迷子の果てに何を見る
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第二十八話
前書き
今日から学校か。
今まで通ったこと無いから楽しみ。
byリーネ
第二十八話 決意
side リーネ
今日から私たちは麻帆良学園小等部に通う事になりました。三人とも違うクラスになってしまいましたが仕方ない事だとお父様に言われているので割り切ります。学校が終われば会えるのでそれまでの我慢です。
「はじめまして、リーネ・M・テンリュウです。これからよろしくお願いします」
「それじゃあ、テンリュウさんはあそこの開いている席に座ってね」
「はい」
空いている席は窓側の一番後ろの席でした。隣の席にいる子は眼鏡を掛けて機嫌が悪そうな女の子でした。
第一印象はお母様が作った服を着て眼鏡を外したらもの凄くかわいいと思う。
「よろしく名前を聞いても良いかな」
「長谷川千雨だ」
その態度にある程度違和感を感じましたがその正体に気付けませんでした。
まあ、機嫌が悪い人に無理矢理干渉して怒らせたりするつもりは無いので席に着きます。
授業が始まり、休み時間になるたびに囲まれて質問攻めに会います。二人も同じ状況になっているんでしょうね。隣の席の長谷川さんは興味が無いのか、巻き込まれるのが嫌なのかすぐに教室を出て行ってしまいます。どこに行くのか気になるので次の休み時間にお父様に教えてもらった気配遮断で後を追ってみます。長谷川さんが向かったのは屋上でフェンスにもたれながらため息をついています。
「どうかしたんですか」
私が声をかけると長谷川さんは吃驚して立ち上がりました。
「いつの間に来たんだよ」
「今さっきです。それにしても良い眺めですね。珍しい位の大きな樹も見えますし」
『珍しい』という単語に長谷川さんが反応を示した。
「な、何言ってんだよ。あれぐらいここじゃあ普通で」
その反応とまるで認めたくない現実を認める様に不安そうにしながら話す長谷川さんに違和感の正体に気付いた。
認識阻害の結界が効いていない。
試しに眠りの霧を無詠唱で軽くかけてみるが効いている様子は無い。
なら長谷川さんはここではおかしな人として扱われてきたのだろう。周りが普通だと思う事を普通と思えない。私たちはそういう風に思ってしまうと知っているから周りに合わせる事が出来る。けれど彼女にはそれが出来なかった。だから自分を守る為に誰にも近づかないし、興味を持とうともしないのだろう。よく見れば眼鏡に度が入っていない事が分かった。つまり伊達眼鏡というフィルターを着けないと普通になれなかったのだろう。
そんな長谷川さんを私は抱きしめた。零樹が生まれた日に、私が吸血鬼である事を認めた日にお父様に抱きしめられた様に。
「ちょっ、いきなり」
「あなたはおかしくなんてありませんよ」
「えっ」
「おかしいのはあなたではなくこの学園都市です。周りのみんながおかしいと感じないのは学園都市がそう思う様にしているんですよ。だからあなたの感じている事は間違いなんかじゃないんです」
「でも」
「ええ、私も私の家族達もみんなこの学園都市がおかしい事は知っています。だから大丈夫です。もう我慢する必要なんて無いんです。私があなたを普通であると認めてあげます」
「う、ううう」
「大丈夫、ここには誰も来ません。だから泣いても良いんですよ」
「うわああああああああああ」
人払いの結界と遮音の結界を張り長谷川さんを思い切り泣かせてあげる。
こんな娘にまで辛い思いをさせて。あの妖怪、ただじゃ済まさない。
side out
side 千雨
あの後、私が泣き止むまでリーネ(できればファーストネームで呼んで欲しいと言われたから、まあ私も名前で呼んで欲しいと言ったけど)は私を抱きしめて背中を撫でてくれていた。思い返すとかなり恥ずかしいけど自分が間違っていないと言われて本当に嬉しかった。けど、リーネが言っていた『周りのみんながおかしいと感じないのは学園都市がそう思う様にしているんですよ』という言葉が気になった。それを教えて欲しいと頼んだら自分だけでは判断できないから両親に直接聞いて欲しいと言われてリーネの妹(全然似てない、っていうかあの眼の色と髪はありえるのか)とリーネの両親の友人の娘と一緒にリーネの家に行く事になりました。
