ」
 ホットミルクを飲み終えて立ち上がって言った。キッチンでそのミルクを入れていたカップを洗ってそのまま洗面所に向かう。とりあえずシャワーを浴びて歯を磨くつもりだ。
「何事もね」
「全く。どうしたものだか」
 彼はフライパンでそのハムエッグを焼きながらまた僕に言ってきた。
「急に変わったよ、君は」
「人間は変わるものさ」
「それでも変わり過ぎだよ」
 そのハムエッグを焼きつつ僕に顔を向けてまた言うのだった。
「あんまりにもね」
「そんなに変わったかな」
「前は振り向きもしなかったじゃないか」
 昔を思い出しての言葉だった。
「誰でも。違ったかい?」
「言われてみればそうかな」
「ゲイかも知れないって思ったけれどね」
「またそれは言い過ぎだろう?」
 生憎僕にそんな趣味はない。至ってノーマルだ。けれどアメリカじゃゲイかそうでないかは結構問題なわけで。彼もそのことを気にしているのだった。
 
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