「おかえり、もう友達が出来たの?」
「ただいま、お母様(母上)(エヴァさん)」
「えっと、はじめまして長谷川千雨です」
連れて行かれたのは最近開店したばかりの雑貨屋『Aria』だった。そこにはリーネそっくりの女性がカウンターに座っていた。
「いらっしゃい、私はエヴァンジェリン・M・テンリュウ。ここの店長でこの娘達の母親よ。エヴァと呼んでくれて構わないわ」
正直、エヴァさんが羨ましかった。女の私から見ても嫉妬よりも羨望の方が強い位きれいな人だった。リーネも成長すればこんな風になるのだろうか。
「お母様、実は千雨ちゃん蟠桃のことがおかしいと感じているの」
すっ、とエヴァさんの眼が鋭くなる。その眼はここにはいない誰かを見ているみたいだった。
「そう。千雨ちゃん、辛かったでしょう」
エヴァさんが私を抱きしめてくれた。
「くだらない大人達のせいで、必要の無い苦しみを与えられて、ごめんなさいね」
「いえ、エヴァさんに謝ってもらう様な事じゃないです。それよりこの学園がおかしいってどういうことなんですか」
「そうね、まずは色々と教えてあげた方が良いわね。私の『別荘』に行った方が良いわ。刹那、札を裏返してきてちょうだい」
「はい、母上」
刹那(やっぱり名前で呼ぶ様に言われた)が扉に掛かっている札を「OPEN」から「CLOSE」に変えて戻ってくる。その後エヴァさんに連れられてエヴァさんの私室に連れられていった。
エヴァさんの部屋はアンティークな家具で揃えられていて、所々にぬいぐるみや人形と言ったかわいい物が置かれ、その部屋の隅にボトルシップならぬボトルジオラマが置いてあった。
「これが『別荘』ですか?」
「そうよ、ここに立ってみて」
エヴァさんに言われてリーネと刹那と木乃香(このちゃんって呼んでと言われたけど拒否した)と一緒の場所に立つ。
次の瞬間、私達は違う場所に立っていた。
「どこだよここ」
慌てて辺りを見渡すと先程のジオラマそっくりだという事が分かった。
いつの間にかエヴァさんもここに来ていた。とりあえずお茶を飲みながら話そうと言われ中央にある塔の中にある一室に案内された。リーネ達は包丁を持った人形に連れられて何処かに行ってしまい私とエヴァさんだけだ。
「どう?『別荘』に来た感想は」
「正直、何がなんだか」
「そう、それが普通よ。これを体験して凄いとか言ってはしゃぐようなら私は手を貸さないつもりだった。その点、千雨ちゃんは合格。だから教えてあげるこの世界の真実を。魔法の事を」
「......魔法」
「そう、魔法とそれにまつわる生き物の存在」
エヴァさんが手を振ると火が出たり、氷が出てきたりした。
「これが魔法。便利な、使い方によっては簡単に人の命も奪える便利な道具」
「じゃあ、みんなと私が違うのは」
「認識をずらす結界がこの学園には敷いてあるの。千雨ちゃんは魔法抵抗力が普通の人より高いから他の人と認識が違ってしまったの」
「なんでそんなことを」
「魔法は秘匿されるべきであり、一般人に知られた場合は記憶を操作するのが普通なの。でも、この学園の結界はかなり杜撰なの。まだこちらに来て数日しか立っていないけど、こんな噂を千雨ちゃんは聞いた事無い。困っていたら魔法少女とか魔法オヤジが助けにきてくれるって」
「......あります」
「あの噂、本当の事よ。なぜならここは魔法使いが表側の社会に溶け込む為の修行場なの」
「修行の為だけにこんな学園都市を作ったんですか」
「そう、従順な戦力を作る為にね」
「戦力ですか?」
「一度に言われても覚えられないでしょうから簡単に説明するけど、この世界とは別に魔法世界というのがあるの。その魔法世界では3つの勢力があると思ってちょうだい。その内の1つがここを管理しているのだけれど、その勢力にいる魔法使い達は基本的に“立派な魔法使い”という名の都合のいい駒になる事を目指しているの」
「都合のいい駒ですか、それって第2次世界大戦の時の日本兵みたいな」
「理解が早いわね。それとあまり変わらないわ。“立派な魔法使い”に任命してあげるからって言葉一つで大概の魔法使いはその命令に従うわ」
「......他の勢力はどうなんです?」
「1つは帝国と呼ばれているんだけどここはそうねえ。亜人、獣人って言った方が分かりやすいかしら。そういう種族が集まって出来た国である程度は平和な国よ、アメリカ位。遺跡とかが多いから研究者とかトレジャーハンターなんてのもいるわね。この帝国とさっき言った勢力、MMって呼んでいる国なのだけれど国の大きさで言えばほぼ互角ね。最後がアリアドネーっていう小さな国なんだけど、この国は特殊で学園都市が大きくなった学園国家と思ってもらって良いわ。ちなみにこのアリアドネーが最強の国家でもあるわ」
「なんでなんですか」
「魔法って言うのは化学と一緒なの、ちゃんとした式が在ってそれを正しく行う事で誰にでも扱える事が出来る物なの。たまに病気とかで使えない人とかもいるけど。だから魔法も研究されているの。その中で400年程昔にある賞金首がアリアドネーに流れ着いたの。アリアドネーは学びたい者ならたとえ犯罪者であろうと受け入れる国なの。もちろん国の中で罪を犯したら罰せられるけど。それでその賞金首が追われている理由は一緒に旅していたのが吸血鬼の真祖だったからなの」
「それだけなんですか」
「吸血鬼の真祖ってね。完全な不老不死なの。不死殺しの武器じゃないと殺す事が出来ない。だから恐れられるのけど、その賞金首は吸血鬼と離れようとはしないどころか討伐しようとしてきた人たちを返り討ちにした事と今までに無い魔法を使う事から賞金首にされたの。そしてその賞金首はアリアドネーでその魔法と自分の思想を教え続けたの。おかげで400年経った今もアリアドネーはその魔法と思想を継ぐ者達が何人もいて、その人たちはまた後世に伝えていく。......話がずれたわね。それで魔法の種類が違うと使う魔力も違うんだけど、この意味が分かる」
「えっと、魔力がなくなって魔法が使えなくなっても別の種類の魔法なら使えるってことですか」
「そう、だから魔法の種類が多い方が有利なの。そしてMMも帝国も兵士が使うのは昔から在る魔法1種類がほとんどでたまに2種類使う人がいる位ね。それに対してアリアドネーは4種類使えるのが普通ね。たまに1種類を極めている人もいるけど、極めている以上もの凄く強いわね」
「全部でいくつ在るんですか」
「6つよ。探せばまだまだ在ると思うけどアリアドネーで教えているのは6つ。どんなのがあるのかは見た方が早いわね」
エヴァさんが指を鳴らすと目の前に映像が映し出された。
『ケケケ、ホラホラガンバレ』
『くっ、我が手に宿るは炎の精と風の精、荒れ狂い舞い上がれ。フレイムフェザー』
『ヨット、コンナ数ジャアオレニハアテレナイシ刹那ガコウゲキニウツレネエダロ』
『そうでもありません。汝は炎。空を舞いし気高き魂。奴を燃やせ』
『ついでにおまけや。プラクテ・ピギナル 炎の精霊599柱、集いて来りて敵を撃て。魔法の射手 炎の599矢』
『チッ、ヨケキレネエカ』
『わわ、チャチャゼロ大丈夫?』
『ダイジョウブジャネエヨ、ウデガトレチマッタジャネエカ。シカタネエ、ウデヲ直シテクルマデ休憩ダ』
『『『は〜い』』』
「これが、魔法」
「そう、何でも出来る夢の様な物ではなく、危険に満ちた代物」
「なんで三人は魔法を覚えてるんです。あんなに危ない物なのに」
「三人の生まれた環境と境遇のせいとしか言えないわ。リーネと刹那は......普通の人間じゃないの。リーネは生まれ方が特殊な真祖の吸血鬼、刹那は烏族、鴉天狗と人間との間に生まれた半妖。木乃香は生まれた時からその身に莫大すぎる魔力から兵器として利用される可能性があるの。だから自分を守る為の力が必要になるの」
「でも、それじゃあリーネは成長しないんじゃあ」
「大丈夫よ、ちゃんと成長する方法は在るから」
「あれ?でもリーネが吸血鬼ってことはエヴァさんも吸血鬼でリーネ達が使ってた魔法が3種類在って。てことはアリアドネーに辿り着いた吸血鬼って」
「私の事よ。賞金首は私の夫。夫も普通の人間ではないし、そもそも何なのかも分からないの。人間がベースになっている事だけは分かっているんだけどそれ以外は全く分からないの」
「ああ、なんか訳が分からなくなってきた」
「今日の所はここまでにしときましょうか。部屋を用意してあげるから」
「いえ帰らないと親が心配するんで」
「心配は要らないわ。別荘の中の1日は外での1時間だから、それに千雨ちゃんにはここを出るまでに決めてもらいたい事が在るの」
「何をですか」
「魔法を知った千雨ちゃんのこれからの生き方よ。1つ目は、このまま何もせずにもとの生活に戻る。2つ目は魔法で記憶を操作して今日在った事を忘れてもらうわ。その時は周りと認識がずれない様にもしてあげる。3つ目は魔法を覚えてこちら側に来る。この中から選んでもらうわ、どれを選んでも後悔だけはしないでね。私のおすすめとしては3つ目ね」
「どうしてですか」
「近衛門、学園長のことなんだけど、何かを企んでるみたいなの。素質のある娘を調べ始めていて、その中にリーネ達は既に含まれているの。たぶん千雨ちゃんも調べられてると思うわ。いつかは分からないけど中学生から高校生にかけて確実にこちら側に巻き込まれるわ。その時に自分の身を守れる位の力は欲しいでしょ」
「巻き込まれるって本当ですか」
「ほぼ間違いないわね。拒否はたぶん出来ない。MMは自分たちの繁栄の為なら他人がどうなろうと構わないと思っているから。厳に木乃香は数ヶ月前に傭兵に攫われそうにもなったわ」
「その攫おうとした人たちはどうなったんですか」
「一人を残してみんなリーネ達が......殺したわ」
「ころ......」
「木乃香以外は攫う必要がないからって殺そうとして、みんな必死になって抵抗して刹那と木乃香は酷い怪我を負っていたわ。リーネも服はぼろぼろだったから何回も魔法を受けたりもした。それから一年近く、この別荘で身体と心の治療を行なったわ。正直言うと今すぐにでも麻帆良を滅ぼしたいと思った事も在ったけど、三人がそれを望まなかったから、とりあえずは保留という形になっているわ」
「......なんでみんな笑ってられるんですか」
「それはあの子達に直接聞いてみて頂戴」
「エヴァさんも人を殺した事が」
「あるわよ。これでも長い間生きているからかなりの人数を殺してきたわ。自分を守る為に。最初に殺したのは私を真祖の吸血鬼にして、私の家族を皆殺しにした男」
「......ありがとうございます。それから嫌な事を思い出させてすみません」
「別に構わないわよ。今は真祖の吸血鬼である事を嬉しく思っているから。そのおかげで私は夫に出会えたし、夫を残して逝く事も無いから」
「仲がいいんですね」
「ええ。それとあの子達の場所までの道が分からないでしょ。だからこの子に連れて行ってもらって」
エヴァさんがまた指を鳴らすと部屋に置いてあった人形の一体が動き出した。
私はそれに連れられてリーネ達の場所まで歩いていった。
「あっ、千雨ちゃんどうだった」
私に気付いたリーネが一瞬で目の前に来た。瞬動という高速移動みたいな物らしい。
私はリーネにエヴァさんとの話を簡単に話した。
「私たちの事も知っちゃったんだね」
「本当の事なのか」
そう聞くとリーネは口を開いて鋭く尖った犬歯を見せた後にどこから取り出したのかナイフで自分の腕に思い切り刺して抜いた。血が流れるけど傷口はすぐに塞がった。
「やっぱり本当なのか」
私はため息を一つついて頭を抱える。
「やっぱり怖い?普通の人間じゃなくて人殺しの私たちが」
「......今日一日見る限りじゃそんなの分からねえよ。だからまじめに答えてくれ。なんで人を殺したのに笑ってられるんだ」
その感覚が私には理解できなかった。私だったら部屋にずっと引きこもると思う。なのになんで笑っていられるか理解できない。人を殺す事に喜んでいる様にも見えないし。
「......私は刹那と木乃香を助けれたからかな。私は三人の中で一番早く生まれて、いつか死んで逝くのを見届ける事になる。だからそれまでは私は二人を守りたい。二人が笑っていてくれる為なら私はどんな事でも出来る」
「辛くねえのかよ」
「生きている限り辛い事はいくらでもあるわ。だからこそ私は刹那と木乃香の辛い事を出来るだけ減らそうと思ってるの。長く生きる分、幸せな事も多いなら辛い事を少し位受け持ってあげたいと思ったから」
「それで良いのかよ。自分の為だけに生きた方が楽じゃねえか」
「楽だろうね。でもね、私が憧れるお父様とお母様はそうやって生きている。私は生き方に憧れてしまったの。呪いの様に憧れてしまった。お父様とお母様がその生き方を捨てない限り私は笑ってこの道を進んでいくわ」
その答えを聞いてリーネの覚悟の強さに納得してしまった。彼女は言葉の通りに笑ってこの道を進んでいくんだろう。それは誰にも止められない。彼女は大切な物の為なら辛くても笑って生きるのだろう。余裕が在ったらそれ以外の人にも手を差し伸べるのだろう。私にしてくれた様に。けれど、その笑っている顔にどこか影を感じた。
私はリーネ達の為に何か出来るのだろうか。用意された部屋のベットの上で私はずっと考えている。あの後、刹那と木乃香にも話を聞いたが返答は似た様なものだった。三人とも大切な人の為なら辛い事でも出来ると言った。けど私にはそんな事は出来ない。
色々と考えているうちにいつの間にか寝てしまっていたようだ。少し風に当たろうと外に出る。外に出るとリーネが私と話していた場所にまだいて、
泣いていた
私は咄嗟に隠れた。
リーネは声を噛み締めて静かに泣いていた。私は立ち去ろうとした。
「そこにいるのは千雨ちゃん?」
ばれてしまったので私はリーネの前に姿を現す。
「見るつもりは無かったんだがすまない」
「いいよ、別に」
そのまま二人で何も言わずに星を眺めていた。
「星がすごく綺麗でしょ」
「そうだな、今までそんな事思った事ねえけど」
「ダイオラマ魔法球、通称別荘って好きな様に作れるんだけど、ここの星ってお父様がお母様にプロポーズした時の星空なんだって」
「こんな星空の下でプロポーズとか羨ましいな」
「そうだね」
それから少しの間、雑談をした後はまた沈黙が訪れた。
何を話そうか悩んでいるとリーネの方から話し始めた。
「......昼間はあんなカッコイイ事言ってたけどね。本当はね、怖いんだ。笑ってないと自分が壊れそうで。覚悟はあるんだけど、それでも辛いことは辛い。
お父様にもお母様にも話してないけど、今でもあの時の、人を殺した時の夢を見るの。あの時、私は返り血を飲んでしまったの。そこから自分の部屋で起きるまでの記憶が抜けているの。お母様が言うには初めての吸血行為で興奮したからだって。その日からたまに吸血衝動に襲われる様になったの。さっきも千雨ちゃんの部屋まで行ってもう少しで千雨ちゃんの血を吸いそうになったの」
「もし、吸われていたら私はどうなっていたんだ。私も吸血鬼に」
「なってた。すぐに治せる軽度の吸血鬼化だけど確実に人外になってた」
「......そっか」
「ごめんね、こわい思いさせて。お母様に言って記憶を消してもらって、認識のずれもどうにかして貰って」
それだけを言うとリーネは走って何処かに行ってしまった。
そして走り去るリーネが震えていて涙が溢れているのを見た。
それを見て私はどうするかを決心した。
side out
side リーネ
千雨ちゃんの血を吸いそうになった事を話してから私はすぐに別荘の自分の部屋に引きこもった。そのまま千雨ちゃんとは会う事も無く、私は登校した。千雨ちゃんはまだ来ていないみたいだった。その事にほっとしている自分が嫌だった。
「おはよう」
「うん、おはよ......う」
挨拶をされたので相手を見ながら挨拶を返すとそこには眼鏡を外した千雨ちゃんがいました。
「どうかしたのか」
「千雨ちゃん、眼鏡はどうしたの」
「伊達だからな、別に無くても問題なんかねえよ」
「けど、急にどうしたの」
「決めたからな。私はリーネの傍にいるってな」
「それって」
「まあ、私はそっちの事に関わる気はないけど愚痴とか悩み位なら聞いてやれるからな」
「千雨ちゃんはそれでいいの」
「どうせ巻き込まれるんなら知識位は欲しかったしな。それに、その、なんだ......友達だろ」
「千雨ちゃん、うん、ありがとう」
「礼なんか良いよ」
私はこの日、友達が出来ました。
私は彼女の前でなら私は本当の自分を曝す事のできる。
彼女がいれば私は壊れる事は無いだろう。
side out
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